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事業譲渡の相場とは? 企業価値の評価、算定方法をまとめて解説!

事業譲渡によって事業承継が行われる際、企業価値はどのように評価されるのでしょうか。企業価値の評価方法はさまざまあり、関わる要素も多くあります。そのため、事業譲渡を行う際は、相場や仕組みについて把握しておかなければなりません。この記事では、事業譲渡のメリットやデメリット、企業価値相場や評価の仕組みを徹底解説するとともに、算定方法や高値が付くケースも紹介します。

事業譲渡(事業売却)とは?

まずは、事業譲渡(事業売却、会社売却)の仕組みや取引双方の目的、メリットを見てみましょう。併せて、取引価額が決まる仕組みも紹介します。

事業譲渡の目的、相場

事業譲渡は、親族や従業員へ承継を行わない時の選択肢とされるのが一般的です。事業譲渡には「一部譲渡」「全部譲渡」の2種類あり、工場設備や在庫、不動産など企業が保有する有形資産と従業員(社員)やノウハウ、取引先との関係など無形資産を譲渡します。一部譲渡では譲渡益を債務返済に充当でき法人格も残せるため、譲渡後もこれまで通り事業を継続できます。一方、全部譲渡は保有する事業のすべてを譲渡する方法です。全部譲渡でも法人格は残せたり、得られた譲渡益を活用し新規事業に充てられたりします。
その他、売り手側と買い手側は一般的に次のような目的で事業譲渡を行います。

売り手側の目的
・事業が継承されることで後継者問題解決、人材不足の解消
・廃業や倒産の回避
・従業員の雇用環境を確保
・経営資源を主力事業に集中させるため、非主力事業や不採算事業の売却
・譲渡による譲渡利益の獲得

買い手側の目的
・事業に関係した人材やノウハウ、取引先や顧客の獲得
・負債を引き継がないよう選別しつつ事業を譲り受けられる
・事業拡大を狙い新規事業への低コスト、低リスクでの参入

事業譲渡取引は、事業価額相場を正しく見積もることが不可欠です。相場には、事業そのものだけでなく地域や取引先、財務状況の他、従業員や経営者などの人的資源も加味される点に注意しましょう。「事業譲渡における企業価値の算定方法」で詳細は解説しますが、複数ある評価方法を取引対象の性質に合わせて採用するのがポイントです。

事業譲渡のメリット・デメリット

事業継承を行う方法は、事業譲渡以外にも株式譲渡や会社分割という方法もあります。これらの方法との違いも検討しつつ、次のようなメリットとデメリット(対価)があることを押さえておきましょう。

事業譲渡のメリット(一部事業のみを譲渡する場合を含む)
・譲渡による利益で事業拡大や新規ビジネスも可能となる
・法人格の維持できる
・後継者問題を解決できる
・譲渡後に必要な人材やリソースを確保できる
・譲渡利益を活用し別事業への投資、採算事業にリソースを分配できる
・対象事業が絞られることで、譲渡先が見つけやすい

事業譲渡のデメリット(一部事業のみを譲渡する場合を含む)
・売却側に対する一定期間の事業制限「競業避止義務」が発生する
・取引双方に税金が課せられる
・譲渡対象の従業員(社員)とは個別の契約承継手続きが必要
・資産や負債、人材、契約締結に関して個々に契約移転承認作業が必要
・事業譲渡の決定に株主総会の特別決議も必要
・事業譲渡契約だけでは債務が引き継がれず、負債が残る恐れ
・譲渡前に現在の取引先から事業譲渡承認を受ける必要がある
・取引成立までに3ヶ月~12ヶ月ほど時間がかかる

事業譲渡で子会社化、合併することによって利益や売上がプラスとなるシナジー効果が見込めます。売上や知名度が上がるとノウハウや技術が共有され、新たなサービスや新商品が生まれるきっかけづくりにもなります。

事業譲渡における企業価値の算定方法

企業価値の算定、つまり企業価値評価(バリュエーション)には次のような種類があり、それぞれ次のような計算方法が用いられます。

・インカムアプローチ
「DCF法」「収益還元法」「配当還元法」などを用いて評価を行う、最もポピュラーな手法です。事業譲渡に限らず、事業投資や金融機関の貸倒リスク予測にも用いられます。

収益還元法=フリーキャッシュフロー(FCF)x還元率

・コストアプローチ(ネットアセットアプローチ)
主に中小企業の事業譲渡時、企業の純資産に注目して株式評価を行います。評価の際に用いられるのは「簿価純資産法」「時価純資産法」「営業権(のれん代)や知的財産を加味した方法」などです。

・マーケットアプローチ
市場と企業や業界を比較して企業価値を行います。上場企業ならば株価ベース、非上場企業では数値化された企業価値の数値に一定の率を乗じて算出するのが通例です。「マルチプル法(類似会社比較法)」「市場株価法」「類似取引比較法」「類似業種比較法」などを用いて評価を行います。このうち、類似取引比較法は評価の主流であり、EV/EBITDA倍率と呼ばれる計算式を用います。

