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「事業ごとに人間関係ギスギス」「遅刻常習者がいる」 影響力のある社員の「マイルール」を廃止、社風の改革を推進した地方企業の4代目

1928年に創業し、5つの事業を佐賀県で展開する株式会社エグチ・ビルド。大手製紙企業グループから、父の後を継いで4代目の社長に就いた江口功二氏が家業に戻った時、社内の雰囲気は悪かった。各事業の組織体制に課題が大きく、遅刻や安全点検の規律も緩んでいた。そこで、大手製紙企業グループで組織のあり方を学んだ江口氏が採用した戦略とは。地方中小企業の新しいビジネスモデルを模索する江口氏の挑戦について聞いた。

社員のモチベーションが低下していた製紙事業のルール化を進める

エグチ・ビルドの警備事業における交通誘導(写真提供:株式会社エグチ・ビルド)

──常務として入社した時、会社はどのような状況でしたか。

地方では規模の大きい企業で、黒字経営を続けていました。ただ、組織には課題も多かったです。

100名以上の社員が所属し、5つの事業を展開しているにも関わらず、それぞれの事業を統括する部長職を設けていませんでした。

役割やルールがはっきりしないため、「人」を見ながら仕事を進めてしまいます。事業部の責任者同士もギスギスした関係だったので、それぞれの事業部で部長職を作り、組織をピラミッド型に変えました。

──他にはどのような改革を進めたのでしょうか。

最初の1年間は製紙工場の組織化を進めました。ルールを定め、守る仕組み化を実施しました。

私が入社した時点の工場では、遅刻が常習化している人や、安全を確保するための指差し呼称を行わない人がいました。

一つひとつは小さなことなのですが、ルールを守らない人が増えると、真面目にルールを守って働く人は不満を抱きますよね。それだと能力のある人が会社を辞めるかもしれません。真面目な人が評価される会社にしたいと思いました。

──社員の中に不公平感を抱いていた人はいたんですか。

私が入社した時、社員同士の仲はよくなかったです。同じことをしたとしても、あの人は許されて、違う人は許されないという状態になっていました。

影響力のある社員のマイルールを廃止し、組織として同じ認識で仕事を進められるようにする必要性を感じました。

──ルール化を進めることで社員からの不満はありませんでしたか。

整備したルールは、出退勤の記録方法や残業申請の提出など基本的なものばかりです。あくまで社員の働きやすさを実現するためのルール化だったので、大きな不満は噴出しませんでした。

遅刻もゼロになりましたし、5つの事業の中で製紙の製造業が最も生産性が高くなりました。

M&Aにより土木事業の安定化を図る

エグチ・ビルドの警備事業における設備警備(写真提供:株式会社エグチ・ビルド)

──工場の他に改革したことはありますか。

1年に1事業の改革を進めていますが、これまでに進めた中で最も大きな改革は土木事業のM&Aでした。M&Aを行ったのはエグチ・ビルドの土木事業の安定化を図るためです。

公共工事の受注には波があるので、受注できなかった年は売上と粗利がガクッと減少するんですね。この波を埋めるために、民間の工事を受注して同程度の売上を作れるようにしようと思いました。

とはいっても、公共工事に特化してきたエグチ・ビルドには、新規で民間の工事を受注するためのノウハウや人脈はありません。そこで土木事業と同程度の売上を持つ企業のM&Aに乗り出しました。

──どのように進めたのでしょうか。

M&Aに応じてもらえる見込みのある企業を見つけました。その企業は社長が現場に出て働いていたため、組織化に手が回らず、債務超過も抱えていました。

「合併することでバックオフィスの効率化を図ることができる。そのプロジェクトを私が担います」と説明して、先方と合意に達しました。

──債務超過の原因はどのような部分にあったのでしょうか。

数億円の規模の企業だったので、社長の営業力は強かったのです。ただ、経営に関するノウハウをあまり持っていませんでした。

たとえば、経費削減や経理関係の分析を行っていませんでした。取引先への支払いにも困っている状況だったので、社長が体を壊して入院をしたこともありました。

赤字を解消するための改善策を立案し、実行に移さなければいけなかったのですが、社長は戦略を立てるのが得意ではなく、さらに余裕もない。改革に向けた動きを取れないのが債務超過の原因のひとつでした。

──江口社長が戦略の立案や実行を担ったということですね。

まず、エグチ・ビルドとM&Aを行うことで、銀行から運転資金の融資を受けることができました。これで資金繰りの心配はなくなりました。

同時にバックオフィスの機能をエグチ・ビルドの経理で担い、資材管理を弊社の倉庫で行うようにしました。いわゆる関節費用の圧縮ですよね。非常に効果は大きかったです。

このような組織のスリム化や経費削減を進めた結果、1年で2000万円以上の黒字化に成功しました。同じ業種同士のM&Aの相乗効果は大きいと実感しました。

佐賀県一の福利厚生を提供する会社へ

──選択と集中ではなく会社の多角化を進めていますが、改めてそのメリットを教えてください。

地方では一つの事業で狙える市場の規模が非常に小さいんです。もし一つの事業しか営んでいなくて、コロナ禍のような社会的な不安定な状況に陥ると、倒産危機に陥ります。

潰れない会社を作るにはどうしたらいいのか。やはりいくつかの事業を展開し、体力基盤のある企業に成長させていく必要があると思います。そのために事業の改革を進めながら、新しい事業も始める予定です。

──どのような事業なのでしょうか。

飲食事業を立ち上げて、佐賀市でタコス屋をオープンします。飲食事業を始める理由の一つが、福利厚生に力を入れるためです。

社員が豊かな生活を送るために企業ができることを考えた結果、住居を安く借り、食費を抑えることのできる制度を作ろうと思いました。事業としての収益を上げながら、希望する社員に格安で食事を提供できればと思っています。

──今後の展望を教えてください。

社員が路頭に迷わないような会社にするのが目標なので、まずは、各事業の安定化と組織化を進めて、年商50億円規模の企業に成長させたいです。その上でこの地域で1番の福利厚生を提供する会社にしたいです。

(取材・文/中島彰宏)

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江口功二氏プロフィール

株式会社エグチ・ビルド 代表取締役 江口 功二 氏 

1987年佐賀県生まれ。琉球大学卒業後、王子製紙グループ会社に入社し、ルート営業を担当。2019年に株式会社エグチ・ビルドに常務取締役として入社し、2024年7月に代表取締役に就任。土木・建築・製造・警備・不動産の5事業を展開し、現在は飲食事業の立ち上げも手がける。

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