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「30年やってきた。週1回でいいから働かせて」 元経営者のベテラン女性と一緒に歩んだ、若者向け美容室の「成功した事業承継」

血縁関係のない人間が店舗や事業を引き継ぐ「第三者承継」によって、東京都世田谷区を中心に美容室やネイルサロン、焼き肉屋など多角的展開を進める「株式会社ANLOOP」 (同区)。世田谷で愛される店舗経営を続ける清水昭博代表取締役(48)に、第三者承継を成功させるポイントについて聞いた。

美容室から焼き肉へ

再建前の美容室内観(写真提供:株式会社ANLOOP)

――世田谷エリアでの多角経営がうまく進んでいるのはなぜでしょうか。

粗利ミックスという戦略です。美容師が単価を上げようとする場合、施術以外ではどうしてもワックスなどの販売がメインとなります。しかし、お客様に来店いただけるのは多くても月に1回程度です。これは、ネイルサロンも同様です。

一方で、焼き肉屋の場合、美容室に比べて粗利が非常に高くなります。美容室は集客にホットペッパーを利用します。仮に、1人当たりの獲得単価が2,000円だとしましょう。そこで、2,000円で来てくださったお客様に焼き肉屋のクーポンを配ります。

焼き肉屋の場合、1組当たりの人数は平均で2.5人と言われています。ですので、2,000円で美容室へ来てくださったお客様が、施術だけでなく自社で運営している焼き肉屋を利用してくださることで粗利が高くなるのです。

――多角経営ならではの難しさを教えてください。

自分が経験のない業種で、店舗を新たに運営する際は難しさがありました。私はもともと美容師でしたので、飲食店の経営に関する知識はありません。

新しく店舗を立ち上げる際は、経験がある店長を採用します。しかし、多くの方はあくまで「店長」でしかなく「経営者」ではありません。来ていただく方は、実績があるのは事実なのですが、前のお店での経験にとらわれすぎてしまうことがあります。

――具体的にはどのような問題が発生したのでしょうか。

売上が伸び悩んでいる際に、私がユーザー目線から提案しても「あなたは経験がないでしょ?」と、マウントを取られてしまうことがありました。

しかし、売上がついてきていないため、店長自身も困っている状況です。店長は売上が伸びずに困っているなかで、私のような人間から口出しをされるので、「嫌なら辞めますよ」と脅されることもありました。

美容室の新店舗であれば、私も美容師としての経験があるのでこのようなことはないのですが、飲食店のときなどはコミュニケーションに苦労しましたね。

――そのような事象が起きているなかで、どのようにして解決されていったのでしょうか。

とにかく、対話です。華々しいことをしていたわけではなく、泥臭いことをしていました。

最初に取り組んだのが、とにかく1人ずつとコミュニケーションを取ることです。基本的には純粋な方が大半なので、1対1で話すとこちらの意図を理解してくださいます。1人ずつと対話し、こちらの想いを伝えていくことでコミュニケーションを取りました。

想定していなかった「喜び」と「成功」

再建後の美容室内観(写真提供:株式会社ANLOOP)

――ANLOOPのような第三者承継を成功させるために「最も大切だ」と思うポイントを挙げるとしたら、どのようなことだとお考えですか。

相手を敬うことではないでしょうか。世田谷で1店舗目の美容室をオープンする際も、前の方が経営していた店舗を引き継ぎました。もうすぐ辞めるという話だったのですが、新たに改装する際に内装の寸法を知る必要があり、営業中にお店へ伺うことがありました。

実際に足を運んだとき、その店舗の女性から「30年やってきたから、週に一回でいいから働かせてくれないか」と、相談を受けたのです。

それまでは、もとのお店で働いていた方と一緒に仕事をする発想はありませんでした。でも、辞めるとはいえ「お客様も困るのでは」と考え、軽はずみに「いいですよ」と返事をしたのです。