EV/EBITDA倍率=企業価値÷EBITDA
企業価値=株式価値+有利子負債-現預金

また、譲渡価額を簡易的評価する方法もあり、事業時価純資産+営業権(のれん代)から算出可能です。この計算式には、対象事業の時価純資産の収益力が反映された営業権(のれん代)が加味されています。のれん代は、いわばブランド力のような無形資産を指します。

事業譲渡と企業価値評価の関係性

譲渡取引の価額(価格)は、対象事業の企業価値評価(バリュエーション)によって決まります。ここでは、事業が評価される仕組みや高値が付くケース、事業価値を決める評価の注意点をお伝えします。

企業価値評価(バリュエーション)の仕組み

バリュエーションは「企業価値評価」を意味しており、企業の株価や利益、資産状況に注目し、評価項目ごとに評価を数値化したものです。つまり、対象企業の経済的な価値を金額に換算する評価を指します。バリュエーションを行うことで、譲渡対象企業の事業を総まとめにして価値を決定できます。また、ステークホルダーからの訴訟リスク回避のために行われるケースもあるようです。

企業価値に高値がつくケース

企業価値(バリュエーション)について、高値が付くケースには次のような共通点があります。

・対象事業の営業利益や収益性が高く、買収後将来的な収益に可能性がもてる
・同業他社との差別化できる強みがある
・経済基盤が安定しており、対象企業を取り巻く財務状況が透明化されている
・余剰資産がなく、投資効率が高い

・業種
買い手や事例が多い「調剤薬局」「ITソフト開発」「ビルメンテナンス」、売り手が少ない「化学系」「医療系」の業種。

・地域
東京といった都市部に拠点があり、対象事業の企業本社と買い手の拠点が同一である。

・取引
「地理」「人的」「技術」の要素で代替がきかず、希少性がある事業。または、大手でも新規獲得が困難な取引先。

・財務状況
高収益でB/S(貸借対照表)における現金と借り入れ双方が少ない。

・売上、投資額
「10億円以上の売上」や「自己資金ベースで1億円以上の投資額」がある。

事業譲渡、企業価値評価に関する注意点

事業譲渡取引や企業価値評価の内訳は複雑な要素が絡んでいるため、譲渡取引や企業価値評価には案件ごとに多くの注意点があります。売り手側と買い手側は双方、契約を行う前に必ず以下の内容について確かめるようにしましょう。従業員も譲渡対象の場合、運営元が変わるとなれば不安が伴うのは当然です。そのため、本人と相談の場を設け希望に沿った譲渡が行われるような配慮も忘れてはいけません。買い手側に関しては、簿外債務(賃借対照表に記載されていない買掛金や引当金)の有無も慎重に見極める必要があります。

事業譲渡の主な注意点
・従業員の処遇(賃金や就労条件)の明確化
・譲渡先企業へ譲渡する資産の範囲の明確化
・商号や屋号の引継ぎに関して免責登記実施可否を明確化
・許認可対象事業の認可消滅への対策
・譲渡により取引双方に課税される税金(消費税など)や手数料、費用対策
・買い手側の場合、売り手側の簿外債務の引継がないよう注意

企業価値評価の主な注意点
評価には、少なからず評価担当者の主観が加味されることがあります。特に、インカムアプローチでは、企業価値の評価が評価者の恣意的な結果とならないようにしましょう。評価をそのまま価額に反映させないことが大切です。
また、評価に関わる要素は多岐にわたるだけでなく、さまざまな算出方法があるため、評価は譲渡取引の売り手側と買い手側で一致しないケースもあります。公正なバリュエーション結果を導くためにも、複数の評価方法を試してみましょう。

まとめ

事業承継の実現のため、事業譲渡はよく用いられる手法です。事業譲渡を行う際は、譲渡側と譲受側双方が円滑に取引を行うために、丁寧な交渉や対象事業の公正な評価、譲渡範囲で行いましょう。また、譲渡により発生する税金や協業事業制限などにも十分な対策が必要となります。
どのような方法で事業承継を行う場合にも、譲渡金額や事業譲渡の手順・仕組みをよく理解し、余裕をもって準備することが大切です。事業承継の流れやポイントに関して、過去記事で解説を行っています。ぜひ、本記事と併せて過去記事も参考にしてください。
「事業承継の流れを7つステップで解説!」

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賢者の選択 サクセッション編集部

賢者の選択サクセッションでは、⽇本経済の課題解決と発展のためには、ベンチャー企業の育成と併せて、これまでの⽇本の成⻑を⽀えてきた成熟企業∕中堅‧中⼩企業における事業承継をフックとした経営資源の再構築が必要であると考えています。 ビジネスを創り継ぐ「事業創継」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。 絶対解の存在しない事業承継において、受け継いだ経営者が事業を伸ばす きっかけとなる知⾒を集約していきます。

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