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「私のなかで驕りがあったかもしれません…」大手商社から来た3代目社長、入社時の演説を反省 その後、事業拡大に成功したのは

登記事務作業の省略化やファイリング業務など、固定資産税に関する各自治体・行政向けサービスを手掛ける「株式会社ダイショウ」(東京都中央区)。業界に吹く追い風を生かして事業拡大へとつなげている金ヶ江哲平代表取締役社長(42)に、事業承継を成功へと導くためのポイントについて語ってもらった。

業界について無知だからこそ謙虚な姿勢で社員をリスペクト

前職にて新規ビジネスの立ち上げで全国の農家さんを廻っていた時のお写真(写真提供:株式会社ダイショウ)

――会社を引き継ぐにあたって、苦労したことを教えてください

現場上がりで叩き上げの社員を中心に、どのようにして自分のことを認めてもらうか、自分についてきてもらうかというところが苦労した点です。

ダイショウでは、新卒で入社した層と叩き上げと呼ばれる層で大きく2つにわけられます。新卒で入社している層はおおよそ30歳前後で、基本的に私より年下です。

その方たちには、私がふんぞり返って偉そうにせず、真摯に仕事しているところをきちんと見てもらえればある程度認めてもらえるのではと考えていました。

一方で、現場上がりの叩き上げの社員はほとんどの方が私より年上です。そのため、立場は関係なく教えてもらう姿勢、謙虚な姿勢を強く示したつもりです。

――同じ会社の社員であっても、人それぞれ受け取り方は違いますよね。

私はこの業界について無知でしたし、どのようにして仕事を進めるかもわからない状態で入社しています。彼らは当然プライドと知識があり、しっかりと仕事をしています。

そこに対してはしっかりとリスペクトして、謙虚な姿勢でいろいろなことを教えてもらうスタンスでいました。そのうえで、私が知っていることは出し惜しみせずに伝えるかたちでコミュニケーションを取っています。

スピーチを通じて社員へ伝えたかった想い

――社長の息子として事業を継承する前提で入社された際に、社員の方からどのような見られ方をしていると感じましたか?

好奇の目で見られているな、とは感じました。社員は「2代目のボンボンが来る」という印象を持たれていたはずです。それなりにピカピカした経歴だと受けとられやすいので、社員からは「こいつは何をするんだろうな」みたいな目で見られていたように感じます。

――実際に社員の方からはどのように思っていたのかなど、聞かれたことはありますか?

入社した当初、社員の前で所信表明演説をしたことがあります。営業部長からはスピーチをしたあとで「激烈なワンマンのパワハラ社長が来たらどうしようかと思っていたのでホッとした」と、一言目で言われましたね。

――そのときは、どのような内容を話されたのでしょうか?

仕事とは「世の中の役に立つ」ことであり、この会社はそれができている会社だよという内容です。私の信念として「身近な人のため>世のため>自分のため」という話をしました。また、自分の仕事にプライドを持ってほしいとも話しています。
あとは、仲間にリスペクトを払ってほしいという内容ですね。社員が家族や友人に対して自慢できるような会社にしていきたいと話しました。

――なぜ、そのようなスピーチをされたのでしょうか?

いま考えると、私のなかで少し驕りがあったのかもしれません。三菱商事に勤めていた時は、上司は勿論、一緒に働く同僚や、取引先の方々からも強烈な自負とプライドを感じていました。一方で、ダイショウのみんなは、もしかするとこれまで一緒に働いていた人ほど、プライドは持っていないかもしれない、と当時は思っていました。

ところがいざ一緒に働いてみると、ダイショウの社員は一生懸命働く人間ばかりでさぼっている人は皆無ですし、頭の回転が早く、聡明な人も多い。何より誰もが自分事としてプライドを持って仕事に取り組んでいました。当時、このような考え方をしていた私は本当に生意気だったと感じますし、そこは大きな間違いでした。

とはいえ、自分の仕事にプライドを、仲間にリスペクトを、というのは若い時私の上司から頂いた言葉で、今でも自分の金言ですので社員のみんなには改めて伝えたいですし、プライドを持って、自分の仕事を家族や友人に伝えられるようになってほしいと思います。
また、私はこの会社に入ったときから、給与を上げたい気持ちが強くありました。父も同じ思いでいたようですが「業務内容は勿論、給与面や待遇面でも、もっともっと誇れる状態にしたい」という気持ちは今も変わりません。

社長として何をするべきか正しく判断することが大事

――事業承継を成功させるためのキーはどこにあるとお考えですか?

