「仲良し3姉妹」が継いだブランド茶の会社 自由にさせてくれた両親、言われなくても「いつかは自分たちが」

九州を代表するお茶の一つ「八女茶」の製造と販売を手がけている株式会社「岩崎園製茶」(福岡県八女市)。祖父が創業し、父が継いだ会社を、2017年以降に長女、次女が引き継ぎ、三女がデザイン・企画監修という立場で関わっている。「仲良し三姉妹」が製茶園を承継した経緯や、思い描く将来像について、長女の平井恵美さん(38)と、次女の野田緑さん(36)に聞いた。
目次
こだわるのは、「見た目」よりも「味」

−−−−御社の創業からの歩みを簡単に教えてください。
恵美氏:1950年創業で、最初に八女市岩崎という地域にお茶の苗を植えて栽培をしたのが始まりです。屋号の岩崎園製茶はその地名からとっています。
お茶の製造工程は、まず農家が茶畑で茶を栽培し、その葉を摘んで、市場に並ぶお茶の原料にするのが「荒茶工場」です。そこで作ったものを取引にかけ、仕上げの工場で、お茶作りの大事な部分である仕上げ加工をして製品ができます。
弊社は茶の栽培から始め、初代の祖父の代、1955年に荒茶工場を新設しました。続いて1959年、仕上げの工場を新設し、その後、1970年に山あいの茶栽培に適した八女市上陽町雨降(現・下横山)という場所に大規模茶園を増設しました。
1976年に現在地に工場を設立移転して、同時に直営店を設け、その翌年に株式会社岩崎園製茶となりました。
祖父はとにかく上へ上へと行きたい商売人でしたので、「もっと会社を大きくするにはどうしたらいいか」を常々考えていたようです。
−−−−八女茶というのは、どのような特徴のあるお茶ですか?
恵美氏:八女茶が人気を得ている点は、奥深いまろやかな甘みという特徴かと思っています。昨今のお茶は見た目の色味なども重要視されますが、弊社は創業以来、一番大切にしているのは味です。
「いつかは自分が継がなければ」という意識を抱えて

−−−−2代目のお父様ら家族から、家業を継ぐことについての話はありましたか?
恵美氏:「家業を継いでほしい」というのは、幼少期から一切言われたことはありません。娘が3人生まれた時点で、父は自分の代で家業を閉じる覚悟もあったらしく、基本的に「それぞれ好きなことをしなさい」という方針の家でした。
とはいえ、実は初代の祖父は、同居していたこともあって、特に長女の私には小さい頃から「恵美ちゃんが岩崎園を継いでね、商売は楽しいよ」という風にずっと話をしてくれました。私も長女ですので、「言われなくてもいつかは自分が継がなければ」という意識は根底にありましたが、若い時はいったん好きなことをやらせてもらいました。
−−−−お二人が家業に入られたきっかけは?
恵美氏:入るなら大体30歳頃かなというのはなんとなくイメージしていましたが、ちょうどそのぐらいの時期に、「どう?」という話が母からもありました。
その時期、初めて弊社がホームページをリニューアルしたときだったのです。先代の父も母も、ネットは自分たちの世代では難しいと考え始めていたらしく、スタッフもEC専門の人を雇っているわけではないので、「知識やアイデアで力を貸してほしい」ということでした。
最初は、ホームページの更新からスタートしました。それ以来、今も、ホームページは私が全て更新を行っています。
緑氏:私も「両親には好きなことをやりなさい」と言われていたので、 継ぐという意識は持っていなかったです。20代半ば頃に母から「そろそろどう?」と話があったので、少し意識が変わっていきました。
私たちは男兄弟がおらず、「私たちが育ってきたのはこのお茶屋があったからこそ」というのも分かっていました。姉が先に入ってくれたことで、覚悟が決まり、家の仕事を大事にしたいという気持ちもより強くなっていきました。
恵美氏:三女・利絵は、入社してはいないのですが、大学1年生の頃から着物の勉強を続け、今は自身の和装小物ブランドを持っています。私たちが新しい企画をしたい時、色彩やデザインに関しては、一番信頼している妹に相談し、アイデアをもらっています。
自分たちで言うのもなんですが、周りから「3姉妹とても仲がいいね」と言われることが多いです。常々、仕事の話は自然にしていて、もう相談するのが当たり前になっています。妹も社員ではないものの、自分の会社だとは思ってくれているので、気にかけてくれます。
「変えるべきもの」と「変えないもの」
−−−−入社後は、どんな仕事を?
恵美氏:私たちは2人とも、前職は全く別の業種から入りましたので、目の前のことを全て、ゼロから必死に勉強しました。弊社は、ありがたいことに10年以上勤めてくれている従業員が何人もおり、まずは「その方たちに認められたい」という思いが強かったです。
もちろん皆さん、温かく見守ってくれますが、やはり別業種から入っていきなり経営者のような顔で指示をすることは、とてもできないと思っていました。そこで、スタッフと同じ目線で同じ仕事ができるように、現場に入るところからスタートしました。 弊社は製造販売なので、工場で茶師がお茶を作ることと、商品の販売や発送作業、事務作業と、社内で業態が分かれているのですが、私たち2人はまず経営や販売の勉強を先に始めました。
−−−−入社時、御社の経営状況はいかがでしたか?
恵美氏:当時は、経営状況が大きく変化する局面ではなかったです。ただ、将来を見据えた時に、さらなるネットの普及や、販売チャンネルの多様化、今後見込まれる労働人口の減少、さまざまなコストの増加など、時代の変化に合わせて、販売方法や社内のオペレーションを大きく変えていく必要があるなとは感じていました。
お茶業界だけでなく、物を売る業界が変わっていくことは、常々言われていましたが、社内のオペレーションなどに関しては、私たちが現場に入ったことで気づけた部分が大きかったです。
スタッフたちは特に困っていないけれど、私たちから見たら「オペレーションはもうちょっと考えた方がいいかな」とか、「もうちょっと効率化できるんじゃないかな」と感じるところがあったので、早急に変える必要があると感じました。
平井恵美氏・野田緑氏プロフィール
株式会社岩崎園製茶 取締役 平井 恵美 氏
1986年、福岡県生まれ。前職を経て2017年、家業の岩崎園製茶に入る。妹の緑氏・利絵氏と共に、経営企画、商品開発を手がけるほか、会社のホームページ兼ECサイトの運営、SNSでの発信などを行う。
株式会社岩崎園製茶 監査役 野田 緑 氏
1988年、福岡県生まれ。前職を経て2018年、家業の岩崎園製茶に入る。主に経理を担当。姉の恵美氏と共に経営企画・商品開発も行う。
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