「たくさん作れば何とかなる」の社風と「どんぶり勘定」をどうにかしないと… 「家庭科は苦手」の警察官、縫製工場に専務として転職

もともとアパレルメーカー向けに婦人服縫製をしていた縫製工場「オオミスタイル」(滋賀県高島市)は近年、カバンや小物雑貨へと事業を拡大し、2023年には自社ブランド「ヌノニシタイ」も立ち上げた。50年の歴史を支え、新たな価値を生み出そうと奮闘するのは、取締役専務の中矢佳希氏(30)だ。京都府警の警察官から、家業を継ぐ決断に至った背景と、経営に携わるまでの軌跡を聞いた。
目次
大量生産から少量多品種の生産へシフト
――オオミスタイルの歩みを教えてください。
もともとはアパレルメーカー向けに婦人服の縫製を行っていました。創業者は義祖父で、長年にわたり大量生産による婦人服製造が事業の中心でした。
しかし、時代とともにそのビジネスモデルが厳しくなり、今ではカバンや小物雑貨の縫製にも幅を広げています。
――事業の転機があったそうですね。
2022年12月です。創業者から義母に事業を承継し、新たな方向性を打ち出しました。その後、現社長である義母の娘婿にあたる私も経営に携わるようになりました。
――婦人服から小物雑貨へとシフトした理由は何だったのでしょうか。
婦人服の需要が減少し、大量生産が厳しくなったからです。今の時代は少量多品種の生産が求められます。義母は「長年培ってきたさまざまな製品に対応できる縫製技術」という当社の強みを活かそうと、カバンや雑貨といった分野に活路を見出しました。
現在は、メインクライアントである京都のバッグメーカーのほか、全国のさまざまな企業と取引をしています。

警察官の職を辞して妻の家業へ
――中矢様は、どのような経緯でオオミスタイルに入社されましたか。
私は愛媛県で生まれ、大学進学をきっかけに京都に出ました。子どもの頃から警察官になるのが夢で、大学卒業後は京都府警に勤めていました。その時に、警察が運営するボランティア活動を通じて今の妻と出会いました。
出会った当初は、妻の実家が縫製業を営んでいることは知っていましたが、関わるつもりはありませんでした。しかし、警察官として働くうちに「長くこの仕事を続けるのは、自分には向いていないかもしれない」と感じることが増えました。
警察官の仕事はやりがいもありましたが、仕事の内容や人間関係に息苦しさを感じることが多くあったからです。一方で、妻の実家の縫製工場は、家族が一緒に支え合っていました。その姿が私にはとても楽しそうに見えたのです。そして結婚を機に滋賀へ、妻の家業に加わる決意をしました。
――家族で協力し合う環境が魅力的だったということでしょうか。
私自身は、ミシンは家庭科の授業で触ったことがある程度で、家庭科も苦手だったくらいです。それでも、家族で一つの目標に向かって仕事をする姿に憧れました。もっと人とのつながりを感じながら働きたいと思ったのです。
「どんぶり勘定」だった当時の経営管理
――入社当初、オオミスタイルはどのような状況でしたか。
創業者である義祖父は「洋服を大量生産さえしていれば売上はついてくる」という考え方でした。しかし、時代の流れとともに、洋服の大量生産は難しくなっていました。それでもスタイルを変えずにいたので、経営は厳しくなっていました。
――経営管理の面での課題はあったのでしょうか。
経営管理はいわゆる「どんぶり勘定」でした。数字の管理が甘く、効率的な経営ができていませんでした。製品の種類を増やし、カバンや小物雑貨の縫製を始めることで、何とか時代に対応しようとしていました。
製品の種類を増やすことと同時に、効率や利益も考えなければならないのに、当時は「とにかく作ればなんとかなる」という考え方でした。経営に携わったとき、そこに大きなギャップを感じました。
コロナ禍後の売り上げ減をきっかけに経営に携わるように
――中矢様が経営に携わるようになったきっかけを教えてください。
2020年、新型コロナウイルスの影響で一時的にマスクや防護ガウンの縫製需要が急増し、売上は伸びました。でも翌年、その需要が急減し、経営が厳しくなりました。「このままではまずい」と思い、専務として経営に関わるようになりました。
―― 現在の社内における役割分担を教えてください。
義母は社長として工場長の役割を担い、現場の指揮を執っています。私は生産現場での裁断業務からバックオフィスの管理業務まで、幅広く携わっています。家業の全体像を把握するために、業務に携わることで、現場と経営両方のスキルを身につけている段階ですね。
プロフィール
有限会社オオミスタイル 取締役専務 中矢佳希 氏
1994年愛媛県生まれ。京都の大学を卒業後、2016年に京都府警入職。2019年に結婚を機に妻の家業である縫製工場「有限会社オオミスタイル」に入社。業界未経験ながら現場で学び、幅広い業務を経験した後、経営改善に取り組む。2021年に取締役専務に就任し、利益を見える化し、会社の経営基盤を立て直した。100%下請けからの脱却を目指すべく2023年には、自社ブランド「ヌノニシタイ」を立ち上げ。クラウドファンディングでの成功を収めるなど新しい挑戦を続けている。現在は、次世代の職人育成にも力を入れ、講習会や動画コンテンツを活用した技術継承を進めている。
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