「仲良し3姉妹」の顔出しあいさつで大反響、震える字で届く注文はがき 老舗製茶園が守り続ける「お客様との温かい関係」とは

九州を代表するブランド茶「八女茶」の製造と販売を手がけている株式会社「岩崎園製茶」(福岡県八女市)は、ネットを中心とする通販で、全国にファンを増やしている。父から事業を承継した姉妹が目指す、新しい時代の「お茶屋さん」を支え励ますのは、お客様の期待と温かい言葉だった。
目次
自ら実行して示したオペレーション改革

−−−−入社後、オペレーションの改革に取り組まれたとのことですが、具体的にはどんなことでしょうか。
恵美氏:一つは時代に沿った発送方法です。元々、通販業界はとにかく厳重に包装するのが良いとされ、包装過多になる傾向がありましたが、コスト面や環境面を考え簡素化しました。
また、複写タイプの送付伝票を機械で印刷していたのですが、印刷に時間がかかるので、シールタイプに変えました。
−−−−今までのやり方を変えて、スタッフにはすんなり受け入れられましたか?
恵美氏:すごく心配していたところです。そこで、最初の2年ぐらい現場にしっかり入って、会社や商品についてスタッフ以上に詳しくなるよう努力し、信頼関係を作った上で、自ら「ほら、こっちの方がいいよね」と示すようにしました。
もちろん、一気に変えるのではなく、徐々に変えていきました。最初は難しくても、慣れればそっちの方が楽だと気づいて、だんだん受け入れてくれたという流れです。
従来のオペレーションも多くの経緯を経てでき上がったものです。それを無視していきなり「こうしろ」とは言えません。「とにかく人を思いやって生活しなさい」と小さい頃から両親に言われていたので、自然にそんなふうに考えたのだと思います。
「お茶のギフトといえば岩崎園製茶」へ

−−−−ECサイトに取り組む中で、御社が注力したブランディングとは?
恵美氏:弊社は100グラム詰めのお茶を6袋まで好きに選び、メール便で買えるようになっていましたが、「いっそ6袋をセットで組んで価格も少しお安くした『エコパックセット』を作ったらどうだろう」と、私と妹で初めて新商品として企画しました。
すると、何十年来のお客様からも、「こういうのを待ってたんだよ」という声を頂戴しました。最初は1〜2商品でしたが、その後、コロナ禍で一気にメール便の需要が増えたので、バリエーションを増やしました。改めてブランディングを意識するようになりました。
−−−−ギフト向けの新商品も出されていますね。
恵美氏:「岩崎園を、新しい若いお客様にも知ってもらいたい」と思いましたが、若年層は日常で茶葉を淹れて飲む習慣が少ないので、まずは親や祖父母の世代に送るギフト商品を企画し、母の日、父の日、敬老の日の3つのイベント専用のギフトから始めることにしました。
最初は企画力が足りず、パッケージなどをあまり変えずに出しましたが、反響はいまひとつ。そこで、次の年に包装紙や掛け紙をがらりと変えてみました。
それが好評で、きっかけに新規顧客を多く獲得できました。「おしゃれで素敵な、かつ美味しいお茶のギフトなら岩崎園さんだ」と思っていただけるブランディングを展開していきたいと考えています。
−−−−商品のアイデアは姉妹で相談して決めているのですか?
緑氏:常々、話はしています。何か思いついたらグループLINEでアイデアを送ったりして、ディスカッションしてブラッシュアップしていきます。
跡継ぎを公表後、温かい声が続々と届く
−−−−ECサイトを始めたのはいつですか?
恵美氏:父の代の2007年に初めて、ECサイトであるホームページを開設しました。その後、2017年にホームページをリニューアルし、それ以来自社内で私が更新を行っています。
コロナ禍の時は、ほとんどの売り上げが通販なので、売り上げが落ち込んだということは全くありませんでした。むしろ「お茶はコロナにいい」という大学の先生もいて、需要が増えた面もありました。
−−−−お客様と親密な関係を保つ工夫もされています。
恵美氏:通販業界、特にお茶業界は、生産者の顔を出すことがあまりなく、うちの父と母も一切顔を出していなかったのです。ところが近年、顔を出すのが当たり前のような時代になってきました。「誰が作っているどんなお茶なのかを、ブランディングとしてしっかり伝える必要があるな」と、姉妹で話していました。
弊社は2ヶ月に1回ほど、紙のカタログをオフラインの通販のお客様に送っているのですが、2021年に、そこに初めて家族全員の写真を載せ、「岩崎園は3代目の3姉妹家族が引き継いでまいります」と挨拶をすると、ものすごく反響がありました。
元々、ひいきにしていたお茶屋が、跡取りがなくて閉められたのでうちに来たというお客様から「こちらは跡取りさんがいて安心した、これからも頑張ってね」と喜びの声をかけてもらいました。
またご高齢のお客様は、まるで娘や孫のように「3姉妹仲良く頑張りなさいね」と言ってくれました。「どれだけの方に支えられているか」ということと、「店を引き継ぐことでこれだけ喜んでいただけるんだ」ということを実感しました。
緑氏:長年のお客様を裏切ることなく、美味しいお茶を変わらずに届け続けなければいけないと、改めて身の引き締まる思いでした。
葉書がつなぐ、新たな業態への道しるべ
−−−−承継にあたって、製茶の部門はどのようになりましたか?
恵美氏:コロナ禍の2020年に、私の夫の平井良太が入社しました。私と妹は入社後まず販売の方から学びましたが、お茶作りの方は、「この先どう学んでいこうか」と思っていた時に、夫が会社に入って、茶師として父の元で修行を積むことになったので、問題が解決したのです。また夫は数字にも強いので、経理面でもいろいろ相談できて心強いです。
−−−−今後、どのような組織体制で承継を考えていますか。
恵美氏:承継のタイミングなどは父が決めることなので、私たちは全く考えていません。大切にしたいことは、長年のお客様にも、従業員にも感謝の気持ちを忘れないことと、新しいお客様にも長く岩崎園を愛していただけるように、先々のライフスタイルの変化にも柔軟に対応できるようにしていくこと、そんなふうに話をしています。
−−−−今後の岩崎園製茶が目指す姿を教えてください。
恵美氏:自分たちの世代で新しい流れを作っていくことは大切ですが、あくまでも、長年ご愛顧いただいているお客様を、裏切ることがないような新しさでなければならないと、常々思っています。
もちろん、今後ECにますます力を入れていきたいと思っています。現在の通販の流れは完全にECに移行していて、郵送での注文の需要は、年々減ってきているのは事実ですが、当園には70代から90代のお客様も多く、葉書でしか注文できないお客様がたくさんいます。
葉書に震える字でご注文内容を書いて、歩くのも大変な中、わざわざポストまで頑張って足を運んで、ご注文をいただいています。このようなお客様がいらっしゃる限りは、郵送での注文をやめるつもりはありません。そのお客様たちに寄り添いながら、よりよい方法を模索していけたらいいなと考えています。
平井恵美氏・野田緑氏プロフィール
株式会社岩崎園製茶 取締役 平井 恵美 氏
1986年、福岡県生まれ。前職を経て2017年、家業の岩崎園製茶に入る。妹の緑氏・利絵氏と共に、経営企画、商品開発を手がけるほか、会社のホームページ兼ECサイトの運営、SNSでの発信などを行う。
株式会社岩崎園製茶 監査役 野田 緑 氏
1988年、福岡県生まれ。前職を経て2018年、家業の岩崎園製茶に入る。主に経理を担当。姉の恵美氏と共に経営企画・商品開発も行う。
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