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「町の鉄工所」が生み出す高デザイン性の新ブランドとは デパートにも納入「ユニメット」が生まれた背景

創業41年、九州の小さな鉄工所としてスタートした「株式会社石橋鉄工所」(福岡県柳川市)が2019年、自社の雑貨ブランドを立ち上げた。2014年に父親の後を継いだ2代目・石橋輝喜社長は、リーマンショックで売上げが5分の1になるピンチにも、プログラミングや営業活動を導入するなどして乗り越えた敏腕後継ぎだ。自社の雑貨ブランド「μnimet(ユニメット)」は、鉄工所としては異例のBtoC市場に進出し、三越などの百貨店でも販売されている。従来の町工場の枠を超えた挑戦を続ける、石橋社長の新たな取り組みについて聞いた。

プログラミングで実現した工場効率化

「μnimet(ユニメット)」による精密加工が光るアクセサリー(写真提供:株式会社石橋鉄工所)

──石橋社長が入社された当時の工場の様子について教えてください。

私が入社する前は、父が全て手作業で行っていました。私が入社する5年ほど前にプログラミングで動く機械を3台ほど導入したものの、あまり使いこなせていなかったようです。私は元々数学や理系科目が得意だったので、入社後は自分でプログラミングをマスターして使い始めました。

プログラミングを活用することで効率化が進みました。私たちの業界では時間換算で見積もりを出します。例えば「1秒10円」という考え方で、3分かかる加工なら1800円という計算になります。

当然、同じものを作るにしても、時間がかかればかかるほど価格が高くなり、競争力が落ちる。そこでプログラミングを駆使して効率化を図り、利益率を上げることができました。

──仕事の流れはどのようなものだったのでしょうか?

基本的には、クライアントから設計図が送られてきて、それを基に試作品を1つ作ります。クライアント側で組み上げてみて不具合があれば修正し、OKが出れば量産開始という流れです。

最終的には「これで建設機械を500台作るので毎月部品を納品してください」というような発注をいただきます。以前は、そういう仕事が95%を占めていました。

建設機械は屋外で使うものなので、少々油が漏れてもあまり気にされない業種だったので、私たちも求められるクオリティに合わせた製品を作っていました。

工場拡大、従業員の採用、法人化…経営者としての修行

福岡県柳川市にある石橋鉄工所の工場内部(写真提供:株式会社石橋鉄工所)

──社長になって経営面で意識されたことはありますか?

2014年に法人化したタイミングで、父から社長を引き継ぎました。父は早く変わりたい気持ちがあったようで、銀行とのやりとりなども私がしていたので、自然な流れでした。

しかし社長になった後、自分の実力の無さを痛感しました。社員を引っ張っていくノウハウがなかったんです。私は職人で、他で勤めた経験もなかったので、自分のやり方が正しいのかもわかりませんでした。

そこで経営者向けのセミナーを受けに行き、企業理念を作ることの大切さを学びました。「お客様のため」という企業理念を掲げたことで、従業員同士でも「ここを改善しないと、お客さんが困るんじゃない」という会話が生まれるようになりました。

町工場の商品だけど、ダサくない!μnimet(ユニメット)事業のスタート

──「μnimet(ユニメット)」事業を始められたきっかけを教えてください。

「μ」はマイクロを表す単位で、1000分の1ミリメートルを意味します。それに「unique(ユニーク)」と「metal(メタル)」を組み合わせて「μnimet(ユニメット)」としました。精密な技術とユニークさを持ち、全て金属製であることを表現しています。

元々インテリア専門学校に通っていたこともあり、いつかBtoCの仕事をしたいと思っていました。そこで、福岡県が行っている事業に参加し、知り合いのスーツ屋さんと一緒にカフスを作ったことがきっかけです。

2019年から本格的に事業を始め、それまで外注だった部分も内製化しました。2020年3月には、東京ビッグサイトで開催されたホテル&レストランショーに、ステンレス製のコースターを出展しました。

グラスの水滴によりくっつかない機能性と、同業者から「どうやって作っているの?」と聞かれるほどの、精密加工技術によるデザイン性の高さが特長のコースターは、大きな反響をいただきました。鉄工所が製品を作ること自体が珍しかったのと、「町工場が作っているのにダサくなくてカッコいい商品」というのも大きかったようです。

今は、三越などの百貨店で取り扱っていただいていますし、箸メーカーとのセット販売なども人気です。

また、OEMも行っていて、商船三井の130周年記念品なども手がけました。2023年には、京都のギフトショーでお土産コンテストのグランプリを獲得するなど、評価いただいています。

地域の伝統工芸とのコラボレーションも行っていて、柳川の「さげもん」用のオーナメントなども作っています。「さげもん」は雛祭りの際に飾るものですが、従来は大きなサイズが多く、現代の住宅事情には合いません。

そのため、2段のひな飾りの横に置けるくらいのサイズで作りました。地元の伝統的な技術と、私たちの精密加工技術を組み合わせた商品です。

B2C商品の展開で、鉄工所の新しい未来像を

──現在、μnimet(ユニメット)事業はどのくらいの売上を占めているのでしょうか?

現在は全体の約2割を占めています。月に何百万円になるときもありますし、大きな案件がなくても何十万円くらいはコンスタントに売れています。企業案件はまとまった数が入りますが、個人で購入される方も多く、地元の駅前にある物産店でも毎月定期的に買ってくださる方がいます。

──今後の展望をお聞かせください。

いずれは、μnimet(ユニメット)事業が本業を超える売上になればいいと思っています。自分たちの好きにものづくりができるという点で、やりがいがあります。

また、1年ほど前に「mew」という新しいブランドを立ち上げました。こちらは、熟練した職人たちの技術を活かした商品作りをしています。これは少し武骨な感じで、μnimetとは異なる客層をターゲットにしています。

昔はアルミの強度がなかったのですが、今はジュラルミンやチタンなど、時代とともに材質が変化しています。新しい技術についていかないと取り残されてしまうので、しっかり方向性を決めて準備し動いていく必要があります。

今作っている製品も、将来的には海外展開していきたいと考えています。実際に、去年は社員と一緒にシンガポールに行く機会があり、現地の反応を直接見てモチベーションも上がったようです。今後、海外展開にも力をいれていくつもりです。

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石橋輝喜氏プロフィール

株式会社石橋鉄工所 代表取締役 石橋 輝喜 氏

1979年、福岡県生まれ。デザイン系専門学校を卒業後、2000年に現在務める石橋鉄工所に入社、2014年に代表取締役に就任。父親と祖父の下で製造技術を習得し、2009年のリーマンショック時に営業活動を開始、自社ホームページの立ち上げなど新たな取り組みを実施した結果、農機具部品・建設機械部品製造から事業領域を拡大し、自動車部品や造船部品など多岐にわたる事業展開を実現。精密加工技術を駆使した自社ブランド「μnimet」と「mew」の展開に力を入れ、鉄工所の枠を超えた事業拡大を目指している。「お客様のため」という企業理念のもと、地域の伝統工芸とのコラボレーションや海外展開も視野に入れ、町工場から世界へと挑戦を続けている。現在は社員11名、年商約1億円の会社に成長させている。

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