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事業承継で自己株式を活用するメリットは?

「自己株式」とは自社の株式のことで、かつて日本では、自己株式の取得は「禁じ手」とされてきました。ところが近年は、特に中小企業で自己株式を取得する動きが見られます。本記事では、事業承継において中小企業が自己株式取得を実行するメリットや上手な活用法、注意点を解説しましょう。

自己株式を取得する目的は?

2000年代以前は、「株価操作の可能性がある」という理由から、自己株式の取得は法律で禁じられていました。しかし、大企業の組織改編や統廃合がさかんに実行されはじめた2000年代に入り、会社が自己株式を取得することで会社同士の合併やM&Aがより加速するという点が注目され、順次法改正が実施されて自由化されました。M&A件数は近年ますます増加していますが、この要因のひとつに、この自己株式の取得が簡易になったことがあります。

事業承継において自己株式を取得する3つのメリット

それでは、多額の資金を調達してまで、自己株式を取得するメリットはどこにあるのでしょうか。

ポイント① 株式の分散を防ぐ!

法定相続人が複数いて、株式が分散されたまま後継者に引き継がれた場合、経営権を集中できなくなるという問題が発生します。その対策として、後継者以外の相続人から株式を取得して「金庫株=会社が市場に流通する自社の株式を買い戻し、消却せずに資産として保有する自己株式」にすることで、後継者の株式保有率を上げることができます。

ポイント② 相続税の納税負担対策に!

非上場企業の事業承継では、納税資金を確保しづらいことが問題視されています。後継者は、相続した自社の株式の一部を会社に買い取ってもらって金庫株とすることで、譲渡代金を納税に充てることができます。

ポイント③ M&Aの対価にできる!

まとまった資金が必要なM&Aでは、自己株式を現金に代わる対価として活用することができます。自己株式を売主に譲渡することで、M&Aを成立させることが可能であり、ほかにも敵対的買収を防ぐなど、さまざまなメリットがあります。

自己株式を取得するときの注意点は?

収支計画を立てずに自己株式を取得してしまうと、資金繰りの悪化を招くことになります。業績が好調で企業価値が高まっている場合、自己株式の取得に高額な資金が必要になる場合もあるので、収支計画は綿密に立てる必要があります。

また、株式の取得方法も複雑で、たとえば非上場企業の中小企業の場合、株主から直接買い取るしか方法がありません。

ほか、売り手と買い手が当事者同士で行なう「相対取引」では、すべての株主から買うケースと特定の株主から買うケースがあります。すべての株主から買う場合は株主総会の多数決で可決され、特定の株主から買う場合は株主総会で3分の2以上の賛成が必要であることも、覚えておきましょう。

法的な2つの注意点

自己株式の取得に際しては、株主への公平性を保つために、ほかにも株を売りたい株主がいないか追加請求を全株主に通知する法的な義務があります。自己株主を取得すると、「みなし配当課税」が生じる可能性があります。「みなし配当課税」とは、会社に株式を売却した場合に発生する課税で、「みなし配当」として総合課税(最高約55%)される部分と「株式譲渡損益」として申告分離課税(約20%)される部分に分かれて請求されます。

ただし、相続税の申告期限から3年以内に売却した場合は「譲渡所得」としてのみ課税され、取得費加算の適用もあるため税負担はかなり軽くなります。

まとめ

事業承継を有利に進めるためには、自己株式の取得が有効な手段となりえますが、デメリットがないわけではありません。内容が複雑ですので、事業承継の専門家に相談しながら進めることをおすすめします。

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賢者の選択 サクセッション編集部

賢者の選択サクセッションでは、⽇本経済の課題解決と発展のためには、ベンチャー企業の育成と併せて、これまでの⽇本の成⻑を⽀えてきた成熟企業∕中堅‧中⼩企業における事業承継をフックとした経営資源の再構築が必要であると考えています。 ビジネスを創り継ぐ「事業創継」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。 絶対解の存在しない事業承継において、受け継いだ経営者が事業を伸ばす きっかけとなる知⾒を集約していきます。

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