「死ねたらいいな」と思うほど悩んだ、2回の事業承継を経験した社長 どんぶり勘定のメディア企業を改革、社員のために「逃げない」

ニュースやドキュメンタリー、情報番組などを手掛ける「メディアジャパン株式会社」(東京都千代田区)。鷹栖晴奈代表取締役(54)は、28歳で父親の運送会社を継いだ後、つらくなって大手外食チェーンに転職。そこでも環境になじめず、苦難の道を歩んできた。メディアジャパンの代表取締役就任後は、コミュニケーションを大切にしながら、業務フローの見直しや社員の意識改革に着手し、社員の資産形成サポートにも乗り出している。若くして「2回の事業承継」という波乱の経験をした鷹栖氏に、現代の事業承継において大切だと考える点を聞いた。
目次
キャリアで2度目の事業承継

−−−−大手外食チェーンから、メディアジャパンの前身となる会社に転職された経緯を教えてください。
転職先を探すとき、たまたま見つけたのが「メディア総合研究所」というメディアジャパンの前身となる会社でした。
翻訳・IT・映像の3事業部をメインに展開しており、私は「翻訳でもやれたらいいかな」という軽い気持ちでした。
そこで、2010年に大手外食チェーンを退職し、メディア総合研究所へ転職したのです。
−−−−メディアジャパンの代表取締役に就かれたのはどのような経緯だったのでしょうか?
2018年、メディア総合研究所の親会社がメディアジャパンをM&Aし、映像事業部とメディアジャパンを再編して、現在の「メディアジャパン」の体制になりました。
合併で生じる問題や、既存スタッフの面談と説得をすべて私がやっていたこともあり、親会社からメディアジャパン側の責任者として推薦してもらいました。
メディアジャパンのような映像制作会社は、非常にどんぶり勘定な部分がありました。
一方で、親会社は細かく管理を行っている上場企業です。
役員会では創業者と親会社の言葉が通じないことも多々あり、その際に「鷹栖が通訳として入れ」と言われ、役員会へ参加していました。
その流れで親会社の方から推薦してもらい、2020年5月に取締役、2022年には代表取締役に着任しました。
−−−−代表取締役に就任後、最初はどのような課題の解決に向き合いましたか?
まずは、会社の売上を安定させようと考えました。
そこで、最初に取り組んだのが、社員の意識改革です。
会社のお金は打ち出の小槌ではなく、売上を立てていかないと、自分たちの給料も得られないことを社員へ伝え続けました。
当時は湯水のように経費を使っていたため、承認制に変えるなど仕組みを少しずつ整備していきました。
−−−−管理の思想が入ることで、社員から反発はありませんでしたか?
当初は反発もありましたが、きちんと理由を説明するようにしました。
頭ごなしに「経費を使ってはダメだ」と伝えるのではなく、きちんと説明すれば理解してもらえると考えていたからです。
また、すべて禁止するのではなく緩急をつけました。
たとえば、毎晩残業をしている社員がいるとします。
遅くまで仕事をすることで、社員は疲れが溜まることでしょう。
帰りにタクシーを使いたいという要望があれば、その場合は許可を出しました。
すべて禁止するのではなく、時々緩めることを意識しました。
社員が心身ともに豊かになるための取り組み
−−−−その他、意識改革に関して取り組んでいることはありますか?
必ず年に2回全体会議を行い、会社の理念や経費の使い方などを説明しています。
私が社員へうるさく言うのは、利益が欲しいからではありません。
利益はあくまで手段であり、目的は社員に自信を持って給料を払いたいからだと伝えています。
満足いく給料を払うためには、利益を確保しなければなりません。
会社の電気やエアコンをつけっぱなしにしていると、給料やボーナスに間接的に影響します。
家計と置き換えられるように説明をしたうえで、社員が心身ともに豊かになれる方法を探していると伝えています。
−−−−社員のフィナンシャル教育にも、熱心に取り組まれていると伺いました。具体的には、どのようなことをされているのでしょうか?
アクサ生命保険株式会社に協力してもらい、資産運用に関するセミナーを開催しています。
これからは自分の資産をしっかりと把握するだけでなく、自分で守っていく必要があるといった内容をお話いただいています。
−−−−なぜ、そこまでされるのでしょうか?
会社が社員へ支給できる給料には限度があります。
もちろん湯水のように会社が給料を支給できれば、それは素晴らしいことです。
しかし、仮に多くの給料を支給できたとしても、ただ貯金をしたり、湯水のように使ったりしていいわけではありません。
きちんとお金の流れを把握することで、より無駄のない運用ができるようになると考えているため、資産形成に関する学びの機会をつくっています。
自分の財産は自分で守る力が求められる時代です。
事業承継で大切なのは「何のために」を追求していくこと

−−−−1回目の事業承継経験が、2回目で生かされた点はありましたか?
とにかく向き合っていくしかないという気持ちになれたのは、1回目の経験が生かされた部分と言えるかもしれません。
父親の会社を28歳で継いだときは、自分だけのことを考えていたため、辛いという気持ちに押しつぶされ、逃げてしまった私がいました。
2回目の事業承継を経験できたのは、神様が「またやりなさい」「次はもう絶対逃げるなよ」と、示されたのだと思います。
2回目の事業承継では、同じことは繰り返されないようにしようと考えていました。
−−−−事業承継で心が動いた瞬間を教えてください。
仲間の存在が非常に大きく、頑張るモチベーションになっていました。
頼りない社長に対して、仲間が「頑張って盛り立てようぜ」といった空気をつくってくれているので、そこに対して真摯に向き合っていこうという気持ちです。
以前は、五里霧中で「苦しい」「死ねたらいいな」と思うことが多々ありました。
でも、振り返ってみると、今では「私の人生、幸せだったな」と感じるようになりました。
すべての経験が私にとって必然であり、積み上げてきた今があるからこその幸せだと感じられているのだと思います。
−−−−事業承継は、日本社会の課題になっています。鷹栖様が考える、現代の事業承継において大切な点を教えてください。
常に「何のために」を追求していくことではないでしょうか。
私自身、これだけ苦しい想いをしながらも社長を続けていられるのは、社員を守るという気持ちがあるからです。
また、社員が制作したものに対して、その先に満足してくださるお客様がいます。
だからこそ、会社の継続的発展を遂げさせなければならないと考えています。
あくまでも事業承継は、自己ではなくて利他のために何ができるのかといった視点が、一番重要になるのではないでしょうか。
本当に利他のためになるのかといった考え方ができれば、独断的な暴走や自己中心的な運営にはならないはずです。
また、何のためにという視点があれば、事業承継するときもスムーズに進むのではないでしょうか。
なぜ、この会社を継ぐのかきちんと説明できれば、お互い良い関係を保ちながら次の時代へ継承されていくのではと考えています。
鷹栖晴奈氏プロフィール
メディアジャパン株式会社 代表取締役 鷹栖 晴奈 氏
1970年、栃木県生まれ。父親が経営している建築会社へ新卒で入社。その後、運送会社へ転籍し、1999年に代表取締役へ着任。事業の引継ぎを行い、大手外食チェーンでの業務を経て、2010年にメディアジャパンの前身となる会社へ転職。M&Aを経て、2022年にメディアジャパン株式会社の代表取締役へ着任。コミュニケーションを大事にしつつ、業務フローの整備や社員の意識改革に着手。テレビ番組制作会社として、数多くのニュースやドキュメンタリーの制作に携わり「Rの法則」などの番組を手掛ける。
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