たった1人の東京進出「看板ないと信用できない」と言われ… 営業電話1社に150回、粘り強さで販路を開拓した若き専務

有限会社キョウエイ自販(岩手県盛岡市)は、創業約30年を迎える地域密着型の消防設備会社だ。専務取締役を務める阿部大輝氏(30)は、父親の背中を見て育ち、2021年に入社した。地元岩手からたった1人で「個人事業主」として東京に進出し、東京支社を設立して若手経営者として家業の成長を牽引している。父からの厳しい教えと、東京支社立ち上げに至るまでの奮闘を振り返ってもらった。
目次
「ちょっとくらいの失敗ならいい」はダメ
――有限会社キョウエイ自販の成り立ちについて教えてください。
もともと自動車販売の会社として、1995年に父が創業しました。しかし、2004年頃から顧客の年齢層が上がり、購買意欲の低下が予測されたため、事業を消防設備業へシフトさせました。
現在は、ビルなどに設置された消火器や消防設備、感知器、誘導灯などの消防設備の管理や保守点検を主力としています。
――当時は家業に対してどんなことを感じていましたか?
父は顧客との信頼関係を築くため、取引先と頻繁に飲みに行っており、家にいた記憶はあまりありません。
幼少期から「家族や社員の生活を守るために、父は覚悟を持って経営に臨んでいる」と感じていました。特に心に残っている父の言葉は、「ちょっとくらいの失敗ならいい、という考えは癖になる」です。この言葉が、私のビジネスの基本姿勢に影響を与えています。
――お父様が家にいなかったことで、寂しさを感じたのでは?
父は家にいることが少なかったので、家族で過ごす時間は限られていました。ただ、その分、父が仕事にどれだけの情熱を注いでいるのかを感じることができました。父の背中を見て育ったことで、自然と経営者としての覚悟を学ぶことができたと思います。
「何もしなくても給料がもらえる」でいいのか
――大学卒業後、取引先企業で修行したとのことですが、その経緯を教えてください。
父から「家業に入れ」と言われましたが、「何もしなくても給料がもらえる」と言われたことに違和感がありました。自分の力をつけるため、まずは東京にある取引先企業で約2年間、経験を積むことを選びました。
最初の年収は約260万円で、東京での生活は厳しかったですし、「取引先の息子」と見られてしまう環境にも苦労しました。
ただ、消防設備業界の基礎を学ぶとともに、営業スキルの重要性を痛感しました。最初はルート営業が中心でしたが、お客様との接触頻度や提案力の向上が売上につながることを実感しました。
しかし、「取引先」ということに「このままではいけない」と感じ、転職を決意しました。もっと自分を鍛える必要があると考え、人材広告営業の仕事に挑戦しました。
150回以上の営業電話の果てに得た「粘り強さ」が土台に

――人材広告営業では、どのようなスキルを得ましたか。
まず、入社時に「MVPを取ったら辞めます」と宣言しました。最初は大変でしたが、入社して1年で部署内のMVPを獲得しました。この経験が自信につながりました。
営業職では、「粘り強さ」を学びました。何度もお客様にアプローチし、信頼を得ることが重要だと感じました。家業に戻ってからも役立っています。
――特に印象的なエピソードはありますか?
ある大手企業に150回以上電話をかけて、商談につなげたことがあります。「こんなに粘り強い会社は初めてだ」と言われ、契約に至りました。その経験が、私の営業スタイルに大きな影響を与えました。
20ページに及ぶ企画書と、父からの過酷な試練
――その後、東京支社の立ち上げに至るまでの経緯を教えてください。
本社がある岩手県は人口減少が進んでいるため、東京での新たな事業展開を模索しました。父に20ページの企画書を提出し、東京支社の立ち上げを提案したところ、「まずは1年間、個人事業主として活動して結果を出せ」という条件を課されました。
――個人事業主としての活動はどうでしたか?
最初は本当に1人だったので、非常に大変でした。本社と同様の「消防設備の保守点検」を売り込んだのですが、営業先から「看板がない会社は信用できない」と言われることが多かったです。それでも粘り強く営業を続け、徐々に信頼を築きました。
市場調査としても貴重な経験でしたし、東京という新しいフィールドでの事業展開方法を肌で感じることができました。
――営業での厳しい経験を、どのように乗り越えたのですか?
一度信頼を得ると、次の契約がスムーズになることを知りました。地道に努力を重ねることで、信頼関係が築けると実感しましたね。また、粘り強く何度もお話を聞いてもらうことも大切だと思っています。
しばらく後の2021年10月には、正式に東京支社を立ち上げることができ、現在は従業員も増えました。東京支社を成功させ、家業全体の成長につなげていきたいと考えています。
――今後の展望について教えてください。
東京支社の成功を基盤に、他の地域への展開も視野に入れています。父から受け継いだ教えを胸に、さらに事業を発展させたいですね。これからも社員の成長をサポートしながら、地域社会に貢献していきたいです。
プロフィール
有限会社キョウエイ自販 専務取締役 阿部大輝氏
1994年、岩手県生まれ。東海大学卒、取引先企業・人材広告販売企業での勤務を経て、2021年に現在勤める有限会社キョウエイ自販に入社。現在は専務取締役として本社の経営にも本格的に参画し、会社の成長に貢献している。若手経営者として、従業員の意見を積極的に取り入れ、風通しの良い社風を構築することにも注力。次世代の家業承継に向けたDX化の推進や新規事業の立ち上げにも積極的に取り組み、既存事業にとどまらない柔軟な経営スタイルを追求する。
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