COLUMNコラム

TOP 経営戦略 「日本交通」に学ぶ、オーナー企業が事業承継を行った場合に気を付けるべきポイントとは? #1
S経営戦略

「日本交通」に学ぶ、オーナー企業が事業承継を行った場合に気を付けるべきポイントとは? #1

「所有と経営の分離」で成り立っている企業がある一方で、経営者および会社の所有者が同一であるオーナー企業も存在します。このような企業において事業承継を行う場合、注意すべきポイントと把握しておくべき課題があるため、確実に認識しておくべきでしょう。この記事では、オーナー企業における事業承継に関して、「日本交通」の事例に基づき解説します。

オーナー企業を先代から承継する際に気を付けるべきポイント

まずは、日本交通 代表取締役会長 ※取材当時 川鍋一朗氏へのインタビュー内容を一部抜粋のうえ、オーナー企業における事業承継の注意点について見ていきましょう。

失敗は早めにする

川鍋氏は、30歳で日本交通の3代目として入社後、「会員制ミニバン・ハイヤー事業」を展開する子会社を設立し、多額の赤字を出す結果となりました。しかし、「事業承継者は失敗してもクビにはならない」という背景のもと、早めに失敗体験を積んだことで、後に展開する複数の新規事業の成功につながっています。

当時について、川鍋氏は次のように語っています。

「失敗はしてしまったんですけど、それはラッキーでしたよ。反対もされなかったですし。事業承継の最高のメリットって、いくら失敗しても首がつながるってことだと思うんですよ。失敗しても必ず学びがあります。いかにたくさん失敗するか、これが重要だと思います」

若手を活かす

オーナー企業は経営者と所有者が同一であるため、ワンマン的な経営になりがちといわれています。しかし、日本交通では若手の意見を取り入れることでその状態に陥ることを避けられたといえるでしょう。

当時について、川鍋氏はこう語ります。

「プライドを持って長年業務に従事している若手の皆さんと交流してみると、見えてくるんですよ。『一朗さんこういうのがね、こうやったらいいんですよ』というアイデアがたくさん出てきます。本当はこうやったらいいのに、という普段言えないようなことも聞くことが大切ですね」

コンフォートゾーンを飛び出す

「居心地の良い場所」のことを「コンフォートゾーン」と呼びますが、川鍋氏はあえて自社とは異なる環境の人々と交流を持つことで、偏った企業経営に陥らないようさまざまな側面からの見方を身に付けられたといえます。

コンフォートゾーンを飛び出した当時について、川鍋氏は次のように語っています。

「ベンチャー企業の社長であったり、世代間ギャップや文系理系の違いであったり、全く話が合わない方々との交流の場にあえて飛び込んでいく。例えば1年間、ずっと昔からの付き合いがある人たちとすっぱり交友を断って。最初はちょっと辛かったですが、話しているうちに向こうの強み、弱みが違うことも分かってきて、こっちも十分戦えるな、と。この必要性は自分でも、身に染みて分かっていました」

現場に自分から飛び込む

「所有と経営の分離」が成立しないオーナー企業の事業承継において、創業以来培われてきた地盤にただ腰を落ち着けるだけでは企業の成長は見込めないでしょう。経営陣の独断専行が横行する事態にもなりかねません。川鍋氏はタクシー会社の経営者ではありますが、乗務員として現場体験も積むことで、自社従業員レベルにおける目線も得られたといえます。

現場に飛び込むことの重要性を、川鍋氏は次のように語っています。

「順応性には意外と自信があって、興味もあります。日本交通でタクシー乗務員を1カ月やった時に決定的に分かりました。そこには自分の知らない世界があり、そういう場に飛び込んでみることは大きな学びがあります」

アニマルスピリットを持つ

創業から2代3代と継承されていくと、既にある環境に甘んじてしまい企業の成長が止まってしまう恐れがあります。川鍋氏はこれを良しとせず、創業者と同様レベルの精神性=アニマルスピリットを持って企業経営に臨むことが重要と考えているようです。

そのことについて、川鍋氏はこのように語っています。

「おじいちゃんの作ったタクシーをこんなに変えちゃっていいのか、と周りからはいわれました。これは違うでしょうと。初代の人たちの逸話を聞けば聞くほど、アニマルスピリットが丸出しです。ギラギラしているんですよ。3代目とかになると牙を抜かれがちですけれど、これが危ないと思って。ビジネスの世界ってやっぱり、弱肉強食です。継承者に必要なのは、やっぱりアニマルスピリットです、これは自然には身に付きません」

オーナー企業の事業承継にありがちな課題とは?

本項では、オーナー企業における事業承継に際して発生し得る課題について3点解説します。

相続で家族がもめることがある

相続問題は個人・法人を問わず起こり得るものです。しかし、オーナー企業のような経営と所有が同一化している企業の場合、事業承継に際して誰が跡を継ぐのか、という問題が浮上してくるでしょう。後継者候補が多ければそれだけ、家族間でもめる恐れは高くなります。

ワンマン経営になりがち

オーナー企業の代表は、経営権と所有権の双方を有しているため、企業において絶対的な権力を有している存在です。代表の資質によっては、「独裁政治」のような環境を形成してしまう恐れがあるでしょう。そのような社内環境ではトップに対して何か意見を述べられる人材はいなくなってしまい、ワンマン経営に陥ってしまうかもしれません。

権限の一極集中

意思決定は代表の一存で決まることが多いため、スピード感のある経営判断を行えるという側面ではオーナー企業ゆえのメリットがあります。しかし、いくつかの意思決定プロセスを通さず、代表に権限が一極集中の状態で経営を行うと、致命的なミスを誘発してしまう恐れもあるのです。

まとめ

オーナー企業において事業承継を行う場合、経営と所有の権限を有しているオーナー社長の権限を適切に使用すること、そして代表の独断経営に陥らないようにすることが非常に大切です。そのため、事業承継に際しては適切な候補者を育成し、会社の状態を全社的に把握しておくことが必要になります。

事業承継については、こちらの記事で流れを解説しているので併せてご覧ください。
「事業承継の流れを7つのステップで解説!」はこちら

記事本編とは異なる特別インタビュー動画をご覧いただけます

FacebookTwitterLine

賢者の選択 サクセッション編集部

賢者の選択サクセッションでは、⽇本経済の課題解決と発展のためには、ベンチャー企業の育成と併せて、これまでの⽇本の成⻑を⽀えてきた成熟企業∕中堅‧中⼩企業における事業承継をフックとした経営資源の再構築が必要であると考えています。 ビジネスを創り継ぐ「事業創継」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。 絶対解の存在しない事業承継において、受け継いだ経営者が事業を伸ばす きっかけとなる知⾒を集約していきます。

記事一覧ページへ戻る