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42歳で大抜擢、後継指名され就任したアース製薬社長 「社長は結果が全て」「経営者の勘はかなり重要」「大切なことは互いのリスペクト」

国内シェアNo.1の虫ケア用品をはじめ、家庭用品分野で数々のヒット製品を世に送り出しているアース製薬株式会社(東京都千代田区)は、2025年に設立100周年を迎えた。生え抜き営業マンが40歳で次期社長に指名され、42歳の若さで社長に就任されて10年の川端克宜氏(53)が語る、経営者の資質と円満な事業承継の秘訣とは-。

年上の部下とのやりにくさはあった?

アース製薬の炭酸入浴剤「温泡」(写真提供:アース製薬株式会社)

−−−−周りにあまりいないタイプの営業マンとして手腕を発揮してきた川端さんですが、周囲との軋轢はなかったのでしょうか?

得意先に対して情熱が燃えるだけで、社内の人間関係は融和を大切にしてきました。チームには多種多様な人たちがいます。

多様なバックボーンや性格を持った人がいるので、私はこれが得意だからこれをやる、あなたはあなたの得意なところをやる、と役割分担をして、カバーし合えばいいと思っています。今もそうしています。

−−−−若くして社長という立場になり、年上の部下もいたと思いますが、やりにくさを感じることはありませんか?

1秒でも先に生まれたら全部先輩ですから、上席だろうが後輩は後輩です。そこの線引きはしっかりしています。

役職では私は上席ですが、先輩に対して「おい」などと言うことはありませんし、リスペクトを持って接します。

何か意見をいただいたときも、「こっちの方が偉いのになぜこんなこと言われないといけないのか」というようなストレスは全くありません。先輩だから当たり前だと思っています。

「社長の評価」はすべて結果だ

−−−−社長が川端さんになったことに対する評価はどうでしたか?

私が社長になってもう10年ほど経ちました。今となっては私を選んだことについては良かったのでしょう。私もそれなりに頑張ってきましたけれども、「川端さんで良かった」と言われることは、選んだ前社長・大塚達也会長の評価にもなります。

もし社長としての適性がなかったら3年か4年で変わっていたと思いますので、結局、評価は全部後付けであってもいいと思っています。

私が好きな言葉で、「無謀な挑戦」と「果敢な挑戦」の違いがあります。この言葉の違いはどこにあるのか。一番分かりやすい例はMLBで活躍している大谷翔平選手かもしれません。

今でこそ大谷選手を否定する人はいないでしょう。でも彼が投手・打者の二刀流をやると言った時、「無謀な挑戦」だと言われたのです。今となっては「果敢な挑戦」だったという評価に変わっています。

要は結果が全てです。これは社長も同じです。最後に私が成功したら、これは良かったということになるし、失敗したら、そんなもんだと言われるでしょう。答えは歴史が証明する、そういうことじゃないかと私は思っています。

−−−−川端さんを社長に指名した大塚会長は、その理由を何とおっしゃっていますか?

今、私を選んだ理由を会長に聞いても、本当のところを教えてくれません。「誰に聞いても反対がなかったのが川端だった」と言うけれど、果たしてそれが本当かどうかはわかりません。

嘘ではないでしょうが、私としては、会長の最期には、本当はどうだったんですかと聞いたら「勘だった」と答えてほしいわけです。ヤマ勘とは言わないけれど、経営者の勘というのはすごく大事なものではないでしょうか。

ヤマ勘で経営をすることはありませんが、最後はやはり経営者のジャッジです。あらゆるエビデンスを並べて、成功の確率もわからない中で、ジャッジしなければならない時があります。

後継者選びもたぶん同じで、何で決めているのか。結局最後はヤマ勘ではなくて肌感覚です。それが経営者にとっては大事であると思います。

トップダウンとボトムアップのバランス

主力商品の一つ、アースノーマット(提供:アース製薬株式会社)

