わずか4人の工務店から上場企業へブレークスルーした住宅メーカー AI駆使に宇宙建築、地場工務店のサポート、その戦略とは

従業員わずか4人の工務店を父から引き継ぎ、十数年で上場企業へと成長した株式会社Lib Work。ネット黎明(れいめい)期からデジタルマーケティングを駆使して事業を拡大してきた新進気鋭の住宅メーカーは、AIを駆使した地場工務店のサポートや、宇宙での建築計画など、多彩なチャレンジを進める。M&Aなどによる規模拡大の裏には、瀬口力代表取締役(51)の巧みな人心掌握術と、夢のある戦略があった。
目次
同じビジョンを持てる人材を集める
−−−−事業承継後、急ピッチで新たな取り組みをされていますが、従業員の反応はどうだったのでしょうか?
代表取締役社長に就任時から、やるからには日本一の会社にしようと考えていたので、従業員にその思いと私の役割を伝えました。新しいトップの考え方をいかに理解してもらうかは、事業承継における大きなポイントになります。
採用は、最初は同じような志を持った即戦力の中途採用をと考えていました。しかし、友人を設計士として入社させても、うまくいかなかったのです。
彼は、人柄は良いし、設計士としても頼りになったのですが、仕事に対する熱量が私とは違っていて「そんなに仕事をして何が楽しか?」といった感じだったんです。これではだめだと思って、私とビジョンをともにできる人材を一から育てるために新卒採用に力を入れました。
採用するときは、「将来どういう会社にしたいか」「我々の会社が社会にどう貢献していくのか」をお伝えして、そこに共感してくれた学生に来ていただくようにしています。
−−−−2004年に社名を「エスケーホーム」に変えた理由は?
瀬口工務店という社名には愛着がありましたが、新卒採用に力を入れるにあたって、学生に選んでもらいやすい社名しました。父が立ち上げていた協力業者の会「エスケー会」の名前をもらいました。
日本一になるための株式上場と社名変更
−−−−株式上場までの経緯を教えてください。
社長就任直後、弁護士を諦めてでも追いかけられる夢とは何か考えたとき、一番目指すべき目標が「上場」でした。しかし、熊本は上場企業が少なく、周囲に上場準備を経験したことのある方がいませんでした。また、有価証券報告書を提出できるレベルの会計基準が必要になるので、経理などの内部管理体制の構築が大変でした。
ただ、証券会社や監査法人のサポートもありましたし、司法試験の勉強に比べると楽だなと思いながら進めることができました。
−−−−2018年にLib Workに社名を変更しまたが、どういう狙いがあったのでしょうか?
エスケーホームにして売り上げと知名度が上がったのに、なぜ再変更するんだと反対の声もありました。でも、私が目指していたのは日本一。変えるなら上場前に変える必要があると考えたんです。
「Lib」はlivingのことで生活や暮らしを意味しています。vよりもbのほうがビジュアル的に収まりが良かったのでこっちにしました。「Work」は、ネットワークからきていて、ただの住宅会社ではなく、街づくりや暮らしに関わる多様なことに取り組みたいという思いが込められています。
社名をLib Workにしたあと、熊本の球場をネーミングライツで「リブワーク藤崎台球場」にさせていただきました。そこでプロ野球のオールスターが開催され、2019年にこの社名で上場できたので、一気に知名度が広がりましたね。以前よりブランド力も上がったと思います。
住宅会社のプラットフォーマーを目指し、月や火星での建築を計画中

−−−今後、力を入れていきたいことは何でしょうか?
