「スピードと質、身だしなみ」東北から東京進出、わずか3年で売り上げ3倍にした若きアトツギ専務の戦略とは

ビルの消火器や感知器、誘導灯など、いざという時に誰もがお世話になる消防設備保守点検の有限会社キョウエイ自販(岩手県盛岡市)は、創業者の息子で専務の阿部大輝氏(30)が、たった1人で東京進出し、わずか3年で売上を3倍にまで伸ばした。ビルの消防設備という地味だが社会に必要不可欠な業界で、どのような営業戦略とノウハウをもって販路を拡大していったのか。阿部氏に秘けつを聞いた。
目次
「昔ながらの企業体系」を変えるための施策とは?

――東京支社を立ち上げた経緯について教えてください。
2021年、岩手から1人で個人事業主として東京の販路開拓に進出し、必死の営業で販路を獲得しました。
当時はコロナ融資が使えるタイミングで、銀行からの支援もあったため、東京支社をスタートさせました。入社当時、会社の課題は多く、トップダウン型の経営が主流で、営業活動も感覚に頼っていました。
原価計算が適当な部分も多く、取引先も民間企業は少なく官公庁がメインでした。また、社員が意見を言いづらい雰囲気というのもありました。
――具体的にどのような課題解決に取り組んだのですか?
まずは、数字に基づいた経営を徹底しました。原価計算を見直し、営業活動もデータに基づいて行うようにしました。また、取引先を官公庁に依存するのではなく、民間企業との取引を増やすことでリスクを分散させました。
――社員の意見が言いづらい雰囲気に対しては、どのように改善を図ったのですか?
従業員の意見を積極的に聞く場を設け、ボトムアップの業務改善案を採用することで、風通しの良い社風を目指しました。実際に、従業員が提案した業務効率化のアイデアを取り入れたことで、作業時間の短縮にもつながっています。
また、毎月の定例ミーティングを設け、改善案の進捗を共有し、達成感を従業員にも実感してもらうよう努めています。
営業戦略はスピードと質、身だしなみ
――営業戦略について、具体的に教えてください。
はじめは勝てそうな競合企業などの顧客に営業して、実績を作ることに注力しました。バリューのある会社を300件程リストアップし、電話をかけて営業をしました。その内の59件に電話が繋がり、31社とのアポイント取りに成功、最終的に14件と契約するに至りました。キャッシュを作ることにも注力しました。
――その成果の要因は何だったのでしょうか?
スピードと提案書の質、そして身だしなみが大きなポイントだったと思います。迅速な対応と、顧客の課題をしっかり解決する提案書を作成することで、信頼を得ることができました。また、粘り強く営業する根気も大切だと感じています。
――提案書作成において、どのような工夫をしましたか?
顧客のニーズを事前にリサーチし、具体的な解決策を盛り込むことを心がけました。また、提案書のデザインにも気を配り、視覚的にわかりやすい資料を作成しました。その結果、商談の成功率が大幅に向上しました。
加えて、商談前には事前準備を徹底し、顧客の業界トレンドや競合動向も把握するようにしています。結果、3年で売上を約3倍に伸ばす成果を上げることができました。
東京支社立ち上げで痛感した「創業社長」の偉大さと苦労

――家業承継について、どのように考えていますか?
東京支社の立ち上げを通して、創業することの苦労や大変さも実感できたことは大きく、父の偉大さも感じています。父は、同席した商談での私の対応を見て、少しずつ認めてくれるようになりました。
また、本社の経営にも貢献することで、古参社員からの信頼も得られるようになっています。結果、2024年11月からは、本格的に本社の経営にも携わるようになっています。
――今後の承継については、どのようなタイミングを想定していますか?
3〜5年後を目処に、父から正式に社長職を引き継ぐことを考えています。その際には、会社のDX化を推進し、業務効率をさらに向上させたいです。
――DX化に向けて、具体的な取り組みはありますか?
現在、社内システムのクラウド化を進めています。また、業務の自動化を導入することで、より効率的な業務運営を目指しています。加えて、顧客対応も強化し、遠隔地の顧客にも迅速に対応できるような体制を整えています。
――新たな事業展開についての構想を教えてください。
1つの事業にこだわりすぎず、柔軟に事業を拡大していきたいと考えています。現在は、ビルメンテナンス事業の立ち上げも視野に入れています。既存の消防設備業との相乗効果を期待しているからです。ビルの維持管理業務をワンストップで提供できれば、顧客の利便性が向上し、長期的な取引につながると考えています。
直接顔を合わせての営業力を活かし、顧客に寄り添ったサービスを提供していきたいと思います。家業を次世代へつなぐとともに、新たな事業創出にも積極的に挑戦していきます。
プロフィール
有限会社キョウエイ自販 専務取締役 阿部大輝氏
1994年、岩手県生まれ。東海大学卒、取引先企業・人材広告販売企業での勤務を経て、2021年に現在勤める有限会社キョウエイ自販に入社。現在は専務取締役として本社の経営にも本格的に参画し、会社の成長に貢献している。若手経営者として、従業員の意見を積極的に取り入れ、風通しの良い社風を構築することにも注力。次世代の家業承継に向けたDX化の推進や新規事業の立ち上げにも積極的に取り組み、既存事業にとどまらない柔軟な経営スタイルを追求する。
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