まず会社の状況を正しく把握することが大事なのではと考えています。仮に、いまの商品が徐々に頭打ちとなっているフェーズだったとします。もし、会社が新規商品を作らなければならない状況に置かれていたら、私に求められるアクションは違ったはずです。

また、新規事業を行う際に、すぐにうまく進むとも思いません。何回も失敗している間に求心力も落ち、社員や会社としてのベクトルがバラバラになる可能性もあります。

ありがたいことに、現状では弊社の事業に対してフォローウインドがものすごく吹いている状態です。このまま事業をドライブさせるためには、こちらがいろいろと口を出すのではなく、社員がもっとやる気になってもらえるような方向へ舵を取ったほうが良いと感じました。結果論ではありますが、それがうまくはまっているのではないかと思います。

――その考え方は、他の事業承継におけるケースでも当てはまりそうですね。

世の中は、弊社みたいに恵まれている会社ばかりではありません。置かれている状態を見誤ってしまうのは非常に危険です。状況を見て、何をするか正しく判断することが大事だと感じます。

――この先の展望を教えてください。

今の主力事業を最大限にまで拡大していくことがまずは第一です。自信を持ってお客様の役に立てるといえるサービスですので、これからも精力的に拡販に努めていきます。一方で、それ以外にも何か新しい取り組みができないかと考えています。

――具体的には、どのような事業を考えられているのでしょうか?

いわゆる自治体とのタッチポイントや契約、営業の仕方そのものがサービスにならないかと考えています。弊社の営業マンは現在10人ほどいるなかで、年間で自治体の担当者のもとへ足を運ぶ回数は合計で4,000回ほどあります。

最近は多種多様なイベントで、さまざまな会社と知り合う機会を意図的に増やしていますが、そこでのお話として、自治体向けにサービスを提供したいが、どのようにしたらいいのかわからないという方が結構いらっしゃることを知りました。

現状では「ダイショウが紹介する会社であれば聞いてみようかな」というふうに、既存のお客様だと、新規で営業をするよりも1個ハードルが下がります。これだけでもそれなりの価値があるのではと考えており、そのような事業をいくつか仕掛けていきたいです。

周りの力をしっかりと借りるべき

――事業承継を控えている方に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。

自分で判断することも必要ですが、周囲の力を借りていくことも大事だとお伝えしたいです。私のように、大企業から移ってくる方はさまざまな覚悟を持たれているはずです。一方で「案ずるより産むが易し」というように、心配ばかりしなくても大丈夫だと感じています。

自分が思っているよりも社員は一生懸命仕事をしており、さまざまな可能性を秘めていることは、私自身の過去を振り返った際に反省しているところです。奢らず、周りの力を借りながら進めていけばいいのではないでしょうか。

基本的に経営者は孤独ですし、最後は1人で決断をしなければなりません。一方で、そこに至るまでのプロセスは、周りの力をしっかり借りるべきだと思います。

事業承継を予定しているのであれば、その事業はそれなりにうまくいっているはずです。最終的な判断は自分でするとしても、社員の力や周りの環境など自分のこれまで培ってきたものをフル活用してやれば、きっとうまくいくはずです。

(取材・文/長島啓太)

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金ヶ江哲平氏プロフィール

株式会社ダイショウ 代表取締役社長 金ヶ江 哲平 氏

1983年、茨城県生まれ。大学を卒業後、三菱商事株式会社へ入社、米や青果物などを担当。2019年からは、営農支援アプリやオンライン米取引仲介サービスの運営を行うウォーターセル株式会社へ出向し、新規事業の立ち上げなどを経験。2022年に株式会社ダイショウへ入社し、2023年11月に代表取締役社長へ着任。全国200超の自治体でサービスの導入が進んでおり、固定資産税業務をはじめとする⾏政事務における課税の適正化と業務省力化の支援を手掛けている。

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