経営戦略Strategy

経営戦略

世界中で新潟にしかない「技術」を持つ老舗企業のブランド戦略 百貨店販売をやめて売り上げを落としても、直営店に注力する理由とは

高度な金属加工産業で知られる新潟県燕市で受け継がれる、銅板を叩いて茶器などに加工する「鎚起銅器」(ついきどうき)。製造元で、創業200年を超える玉川堂(ぎょくせんどう)は、世界で唯一の「銅を鮮やかに着色する」技術を持ち、何度も皇室献上品を手がけてきた。7代目の玉川基行代表(55)は、メインの販売先であった百貨店との取引をやめて、職人の高い技術を基にしたブランド戦略として直営店舗運営に乗り出した。売り上げは一時大きく減ったというが、将来に向けた狙いについて玉川氏に聞いた。

百貨店と取引をやめ、売り上げ急落

銅を熱する工程(写真提供:玉川堂)

――どのようなリブランディングを行ったのでしょうか。

ブランド価値を高める必要があると思い、2016年に玉川堂が200周年を迎えた時に「リブランディング」を実施しました。この時にブランド理念と考働(行動)バイブルを明文化し、製品に玉川堂だけでなく、職人の刻印を残すようにしました。

刻印を残すというのは、いつ、どの職人が作った製品なのかを、何百年も未来に伝えられるようにする手段です。

数百年前に作られ、今もアンティークとして世界中で愛されているイギリス銀器のホールマークを参考に、玉川堂も新しいロゴマーク、製造年を表す干支、製作者の作者印の刻印を作って製品に入れ、製品が後世に残るようにしました。

――同じ時期から直営店もオープンされていますが、その理由もブランド化と関係しているのでしょうか。

もともと、百貨店などの実演販売を通し、全国で製品が評価されてきた面もあります。でも、百貨店での販売で、接客するのは百貨店の従業員ですよね。包装紙にも百貨店の名前が記載されています。どうしても私たちとお客様との距離は遠くなります。

それよりも、玉川堂の社員が接客してブランドイメージを反映した包装紙に包んでお渡した方がお客様との親和性が深まり、私たちの世界観を伝えられる。ブランディングとは、流通経路の短縮だと思うのです。そのような思いで、百貨店との取引をやめて直営店をオープンしました。

――売上への影響はどの程度ありましたか。

百貨店との取引をやめた年は約30%も売上が落ちました。直販に切り替えると利益率などが良くなるイメージがありますが、そうではありません。

直営店は賃料やスタッフの人件費などがかかり、百貨店と取引をしている時と利益率はほとんど変わりませんでした。

機能性を高めていくことで、必然的に美しい器が生まれる

一つの器が製作工程を経て、完成に近づいていく様子

――作品を作る際に重視していることを教えてください。

ブランドを作るにはお客様の期待に応えるだけではだめで、期待を超える製品が必要です。 そのためには、職人がクリエイティビティを発揮するため、玉川堂では「趣味を極め、ものづくりに活かす」と考動(行動)バイブルで定めています。

玉川堂では、日本酒やコーヒー、日本茶などを入れる器を作っています。それぞれの嗜好品には愛好家がいるので、お客様以上の知識を蓄え、今までにない機能性と機能美を兼ね備えた製品を提供し続けるという使命が、私たちにはあるのです。

例えば、コーヒーポットを作っている職人はコーヒー好きです。約15年前から開発しているコーヒーポットは、自家需要だけでなくカフェなどにもよく使われるようになり、最近では20代〜30代の若年層の男性もよく購入しています。職人が機能美をよく理解できているからこそファンを生み出せているのだと思います。

――職人の採用ではどのようなことに力を入れているのでしょうか。

毎年数十人の応募がありますが、1人だけ採用させていただいています。面接では働き方を開示して、生涯を通じて技術を磨いていく意思の有無を確認しています。

募集者の80%以上が美術大学生でして、新しい作品を生み出そうと意欲を持っている方が多いです。最近入社した女性の職人はフラワーボールという手のひらサイズの一輪生を生み出しました。

――今後の展望について教えてください。

究極的には燕三条の本店だけで成り立つようなブランドに育てていきたいです。工場の近くにミュージアムやレストラン兼ホテルのオーベルジュを作り、鎚起銅器に囲まれた体験を提供できるのが理想ですよね。世界中から訪れたお客様を職人が接客するような機会を増やしたいです。

売上の目標も重要ですが、お客様の満足度を高めていくことが後世に残るブランドを作ることに繋がると思います。

(取材・文/中 たんぺい) 

この記事の前編はこちら

玉川基行氏プロフィール

玉川堂 代表 玉川 基行 氏 

鎚起銅器「玉川堂」7代目。1970年、新潟県・燕市生まれ。1995年玉川堂へ入社し、2003年に7代目に就任。流通経路の改革に挑み、経営危機を立て直す。現在は、唯一無二の伝統工芸品ブランドを目指し、直営店を3店舗展開する。 

FacebookTwitterLine

\ この記事をシェアしよう /

この記事を読んだ方は
こちらの記事も読んでいます

経営戦略

一気に10人が集団離職、大ショックの4代目社長 地方の温泉に無かった「新しいリゾート」がおかしくなった背景と、そこからの復活

経営戦略

「実は、もう会社がやばい…」突然すぎる父の告白 債務超過で借金18億、起死回生の「ふりかけグランプリ」優勝

経営戦略

「ほんなら、ちょっと言うけど…君が社長やって」 40歳の生え抜き営業マン、突然すぎるアース製薬の社長指名 いったい何が評価されたのか

記事一覧に戻る

賢者の選択サクセッション 事業創継

賢者の選択サクセッションは、ビジネスを創り継ぐ「事業」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。

フォローして
最新記事をチェック