大きく二つあります。一つは3Dプリンター住宅の普及をしっかり進めていきたいです。最終ゴールとしては、3Dプリンターを使って月や火星に建物をつくりたい。今、土で建物ができないかを研究中です。
セメントを一切入れず土だけでコンクリート並みの住宅が可能になってきているんですよ。これが実用化すれば、最終的には土に返せる真にエコな住宅がつくれると思います。
もう一つが住宅会社のプラットフォーマーになること。我々の業界は大きく分けて3つのグループがあり、一つめが大手のプレハブメーカー、二つめが分譲メーカーです。
この2グループのシェアが伸びている状況ですが、3つめのグループは地場の工務店。私はこの地場の工務店を社会的な意義として存続させていく必要があると考えています。飲食店でもチェーン店ばかりだと味気ないし、地元の食材を使った店や素晴らしいラーメン屋があったほうがいいじゃないですか。地場の家づくりもそうあってほしい。
だから、住宅事業者が施主に提出するプレゼンボードを自動作成するAI クラウドサービス「マイホームロボ」をサブスクサービスとして提供することで、地場の工務店のリソースが足りないところを補えるようにしています。
また、アパレルブランド「niko and …」と組んで「niko and … EDIT HOUSE」というブランドを展開しています。集客に苦戦している工務店さんがniko and … の名前が使えるのは非常に大きいんですよね。このように我々がプラットフォーマーとなって、第三グループを緩やかに一つにまとめながら社会的意義が高まるように持っていくのを目標として掲げています。
M&Aも事業承継も、リーダーとして覚悟を持つのが大事
−−−−積極的に進めているM&Aについてお聞かせください。
最初にM&Aした神奈川県の会社は、関東圏に足がかりをつけるのが大きな狙いでした。そこは年間100棟クラスで建てていて、関連業者も一気に獲得できるのが魅力でした。
当然、どの企業にもそれまでのやり方がありますから、新しいトップの考え方に根本から変えていく作業は相当な力がいります。神奈川の会社でも、当然M&Aの直後は反発もありました。
そこで、ベテラン従業員や大工さんには、私(リーダー)の役割を説明しました。その役割は三つあって、一つめは「皆さんの意見を広く聞くこと」、二つめが「意見を聞いたうえで決断すること」、そして三つめが「決めたこと守らせること」。
この三つはリーダーしかできないし、私は皆さんの意見をちゃんと聞いて、一番良い意見を選んで決定すると。ただ、その決定を守れないなら辞めてほしいと、みんなの前で言ったんです。
その後のケアとして、ベテラン従業員や大工さんを一人ずつ呼び出して、「強いリーダー像を見せるためにさっきは申しわけなかった」と謝り、「私の考え方についてきてほしい」と伝えたんですね。結果、一人も辞めることなく付いてきてくれました。
強行しすぎても、意見を聞きすぎて会社は変えられません。リーダーとしての役割さえしっかり果たせば、会社は変えることができると考えています。
これは事業承継でも同じです。若い方が承継時に、古株の従業員をどう従わせるか。そこで、リーダーとしての役割をしっかり伝えて実践すれば、古株の方が辞める可能性はあっても、それを恐れて自由にやらせていたら周りが着いてこないし、会社の成長もありません。そこはリーダーとして覚悟を持つのが大事だと思いますね。
私には息子がいて、彼に後継ぎになってほしい希望がありますが、事業を譲る場合は二重権力構造にしないことも大事です。譲っておいて口を出す方がいますが、承継したらさっさと退いて趣味に専念するのが良いと思いますね。
企業理念を守りつつ、時代に合わせていく
−−−−先代の時代から変えていないもの、変えたことについてお聞かせください。
父は企業理念を明文化していませんでしたが、お客様を一番大事にしていました。ですから、私が作成した当社の企業理念のなかにも、「お客様」というフレーズは2回出てきます。どの商売でも共通することですが、第一に考えるのはお客様であり、絶対に忘れてはいけません。お客様の利益の追求になることをしっかりやっていけば、必ず自分たちも利益が出ることになります。
変えたのは、時代に合わせること。例えば、今やAIの活用は当たり前です。テクノロジーやサステナビリティを意識しながらイノベーションをするというのは私たちのミッションであり、生産性が大幅に変わります。お客様を大事にする気持ちはそのままに、テクノロジーで効率化できることはどんどん推進してきたいと思います。
プロフィール
株式会社Lib Work 代表取締役社長 瀬口力氏
1973年12月14日、熊本県山鹿市生まれ。熊本大学大学院卒。大学院時代の1999年に同社の前身・瀬口工務店に入社。急逝した父の後を継ぎ、翌年に代表取締役就任。就任直後からインターネットを活用した集客戦略に注力し、「住宅業界にイノベーションを起こす」という信念のもと数々の新しいビジネスモデルで事業を大きく拡大。2015年8月福岡証券取引所Q-Board上場、2019年6月には東京証券取引所マザーズに重複上場。社員数は347名(2024年6月期)、売上高は154億35百万円(2024年6月期)。
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