大阪の「かっこよくしすぎないライブハウス」 経営を引き継いだ地元ミュージシャン、大切なのは音楽性より地元住民の居心地

大阪府豊中市の「Live café ARETHA(ライブカフェ・アレサ)」は、2007年に前オーナーが開店して以来、地域の人々の文化活動の拠点となってきた。新型コロナウイルス禍で一時閉店したアレサを引き継いだのは、地元出身のミュージシャン大橋右京氏(33)。前オーナーの築いたものを大切にしつつ、「かっこよくしすぎないライブハウス」を目指し、地元に愛される文化拠点を運営している。
目次
準備期間1カ月で再スタート

−−−−アレサの引き継ぎが決まってから、再開店まではどのように進みましたか?
前オーナーが閉店を発表したのが2021年4月で、僕が引き継ぐことになってから1カ月間ぐらいの期間でバタバタと準備をして、6月になんとか再開店にこぎつけました。資金についてはクラウドファンディングも活用しました。
僕自身は全く飲食店をやった経験がなく、瓶ビールもまともに開けられないくらいでした。まずお酒の作り方から、YouTubeで学んだりして身につけました。
音響も、ライブをやっていたので知識はありましたが、実際にステージに立つ側と、裏方の仕事は大きく違うため、改めて勉強する必要がありました。
食品衛生責任者の資格取得をはじめ、さまざまな手続き関連もこなさなければなりません。そんな感じで、1ヶ月は忙しく過ぎました。
音楽以外のイベントにもチャレンジ

−−−−再開店後、新しく始めたことはありますか?
アレサの空間は「ザ・ライブハウス」という感じではないので、音楽以外にも何かできるのではないかと感じていました。
まずは、より馴染みやすい場所にしていくために、月に1回、入場無料でフリーマーケットをやることにしました。
ライブハウスに足を運んで音楽を楽しむというのは、人によってはハードルが高いです。でも、ふらっと覗けるきっかけがあれば、もっと地域の人たちに来てもらい、認知されていくだろうと思ったのです。そこが店の伸びしろだと考えました。
結局、フリーマーケットは今も毎月続いていますし、他にはヨガの会や、映画の上映会をしたこともあります。音楽に限らず多彩な文化的イベントができる場所にしていきたいと思っています。
未経験で怖いもの知らずということもありますが、面白いことを何でもやっていきたいというスタンスで運営しています。
−−−−ライブハウスとしてはどんな方々が出演しているのでしょうか?
僕の周りにいる弾き語り界隈の人たちはソロ活動が多く、コロナ禍でも音楽活動を続けている方が多かったので、最初の頃はそういう方々をライブにお呼びしていました。だんだん弾き語り界隈で店の名前が知れ渡り、紹介で新しく来てくれる方も多くなりました。
今、ライブバーは、少しのお金を払って演奏活動をしたいという方の出演がとても増えています。
昔はライブハウスに出ることは、オーディションやチケットノルマなどハードルが高いものでしたが、現代は少しの出費で出られて観覧のお客さんも来てもらえる場所も増えています。うちもどちらかというとそういう形式で、温かく気軽な場所にしていきたいと思っています。
引き継いだ部分と新しくクリエイトする部分、半々に運営

−−−−前のオーナーさんの時と比べてお店はどう変わりましたか?
前オーナーからは、こうしないといけないなどということは、何も言われていません。僕のアイデアを活かした運営を許してもらっています。
アレサという屋号や、前オーナー時代から活動していたサークルは今もそのまま活動していただくなど、前から続いている部分もあります。
サークルに関しては、僕が新しく立ち上げたギターサークルやウクレレサークルも活動中です。前からの部分と、僕がクリエイトしていきたい部分の半々くらいで、今お店の運営ができていることはとても嬉しいです。
−−−−別の方が運営していた店を引き継ぐことに、気持ちの上でのハードルはありませんでしたか?
今はそうでもないですが、やっぱり最初は多少ハードルも感じていました。常連の中には、前のオーナーさんの時はこうだったのに…と言われる方もいるのではと思っていました。
でも僕があまりにも前の形にこだわらずマイペースにやりたいことをやっていたので、呆れてなのかどうか分かりませんが、全然そんなことは言われませんでした。逆に、生まれ変わってリスタートできてよかったね、と常連のお客様から声をかけてもらえたことがあって、それがとても嬉しかったです。
誰にとっても居心地のいい「地域の文化カフェ」に
−−−−そもそも、大橋さんが未経験の業種に飛び込んだのはどのような気持ちがあったのですか?
着物屋や大学事務の仕事は、自分よりもよくできる人がいくらでもいるだろうと思っていました。もう少し、自分の強みやアイデアを活かして仕事がしたいという気持ちはありました。
何か個人で事業ができればというのは考えていましたが、何をしたらいいかまでは結局たどり着かなかったのです。そんな中でたまたまアレサの閉店発表があり、自分がやりたい仕事だし、空間的にもすごく好きな場所だったので、迷いなく決心することができたのです。
−−−−これからアレサをどんなお店にしていきたいですか?
前オーナーがおっしゃっていた「かっこよくしすぎないライブハウス」という言葉に、僕も全く同感です。プロの方が出演されると同時に、音楽をゼロから始めたばかりの方や、もっと言えば音楽にあまり興味のない方も含めて、いろいろな方が来やすい場所にしていきたいと思っています。
ライブハウスというより「地域の文化カフェ」、地域の方々が文化的なことを通じて来やすいような場所にしたい。そういう意味で、「かっこよくしすぎない」というのは、敷居をできるだけ下げて来やすい場所に、という意味があると思います。
アレサがそういう場所になりうるのは、この空間があってこそです。暗い階段で地下に潜る「ライブハウス」のイメージとは全く違います。音楽をやっている方にもそうでない方にも居心地のいい空間を、前オーナーさんが作ってくださっていたというのはありがたいですね。
今、僕は子ども向けにギターレッスンをしているのですが、そのうちの一人で学校に通いづらかった子がいました。ただ、その子は音感にも楽器演奏にも非常に長けていたので、そういう子が自分を表現できる場づくりに一役買えたことで、親御さんからも感謝していただいたのです。それをきっかけに、より一層いろいろな意味のある場所になっていけたら、という思いが強まりました。
大橋右京氏プロフィール
Live Cafe ARETHA オーナー 大橋 右京 氏
1992年、大阪府生まれ。関西大学卒業後、着物販売、大学非常勤職員の仕事を経てシンガーソングライターに。2021年6月、大阪府豊中市曽根地区にあるLive Cafe ARETHAの閉店に際し、前オーナー夫妻から同店を引き継いで2代目オーナーとなる。曽根の隣町・服部天神地区を盛り上げる活動Hattori Beat実行委員長。
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