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借入を後継者に引き継ぎたくない……。知っておくべき「借入金対策」とは?

事業承継を考えている経営者のなかには、「借り入れがあるが、後継者がすべて引き継ぐことになるのか?」と疑問をお持ちの人も多いでしょう。なかには、「後継者に借入金を引き継いで苦労させたくない」という思いから事業承継を断念してしまうケースも。そこで本記事では、借入金がある状態で引き継いだらどうなるのかと、今からできる借入金対策を解説します。

借入金は事業承継したらどうなる?

事業承継では、経営権や株式といったプラスの資産だけでなく、借入金というマイナスの資産も引き継ぎます。これは親族内承継でも、親族外承継、M&Aでも同様です。

これは事業承継にマイナスの影響をもたらす可能性が高いものです。後継者候補がいたとしても、借入金がある状況を知って事業承継を辞退するかもしれません。

実際、中小企業庁の「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策について」によると、「後継者候補はいるが、承継を拒否」のうち、なんと59.8%が「個人保証を理由に承継を拒否」しています。

また、承継後も負債は精神的な重荷になります。もし返済が困難になった場合、資産(土地や建物など)の売却を行い、それでも返済ができなくなれば廃業・倒産の危機に陥ります。

借入金だけでなく連帯保証も引き継ぐことになる?

金融機関から借り入れをしている場合、経営者が連帯保証人なっているケースが多いのですが、この連帯保証(経営会者保証)も後継者に引き継がれます。

ただし、この場合の連帯保証は「変更」ではなく「追加」となります。したがって、後継者が連帯保証人になったとしても、先代経営者がすぐに連帯保証から抜けられるわけではありませんので注意しましょう。

この理由としては、金融機関はあくまで「先代経営者」に融資をしたのであり、若くて信用のない(そして個人資産を十分に持たないケースが多い)「後継者」に保証人を変えるのはリスクが高いと考えるからです。したがって、「何の対策もしなければ、承継後も先代経営者は連帯保証人という立場から逃れることができない」といえます。

とはいえ、この連帯保証の解除が不可能かというと、そんなこともありません。

後継者に連帯保証人を引き継がせず、先代経営者も個人保証を解除する方法、それが「経営者保証に関するガイドライン」の利用です。

「経営者保証に関するガイドライン」については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「事業承継の際、経営者の「個人保証」は解除できるのか?」

事業承継までに実践すべき「借入金対策」

今すぐできる「借入金対策」としては、以下の4つが挙げられます。

1.資金繰りを改善させる
2.役員借入金を減らす
3.相続放棄を検討してもらう
4.M&Aで事業譲渡する

それぞれ見ていきましょう。

①資金繰りを改善させる

財務状況を改善できれば、後継者の負担軽減につながりますし、金融機関との交渉もしやすくなります。

売上原価や人件費、取引先の選定基準の見直し、遊休資産の売却などによって無駄を削減することはもちろん、広報・PR、マーケティング、人材育成・採用など、会社の価値をより高めていく戦略も求められます。

②役員借入金を減らす

役員借入金とは、「役員の個人資金を法人に貸し付けた資金」のこと。金融機関から融資を受けると当然利息が発生しますが、役員借入金の場合、その役員が承認すれば無利息・無担保・長期でお金を借りることができます。

ただし、役員退職金は相続税の対象となるため、多額の場合は後継者の大きな負担になってしまいます。

役員退職金を削減する方法としては、主に以下の3つが挙げられます。

・DES(Debt Debt Swap/デット・エクイティ・スワップ)の活用
・役員報酬を減額し、その分で借入金を返済
・暦年贈与
・債務免除

それぞれの詳しい解説は、こちらの記事からお読みいただけます。
「事業承継で「役員借入金」がリスクになる理由と解決策」

③相続放棄を検討してもらう

通常、相続による事業承継の場合、先代経営者が亡くなり相続が発生すると、相続人全員で遺産分割協議を行うのですが、借入金などの債務は遺産分割の対象外となります。

債務は平等に引き継がなければならないため、事業資産を後継者が引き継ぎ、他の相続人は債務だけを引き継ぐことになる恐れも。こうなると、後継者以外の相続人から不満が出ることになるでしょう。

そこで、プラス財産よりも債務が多いようなら、相続放棄を検討するもの一手です。相続放棄は、裁判所に必要な書類を提出することで認められます。

④M&Aで事業譲渡する

借入金などの負債が資産の総額を上回る「債務超過」の場合、通常の方法では債務を切り離すことができないため、「M&Aによる事業譲渡」という方法をとることが有効です。

事業承継後も収益力が期待できる事業のみを切り分けで分社化することで、負債返済の負担を軽減できます。負債が軽くなれば事業展開をしやすくなりますし、会社の財務状況が改善されれば、事業承継を機に新融資を受けることができるかもしれません。

まとめ

多額の借入金を残したまま事業承継するのは、後継者にとって大きな負担となります。事業承継を考え始めたのなら、本記事で紹介したような対策を講じることが大切です。どの方法が最も適切なのかは会社によって異なりますので、専門家に相談のうえ取り組むようにしましょう。

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賢者の選択サクセッション編集部

日本の社会課題である事業承継問題を解決するため、ビジネスを創り・受け継ぐ立場の事例から「事業創継」の在り方を探る事業承継総合メディア「賢者の選択サクセッション」。事業創継を成し遂げた“賢者”と共に考えるテレビ番組「賢者の選択サクセッション」も放送中。

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