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50年近く前から続く老舗ガラスびんメーカーの商品、なぜ今注目を集めるのか バンド「ユニコーン」とコラボグッズ、海外輸出でヒットも

公式サイト開設とインスタグラムによる発信で新たな客層を獲得し、進むべき道筋が見えてきた5代目。長年愛されてきた製品をリブランディングしたことで、大手企業との取り引きや海外展開など事業の幅を広げている。無理せず、あくまで自分らしく挑戦していく大川硝子工業所のこれからを5代目・大川岳伸氏(45)に聞いた。

伝手なしから人気バンドにツアーグッズを売り込む

−−−−人気バンド・ユニコーンのグッズを製作した経緯をお聞かせください。

「好きなアーティストと仕事ができたら楽しいだろうな」というミーハーな感覚からスタートしました。ユニコーンのメンバーは広島出身で、広島といえばお好み焼き。当社製品の「サーバーびん」をお好み焼きソース用のポットとして、ユニコーンのツアーグッズにできないかと考えました。

何の伝手もないので、まずはバンドに関りがありそうなサイトに掲載されていたメールアドレスに企画概要を送りました。後から聞いた話だと、的外れな部署に問い合わせをしてしまっていたのですが、すぐに返信がきました。

その後、順調に話がまとまって2016年の全国ツアーのグッズとして販売されました。ユニコーンのファン層は、家庭を持つ女性も多かったので、キッチンツールにもなるソースポットのニーズがあると睨んでいました。実際好評で追加生産もしました。

ダメもとから実現した企画ですが、メールを送ることは大したことではないし、反応がなかったら別のことを考えればいい。ユニコーンのグッズは、やってみたいこと・好きなことを仕事に落とし込む典型的な一例になりましたね。

リブランディングした商品が大手企業の目にとまった

−−−−保存びんを「Familiar」シリーズが好評ですが、リブランディングしようと思ったきっかけは?

もともとは、「大川硝子工業所の代名詞となるような商品が欲しい」と考えたことがきっかけです。しかし、新商品を開発するためには金型が必要で、新たにびんの金型をつくろうとすると莫大な予算がかかります。

当然そんな資金はありませんでした。そこで、祖父の代からあった保存びんシリーズ「ファミリーポット」をリブランディングすることにしました。

祖父は、お煎餅屋さんが煎餅を入れたり、お菓子屋さんがお菓子や飴を入れたりする大きなびんに、小さいサイズがあったら面白いのではないかと考え、「地球びん」をつくりました。ベースとなるデザインは50年以上も変わっていないので、製品のポテンシャルは高いと考えたのです。中身はそのままに、パッケージをDJ仲間のデザイナーにデザインしてもらい、地球びんを含む3アイテムを「Familiar」としてリブランディングしました。

その後、自分で写真を撮ってSNSで使用シーンやイメージを地道に発信し続けた結果、リブランディングから1年で、無印良品の特別企画のアイテムとして採用されたり、BEAMSとのコラボレーションに関わる事になりました。

遅れを取っていた日本の環境意識に着眼 そこから生まれた「BINKOP」

−−−−ガラスびんの「水平リサイクル」に注目を集めています。

もともと日本ではガラスびんを多く使っていましたが、缶やペットボトルなどの他容器化の影響を受けてガラスびんの製造量はこの25年で半減しています。

株式会社大川硝子工業所 代表取締役 大川 岳伸 氏

近年、プラスチックごみ問題が取りざたされてきていますが、これについて言及しているガラスびんの会社はそう多くはありませんでした。私はガラスびんを使うことは、この問題を解決するアプローチの一つになると考えていたので、プラスチックごみ問題に関する海外の潮流を調べてみました。

世界的にSDGsが叫ばれる前の話ですが、海外ではプラスチックごみ問題の意識が高まっていると知り、この流れはいずれ日本にくることが予想できました。同時に日本では、ガラスびんをリサイクル前と後で用途を変えず、再生利用する水平リサイクルの割合がEU並みに高いのに、その認知度が低い事にも気づかされました。

それなら当社で発信してみようと思い、プラスチックごみ問題とガラスびんの新たな価値についての発信を始めました。530week(若者視点で環境問題の解決を目指す有志の団体)にも参加しました。近年はどこの企業もSDGsやエシカル消費といったことをアピールしていますが、当社はそういうところと少し距離を取っています。そもそも環境に配慮することは当たり前でそれを偉そうに言うのも違いますし、賛同してくれない人に押しつけるつもりもありません。

−−−−BINKOPとはどういう商品なのでしょうか?

2023年にリリースした新商品で、ガラスびん同様に使用済みガラスびんが原料となったガラスコップです。ガラスコップやガラス食器は、基本原料(主に珪砂)以外に、ホウ酸などが入っている場合があり、それらは燃やせないゴミ(不燃ごみ)として扱われてしまいます。その点BINKOPは、ガラスびんと同じ製法で作られているので要所要所にガラスびんとして判断できるディテールがあるため、万が一捨てなくてはいけない時は、ガラスびんの資源ごみとして排出する事ができます。元の姿に戻る事が出来る日用品って実はあんまりないんですよね。

「BINKOP」を通してガラスびんを理解してもらい、新たな価値観に気がついてくれたら嬉しいです。

受け継いだ商品を、等身大で世界に広げていく

−−−−今後の展開と「事業承継・創継」についてお考えをお聞かせください。

来年、地球びんが誕生して50年になります。半世紀も同じ形で続いていることは結構すごいこと。来年は地球びんにスポットを当てた1年にしたいと考えています。

また、広がりつつある海外展開にも力を入れたいです。前出の無印良品の特別企画がグローバル企画だったことで、多くの海外の方に認知され、そこからオーストラリアのセレクトショップが、当社の商品を扱ってくれるようになりました。

現在はインスタグラムの反響で、海外からの問い合わせや発注が増えています。2023年にはメルボルンでポップアップストアを開催し、オーストラリアやイギリス、ベルギーなど現在10ヵ国近くに輸出しています。海外事業をするようになって、メイドインジャパンの信頼の厚さを感じました。

「事業承継」については、事業がやっと軌道に乗ってきたところですし、目の前のことで精いっぱいなので具体的には考えていません。「事業創継」は長く愛されるためにしてきた先代の意志を引き継ぎつつ、自分が面白いと思ったことにチャレンジしていきたいです。

売り上げは入社時の低迷期から2倍近くになっていて利幅も増えています。事業を大幅に拡大しているわけではありませんが、価格競争から距離を置き、無理せず自分らしくやってきたことで、当社に賛同してくれる方が増えました。

自分が旗振り役をすることで、当社だけでなく、ガラスびん業界もお客さんも両方ハッピーにしていけたら嬉しいですね。

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プロフィール

株式会社大川硝子工業所 代表取締役 大川岳伸

4年間のサラリーマン生活と2年間の飲食店勤務を経て、2008年に大川硝子工業所に入社。2016年に5代目の代表取締役に就任し、ホームページやSNSで自社製品の魅力と強みを発信し、廃盤寸前だった自社製品のリブランディングに着手。良品計画、BEAMSなど大手企業との取り引きで事業を拡大。専門学校東京デザイナー・アカデミーとガラスびんの新たな可能性を見出す商品開発や環境問題の啓発活動など、さまざまな取り組みを精力的に行う。

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