町工場の「光る技術」を絶やさないための「技術のフリマサイトASNARO(アスナロ)」とは 愛知県のものづくり企業3代目が手がける「空きリソース」の活用術

大型エレベーターの構造部品や、産業用機械のフレームなどを製造するものづくり企業「丸菱製作所」。父から事業を継いだ3代目・戸松裕登代表取締役社長は、2010年代に赤字に陥った家業を立て直すため、エレベーター構造部品に大きく頼っていた事業の多角化を進めた。さらに、町工場同士を横につなぐ「加工技術のECプラットフォームASNARO(アスナロ)」を展開し、業界全体の構造の変革に邁進中である。どのように変革を進めたか、戸松氏に聞いた。
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目次
エレベーターの部品を作る会社からの脱却

―――エレベーター事業から、どのように他業界に進出したのでしょうか。
リーマンショックや東日本大震災を受けて、業績が赤字にまで落ち込みました。これまでは発注してくれる取引先に頼っていたのですが、主要顧客依存だけでは継続できず自立した体制が必要だと感じました。
そこで、自社のコアバリューを捉え直しました。自社の商品を語る際に今まではエレベーターの特注部品と答えていましたが、それはお客様の商品だったのです。その構造物を作れる技術こそが丸菱製作所の商品であると認識を改めました。
既存のお客様を優先しつつ、自分たちで請け負う仕事の幅を広げていくことにしました。弊社の課題は繁忙期と閑散期の稼働率に差があることです。
メインの事業を手掛けながら閑散期の受注を増やすにはどうしたらいいのか。大口の定期的な受注を徒に増やしても生産能力が足りなくなるため、スポット案件の受注を受ける柔軟な受け皿作りに取り組みました。
そこで、展示会や商談会に参加して、自社の加工技術をアピールしていきました。結果、工場のライン設備の受注や、他県のお客様とのつながりもできました。
―――どのような部分が評価されたのでしょうか。
一貫生産というキーワードは多くがアピールしている一方、大型構造物の一貫生産というキーワードは、展示会の中でも珍しい存在でした。
町工場はひとつの工程に特化している企業が多いです。例えば、板金の加工だけとか、溶接だけとか。弊社ではそれぞれの工程のノウハウを持ち総合的な技術、納期、品質にこたえることができることが魅力につながりました。
困りごとと技術を「直感的」につなぐ仕組みとは

―――町工場同士を横につなぐ「加工技術のECプラットフォームASNARO(アスナロ)」も作られています。どのようなプラットフォームなのでしょうか。
日々の困りごとから加工を依頼したい発注者と、空きリソースを活用して稼働を改善したい町工場をつなげるプラットフォームです。発注者がホテルの予約のように日程とキーワードで検索すると、条件にあった工程が表示されます。
つまり、製造技術を商品として扱い、それらを売買できるものづくりに特化したプラットフォームサービスです。サイト上で打ち合わせから発注まで完結します。また、町工場の方々にヒアリングしながら、直感的に操作できるデザインにしました。
―――なぜこのプラットフォームを作ったのでしょうか。
私たち以外の町工場にとっても繁忙期と閑散期の差が大きいことは共通の課題です。それぞれの空きリソースを共有して助け合う仕組みを作りたいと考えました。
そのきっかけは、2018年に協力会社の経営者から「この設備が壊れたら事業をやめる」と告げられたことです。長く取引がある会社なので、強いショックを受けました。
製造業では、材料価格の高騰などの理由を除いて価格の改定は容易ではありません。さらに、数年先その仕事が継続するかもわからない世の中になってきています。そうすると設備投資も難しくなります。
それを防ぐには、付加価値の高い技術開発や、新規の取引先開拓も必要です。ただ、町工場の社長は職人気質の方が多く、営業活動やマーケティングに苦手意識を持っている方も少なくありません。その部分を代わりに担える仕組みを作れれば、持続可能な企業が増えるのではないかと思いました。
―――反響はいかがですか。
最初の1年は20件からスタートして、中部地方の工場を直接回りながら登録する企業を増やしていました。リリースから3年経ち、登録者数は860社以上に増えていて、手応えを感じています。
わたしたちも事業を拡大する上で、協業先を増やす必要があるので、このシステムを活用しています。このサービスを展開していることで丸菱製作所の認知も高まりました。いくつものシナジー効果を産んでいます。
―――自社だけではなく業界を盛り上げようと考えているんですね。
町工場のものづくりは人が関わらないといけない工程こそが強みです。自動化することで生産性を高めることが着目されていますが、効率化できない部分も多いです。これからは人手不足も加速するので、人にしかできないことの付加価値は再評価されると考えています。その付加価値を高められるように業界の発展に寄与したいと考えています。
―――今後の目標について教えてください。
多くのものづくり企業と協業する中で、少しずつ自社の持つ技術力の価値に気づく方も増えてきました。また、海外で評価されるような技術があることもわかってきています。
現代はシステムを活用すれば、新規の取引先を開拓したり、自社製品を開発したりしやすい時代です。ゆくゆくは海外から受注し、技術のインバウンドなどの枠組みも考えたいです。
(取材・文/中島 彰宏)
戸松裕登氏プロフィール
株式会社丸菱製作所 代表取締役社長 戸松 裕登 氏
1986年生まれ。大学を卒業後、丸菱製作所に入社。町のランドマークとなる高層ビルの大型エレベーターの構造部品製造を主軸に、産業機械の大型フレームなど事業分野を広げている。また、プレジャーボート用の自社ブランド部門も展開中。新規事業として製造業プラットフォーム「アスナロ」を立ち上げ、技術力自体を商品として取引する新しいインフラ構築も進めている。
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