COLUMNコラム

TOP 人事戦略 避ける人多数!?  「娘婿」に事業承継する際の注意点
H人事戦略

避ける人多数!?  「娘婿」に事業承継する際の注意点

経営者自身に息子がいない場合、「娘婿」に事業承継する中小企業も少なからず存在します。しかし後継者を娘婿にする場合、子どもや従業員と違いさまざまな注意点があるため、慎重に進めなければなりません。本記事では、娘婿に事業承継をする際のデメリットと税務上の取り扱いについて解説します。

「娘婿」への事業承継で知っておくべき注意点

娘婿を後継者に選ぶことのデメリットとして、以下の3つが挙げられます。

①「相続時精算課税制度」の適用外である

親族内承継の場合、生前贈与(経営者が存命中に自社株を後継者に贈与すること)が行われるケースが一般的です。生前贈与には「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」があり、これらを活用することで贈与税は非課税になります。暦年贈与は、簡単にいうと「年間110万円以内の贈与なら贈与税が非課税になる」という制度です。

一方の「相続時精算課税制度」とは、「60歳以上の贈与者が、20歳以上の子または孫に対して、2500万円までの生前贈与をまとめて非課税にするが、贈与した人が亡くなったときは、贈与した財産分も合わせて相続税を納税する」という制度です。この2つのうち、「暦年贈与」は娘婿も適用対象ですが、「相続時精算課税制度」の対象は直系卑属だけのため、娘婿は適用対象外です。延納も控除も利用できなくなるため、その分税負担が大きくなり、承継後の経営にダメージを与える可能性もあります。

なお、生前贈与のメリットはこちらの記事で詳しく解説しています。
「相続税対策だけじゃない! 「生前贈与」で事業承継を行なう3つのメリット」

②相続税が2割加算される

娘婿は血のつながった家族ではないため、義理の息子といっても直系卑属とはみなされず、相続の権利もありません。被相続人でなくとも自社株を承継することは可能ですが、その場合「相続」という形式ではなく「遺贈(遺言によって財産を分け与える行為のこと)」という方法をとることになります。

事業承継における遺言の活用方法は、こちらの記事で詳しく解説しています。
「事業承継で絶対に欠かせない「遺言」の活用術」

ただし遺贈の場合、法定相続人である親族以外である娘婿は、相続税額が2割増になります。これを「相続税の2割加算」と呼びます。

【相続税の2割加算】
相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人が、被相続人の一親等の血族(代襲相続人となった孫(直系卑属)を含みます。)及び配偶者以外の人である場合には、その人の相続税額にその相続税額の2割に相当する金額が加算されます。
引用元:相続税額の2割加算|国税庁

③従業員からの反発を招く恐れがある

昔から働いている従業員がいる場合、経営者に息子がいないことを知っているため、「自分が後継者に選ばれるかも……?」という期待を持っていることが少なからずあります。しかし、そこで娘婿がいきなり後継者候補として登場したらどうなるでしょうか。古参社員が反発し、内部分裂が生じるかもしれません。こうしたリスクを回避するためには、「娘を社長にして、娘婿は経営のサポート役として会社に加わってもらう」「早い段階から娘婿を従業員として迎え、中長期的な信頼関係を築いてもらう」といった方法をとるのが有効です。

「娘婿」に事業承継する際のポイント

娘婿に事業承継すると、税制などのメリットがまったく受けられないわけではありません。ただし、以下のポイントをおさえておく必要があります。

1.養子縁組にする
さきほど「娘婿は直系卑属ではないため、相続税負担が大きくなる」と書きましたが、このリスクは養子縁組にすることで解決します。娘婿を養子縁組することで相続時精算課税制度が活用できますし、相続税の2割加算も適用外となります。

2.事業承継税制を活用する
中小企業の事業承継で利用検討すべき制度のひとつとして「事業承継税制」があります。事業承継税制とは、一定の要件を満たすことで、先代経営者から自社株式や事業用資産を後継者が引き継ぐときに発生する相続税や贈与税の負担が猶予、あるいは免除される制度です。事業承継税制は2009年度(平成21年度)に導入されましたが、当時は「贈与者または被相続人の親族であること」が後継者の条件でした。しかし2018年度の税制改正により、「親族(6親等以内の血族・3親等以内の姻族)」が対象となっています。このため、娘婿は養子縁組をしていない場合でも「3親等以内の姻族」として親族に該当し、事業承継税制の恩恵を受けることができます。

なお、この制度の適用期間は、2018年(平成30年)1月1日から、2027年(令和9年)12月31日の10年間限定です。事業承継税制を受けるためには、2024年(令和6年)3月31日までに特例承継計画を策定し、都道府県知事に提出たうえで認定書を受領しなければなりませんので注意しましょう。

事業承継税制における適用要件、手続きの流れは、こちらの記事で詳しく解説しています。
「事業承継で相続税が免除になる方法!――5分でわかる「事業承継税制」の仕組みとポイント」

まとめ

娘婿への事業承継では、周囲はもちろん、娘婿本人もさまざまな苦悩や葛藤、プレッシャーを抱えているはずです。事業承継を成功させるためには、税金での対応策をとるだけでなく、経営者や家族が寄り添ってあげる姿勢が重要です。

FacebookTwitterLine

賢者の選択サクセッション編集部

日本の社会課題である事業承継問題を解決するため、ビジネスを創り・受け継ぐ立場の事例から「事業創継」の在り方を探る事業承継総合メディア「賢者の選択サクセッション」。事業創継を成し遂げた“賢者”と共に考えるテレビ番組「賢者の選択サクセッション」も放送中。

記事一覧ページへ戻る