−−−−川端さん就任以前の会社は、どのような雰囲気でしたか?オーナーのトップダウン色が強かったとお聞きしています。

当時は全部社長が決めていました。極端な話、コーヒー1杯250円の稟議書まで社長が見ていたくらいです。会社の規模も小さかったし、オーナーのジャッジが重要視された時代でもあり、スピード感も必要だったので、社長がオーナーシップをとることで、会社はうまくいっていたと思います。それだけのセンスがある人です。

当時はよかったのですが、時代も進み規模も大きくなってくると、「全部社長が決めてくれる」という風に、考えない社員が増えていきます。

だから、私はボトムアップを重視しようとしました。トップダウンの中にいると、ボトムアップが良い物に見えます。「自分たちで決めさせてほしい」と。

しかし、いざボトムアップをやると何にも決まりません。時にはトップダウンが必要なこともあります。ボトムアップとトップダウンの両方で、シーソーのようにバランスをとっていくことが求められます。

隣の芝生は青く見えるように、人は無い物ねだりをすると分かりながら、バランスをとってやっていくしかありません。経営とはそんなものだと思います。

−−−−トップダウンの社風の中で、川端さんはどのような立ち位置だったのですか?

当時の体制で、私のような社員は珍しかったと思います。例えば、会社が「この新製品を売りなさい」という方針を出した時、私は、製品によっては「必ずしもローカルマーケットではニーズが高いわけではないだろう」と考えます。

ローカルマーケットと、東京や大阪などの大都市部と売れ筋が異なる状況では、「何言うとんねん」と考えます。あからさまに逆らいはしませんが、「売ったふり」をして数字だけは下げないようにしました。

当時、営業本部長からは怒られましたが、「ミスマッチの製品」を売ることによって得意先が離れていくことを考えたら、長期的には損失につながります。でも意外とそういう人がいなかったのだと思います。だから、そういう面は評価してくれていたのかもしれません。

承継のポイントは「一切を任せる」こと

−−−−先代からの承継がうまくいったのは、どういう点が良かったからだと思いますか?

経営を任された社長も大事ですが、それをつべこべ言わずに見守ってくれる人も大事だと私は思います。私に任されてからの10年間、全ての権限は社長の私にあります。

失敗はそれなりにありますが、会長から何一つ言われたことがありません。我慢している部分はあるでしょうが、何か相談すると、「いや、お前が社長なんだから決めてくれよ」と言われます。

だからちゃんと報告しています。ああしろこうしろと言われていたら、逆に何も報告しないかもしれません。北風と太陽みたいな話です。

やはり、そういう風土が大事だと感じます。事業承継がうまくいかない会社は、結局そこがうまくいかないのでしょう。任せると言いながら任せない。お互いへのリスペクトがあれば、そんなことにはならないと思います。

−−−−将来、川端さんが次代に承継する時のことをイメージしていますか?

弊社も、いずれは再びオーナー家の力が必要となる時が来るかもしれません。それはそれでいいと思います。いずれにしても会長、社長のバランスの取り方であったり、お互いへのリスペクトの仕方であったり、という部分は、承継において欠かせないところです。

やはり、自分がされたことで良かったことは、行いたいと思っています。私は大塚会長の傘の下で自由にさせてもらったからこそ、次の社長にもそういう承継をしたいですね。選んで決めたら任せる。そうなった時には、「ああ、会長はあの時こうだったのかなあ」ということも、分かるかもしれません。

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プロフィール

アース製薬株式会社 代表取締役社長CEO、グループ各社取締役会長 川端 克宜 氏


1971年、兵庫県生まれ。近畿大学商経学部(現・経営学部)1994年卒、同年アース製薬に入社。国内流通営業を担当。2006年に広島支店長、2009年に大阪支店長。2011年役員待遇、2012年ガーデニング戦略本部本部長、2013年取締役ガーデニング戦略本部長を経て、2014年に代表取締役社長。2021年より現職。

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