――たしかに、若者向けの店舗をオープンする予定だったのであれば、年齢が上の方と一緒に働くことは想定外と言えるかもしれませんね

ですが、結果的にやって良かったなと感じました。なぜなら、もともと女性の美容室へ通っていたお客様が非常に喜んでくれたのです。

新店舗のターゲットは大学生だったため、顧客層は若者中心でした。でも、実際に店舗をオープンすると、私たちのターゲットだった若いお客様にとって、ベテランの女性と話すのが面白かったようです。

私や一緒に働くスタッフは敬意を表して女性のことを「先生」と呼んでいました。私たちは当初、男3人で働いていましたが、そこに先生がいるだけで、雰囲気がやわらかくなるのです。私たちも先生のことを大事にしており、多くのことを学ばせていただきました。

お客様・働き手にとって気持ちいい環境をつくる

宿利先生と清水社長(写真提供:株式会社ANLOOP)

――引き継ぎもととなる方との関係性が大事ということですね。

他店舗の事業承継においても、基本的には同様です。2店舗目となる美容室を引き継ぐ際は、もともとの経営者が52歳の男性でした。

話を伺ったところ、もう辞めるからと80人ぐらいのお客様に手紙を出したとのことでした。

――非常に数が多いですね。

おっしゃるとおりです。話を聞いて「まだまだいけるじゃん」と思いました。ですから「それであれば一緒にやりませんか?」とお声がけしました。

私たちと一緒にやる場合、若者向けの店舗にはなるものの、すでに1店舗目では世代が違う方とも一緒に楽しくやらせてもらっている旨をお伝えしたのです。

――その後、どうされたのでしょうか。
最初は悩まれていたようですが、最終的にその方の心を動かしたのはお客様でした。手紙を出されていたので、最後にお客様が店舗を訪れます。その際に「このようなお話をもらっているのだけど」と、お客様に相談されたようです。

すると、お客様からは「やった方がいい」「絶対に残ってくれ」という声が相次いだため、最終的にはご一緒してくださることになりました。

――ターゲットが違うことで、意見が対立することはなかったのでしょうか。

もちろん、ありました。ですが、私たちも意見の違い自体を面白いことだと捉えるようにしたのです。

料金設定に関しては、もともとのお客様だけ金額を変えずに対応してもらいました。しかし、空いている時間は新規のお客様を対応してくれました。シャンプーを手伝ってくれたりしたので、私たちとしても非常に助かりましたね。

結果的にこれらの第三者承継がうまくいったのは、お客様も含めてもともとお店にいた方にとって、気持ちの良い環境をつくれたからではないかと考えています。

世田谷制覇のあとはASEAN制覇

――今後の展望をお聞かせください。

ANLOOPでは「世田谷制覇」という言葉を使用しているのですが、まずは世田谷エリアで事業を拡大していき、多くの方に喜んでもらいたい気持ちがあります。今後も業種を問わず、お客様に求められる店舗を展開していき、地域の活性化に貢献していきたいです。

また、世田谷制覇のあとは「ASEAN制覇」だと謳っています。日本のマーケット自体は、どんどん縮小しているのが現実です。しかし、私は日本が大好きなので、若い経営者を育てて海外でチャレンジしてもらいたいと考えています。そして、強くなって戻ってきたうえで、日本を盛り上げてもらいたいです。

なので、いい業態をどんどん世田谷に集めていき、その後は海外に横展開していきます。同時に若い経営者を育てて、世田谷を活性化させていきつつ、外の世界に目を向けていきたいと考えています。

(取材・文/長島啓太)

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清水昭博氏プロフィール

株式会社ANLOOP 代表取締役 清水 昭博 氏

1977年、鹿児島県生まれ。高校を卒業後、福岡県の美容室へ就職。その後、上京しフランチャイズオーナーや飲食店などを経て、2006年に美容室を立ち上げ。2010年に株式会社ANLOOPを創業し、代表取締役に着任。世田谷エリアを中心に、美容室やネイルサロン・飲食店などの多角経営を進めていき、地域活性化に貢献している。

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