経営戦略Strategy

経営戦略

「冷凍ラーメン自販機」「ラーメン缶詰」全国シェア1位の製麺会社 ITベンチャーから家業に戻り、次々に新領域に切り込む3代目の視点とは

「斜陽」とされる製麺業界に、これまでにない領域に挑む企業がある。創業から60年以上続けてきた製麺事業に加え、冷凍ラーメン自販機やらーめん缶で全国シェア1位を獲得している「株式会社丸山製麺」(東京都大田区)。移り変わりが激しいIT業界から家業に戻り、さまざまな挑戦をしている3代目の丸山晃司取締役(38)に、事業承継を成功へと導くポイントについて聞いた。

会社の歴史の重みと職人へのリスペクト

丸山さんとスタッフのみなさん(写真提供:株式会社丸山製麺)

――事業に携わるうえで、取締役の立場として「守るべき伝統」は何でしょうか。

製造ラインや職人さんへのリスペクト、会社としての歴史は守っていくべきだと考えています。

現在は50人ほどの会社ですが、そのうちの7割ぐらいは製造に携わるスタッフです。職人さんの存在や会社の長い歴史は、思っている以上に大きな価値があると感じています。

私は、前職で営業をしていました。デザイナーやエンジニアの方と一緒に働いていましたが、私は制作業務ができません。なので、私とは違い「作ることができる人」に対する凄さを感じており、以前からリスペクトしています。

私自身、いまある製造ラインをすべて機械化するなどして、効率化を図ろうといった考えは全くありません。70年目を迎える歴史や職人さんの存在は、スタートアップ企業では決して超えられない壁です。なので、ここはしっかり守っていきたいと考えています。

――反対に変えるべき部分でいくと、どのようなところだとお考えですか。

いまのプロダクトに加えて、相乗効果のある別事業をつくるなどの積み重ねによる売上の最大化は進めていきたいです。

どの事業においてもプロダクトサイクルがあり、成長期や成熟期を経て必ず衰退期が訪れます。プロダクトによって差はありますが、製麺業は70年間同じプロダクトで続いている状況です。

一方で、以前に私が勤めていたIT業界の場合、1、2年で状況が変わります。そのような環境に長くいたことで、新規事業をやっていないことに対して非常に不安を感じるのが正直なところです。

なので、いまの事業を潰すとかではなく、アドオンで類似の事業みたいなところを積み上げていきたいと考えています。

事業承継と事業開発はセット

常温の缶詰「らーめん缶」(写真提供:株式会社丸山製麺)

――ご自身の経験から「事業承継を成功させるために最も大切だ」と思うポイントを挙げるとしたら、どのようなことだとお考えですか。

どのような業界においても新規事業が非常に重要であり、事業承継を成功させるポイントではないかと信じて取り組んでいます。

既存事業自体は、どのような業界においてもいつかは縮小するはずです。なので、事業承継と事業開発はセットでやらないとキツイというのが私の考えです。

――新規事業が必要だとわかっていながら、何かしらの理由で進められていない方もいると思いますが、どのような意識で取り組めば良いとお考えですか。

新規事業に関して、大きく捉え過ぎているのではないでしょうか。多くの方が、世の中を変えるものに対して新規事業と呼んでいるのですが、そのように考える必要はないと感じています。

少し目先が違うことであれば、それは新規事業です。極端な話、プレスリリースを百個打てるようにするというのも1つの考えです。

――事業を拡大していくうえで、今後の展望をお聞かせください。

事業を拡大していくにあたって新規事業をやり続けなければならないので、いまもいろいろなことを仕込んでいます。やはり日本初とか、自分たちが独占できるような市場を狙っていきたいですね。

個人的に、中小企業の勝ち方はニッチ戦略だと考えています。ニッチなところで1位になり、展開しながら進んでいくイメージです。

ヌードルツアーズという冷凍ラーメン自販機の事業も、冷凍ラーメン領域であれば大手企業が数多くいます。しかし、冷凍ラーメン「自販機」においては、丸山製麺がシェア1位です。なので、冷凍ラーメン自販機1位の会社の商品を、例えばスーパーで売るといった戦略です。

そして、冷凍ラーメン自販機のシェア1位の企業がいまでは常温で缶詰をやっています。らーめん缶の領域に関して、他に取り組んでいる企業はないので、こちらも丸山製麺がシェア1位です。

これらのマーケットボリュームはそこまで大きくありません。最大でも数億円のマーケットボリュームなので、中堅どころか大手企業は基本的に参入しません。なので、このあたりのマーケットを狙っています。

――そのほかに、現時点で考えられている戦略はありますか?

あとは、海外展開ですね。私は、幸運にもたまたまラーメンという日本を代表するコンテンツの領域に身を置いています。なので、このラーメンというコンテンツを何かしらの方法で海外に展開していきたいと考えています。

食品という分野の事業開発からは逃げない

株式会社丸山製麺 取締役 丸山 晃司 氏

――会社としてだけでなく、個人として今後の展望はいかがでしょうか。

ビジネスにおいて、前職の強みをすべて生かしていくつもりで打ち込んでいきたいです。現在取り組んでいる事業に関して、製麺屋とラーメン屋のどちらなのかと聞かれたら、正直なところ曖昧かもしれません。

ただ、食品という分野の事業開発からは、逃げないようにしています。麺×事業開発という点で、今後も挑戦を続けていきたいです。

――冷凍ラーメンやらーめん缶といった領域で新たに需要を生み出しているという意味では、丸山さんの知見はこの業界だけでなく、多くの領域で生かせるように感じます。

そうですね。そういった意味では、社外取締役のようなかたちで、他の企業と接点を持てたらいいなと考えています。

例えば、レガシーな業界においては、コンサルティングなどの業種を嫌がる方も多くいらっしゃいます。その点で、私の場合はメーカー側にいるので、求められることがあればその経験を活かしつつコンサルティングすることが可能です。

メーカーにいながら新規事業を数多く行っている経験は差別化ポイントになるので、製麺業界に限らずお力添えできることがあればいいなと考えています。

――事業承継を控えている方に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。

事業承継は「案外面白いよ」とお伝えしたいです。特に3代目や4代目の方の場合、事業継承を考えているのであれば、それなりの規模であるはずです。

人によっては、家業を継ぐことに対してネガティブなイメージを持っている方もいるのではないでしょうか。なぜなら、すでに会社が存在しているので、社長の姿から自分の将来を想像しやすいからです。

私も家業に戻った際は、似たような考えを持っていました。しかし、製麺屋に戻ってきてから、いまでは缶詰の領域に取り組んでいます。このギャップは、非常に大きいものだと感じています。

また、私自身、思っている以上に会社の伝統はビジネスにおいて強いことを実感しました。なので、事業承継の良い面を利用しながら、新規事業も取り組むなどすれば案外面白い世界だよと伝えたいですね。

(取材・文/長島啓太)

この記事の前編はこちら

丸山晃司氏プロフィール

株式会社丸山製麺 取締役 丸山 晃司 氏
1987年、東京都生まれ。大学を卒業後、株式会社VOYAGE GROUP(現:株式会社CARTA HOLDINGS)へ入社し、セールスや新規事業の立ち上げを経験。2018年に株式会社丸山製麺へ取締役として入社。全国にある有名店のラーメンを味わえる冷凍ラーメン自販機「ヌードルツアーズ」を立ちあげる。他にも、らーめん缶の開発など、これまでの製麺事業だけでなく新たなマーケットの開拓を続けている。

FacebookTwitterLine

\ この記事をシェアしよう /

この記事を読んだ方は
こちらの記事も読んでいます

経営戦略

「継ぐのが当たり前だと思っていた」のに高校1年で家出 卵不使用にこだわった製麺技術を受け継いだ3代目の覚悟

経営戦略

「豆腐がメインディッシュ」3000円のコースが人気 元運輸省の官僚が継いだ「実家の豆腐店」が、佐賀の食文化をけん引していく

経営戦略

「JAに卸す野菜を勝手に持っていくな!」父や親戚にドン詰めされても、新たな「農業ビジネス」を拓いた元DJの12代目農家 「くるくるやっほー」という謎の社名とは

記事一覧に戻る

賢者の選択サクセッション 事業創継

賢者の選択サクセッションは、ビジネスを創り継ぐ「事業」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。

フォローして
最新記事をチェック