介護事業に参入した内装会社、赤字脱出の転機は「地元で信用あるケアマネ」の存在 内装の技術も生かし、遺品整理や墓仕舞いも

内装業が本業だった島根県の企業「齋藤アルケン工業」は、借金が膨らんだことなどから、2009年に全く畑違いの介護事業に参入した。当初は社名も福祉産業らしくなく、地元での信用も得られず赤字続きだった。しかし、参入3年目、地域で信頼のあるケアマネジャー2名の入社が転機となり、介護事業で黒字化を達成。さらに、内装業で培った技術とネットワークを活かし、高齢者の住環境改善から遺品整理まで、地域のニーズに応える新たなサービスを次々と展開している。2011年に父から経営を承継し、さまざまなチャレンジを続ける2代目代表取締役の齋藤憲嗣氏(52)に、会社の歩みを聞いた。
目次
介護事業は「信用」事業、訪れた転機

──介護事業が軌道に乗ったきっかけを教えてください。
2012年に大きな転機が訪れました。地元で有名なケアマネジャーだった、同級生のお母さんが、前職を退職するタイミングで「一緒にやろう」と声をかけてくれたんです。
母親に相談したら「今も、できてないのに大丈夫?」という反応でしたが、「現状維持では変われない、これでだめなら」と、当面の人件費を金融機関から借り入れました。
そして、その方ともう1人若いケアマネジャーさんと一緒に、居宅介護支援事業『歩歩笑み(ほほえみ)ライフ』をスタートし、私と母は福祉用具レンタル事業も行いました。そこからは本当に状況が一変しました。
──具体的にどのような変化がありましたか?
我々の最大の課題だった「信用」という部分を、2人が運んできてくれました。実績も人脈もある方々が加わることで、仕事が集まり始め、実績につながっていきました。翌年には黒字化を達成し、以降、毎年のようにスタッフが増えていきました。
スーパーで買物ついでに介護相談!そこから生まれる新たな取り組みも
──御社ならではの特徴的な取り組みを教えてください。
介護事業が軌道に乗り、2018年からは、スーパーマーケットで介護の無料相談所を始めました。この取り組みは「行政には相談しづらい些細な悩みを、気軽に話せる場所があったらいいのに」という従業員からの声がきっかけでした。
相談日は年金支給日に合わせるなど、来店しやすい工夫もしています。大手メディアにも取材していただいて、非常に話題性がありました。
実は、これには戦略的な狙いもあったんです。介護業界は、ケアマネジャーの営業先は医療機関か行政くらいしかありません。同業者も皆同じことをやっている。そこで、相談窓口を設ければ、他社とは違う受け皿として機能すると考えました。
さらに、2カ月に1回、新聞折り込みで開催案内を出すことで、来られない方にも会社名を覚えてもらえる。将来、介護が必要になった時に思い出してもらえるように、という仕掛けです。
──それ以外には、どんな取り組みをしましたか?
ケアマネジャーが訪問先で「トイレのドアの鍵が壊れている」といった相談を受けることが多いんです。そこで、内装業時代のネットワークを活かしてすぐに対応できるようにしています。
段々と、困ったら呼んでもらえることも増えました。高齢者の生活を総合的にサポートする「ワンストップ」のような形で、2024年からは遺品整理や墓仕舞いなどもしています。
──事業も従業員も増えて、社内で変えたことはありますか?
介護事業を始める時に、行動指針も新たに作りました。また、経営者として従業員の方に「働いてもらっている」という考え方に変更しました。
事業を始めて「ありがとう」と言ってもらうことがとても増えて、そこから「人々の困ったを解決し、ありがとうを創造する」という理念を掲げました。従業員が120%の力を発揮できる環境づくりを心がけています。
食品事業への挑戦、大きな収益の柱に

──介護以外の事業にも取り組まれていますか?
2017年から、介護施設向け調理済み食品販売を始めました。ヘルスケア産業の研修で熊本県に視察に行った時、高齢者向けの食材を提供している会社の代表と出会い、「うちの地域でもできないか」と相談したのがきっかけです。
──介護事業・食品事業を展開され、事業構成はどのようになりましたか?
売上の比率で見ると、今では食品事業が約4割にまで増えています。主力の介護事業は、残りの6割を占めています。
常に自分たちの事業で見つけた課題に対して、ニッチであってもその問題を解決するようなビジネスをはめ込んでいくイメージでやってきました。
大手ではないので、すべての要望に対応するのは難しい。そこは割り切って、できることを確実にやっていく方針です。少しでも地域で暮らす方々の役に立とうと起こしていた行動が、結果として信頼を呼ぶこととなったんだと思います。頼ってもらえる存在になれたことは嬉しいですね。
「継続とは変化」受け継いだ継続の本質
──最近は新しく始めた事業はありますか?
地域に根差した活動が信頼につながり、2019年には介護サービス提供事業所「よろこぼう屋」を承継しました。また、2022年には浜田市農協から介護事業を承継し、「合同会社ライフピークス(ヘルパーステーション花笑み)」として新しい法人を立ち上げスタートしました。創業者や働いていたスタッフ皆さんの思いとともに、承継させていただいています。
──今後のビジョンについてお聞かせください。
介護事業は社会保障制度に依存している以上、いつまでも安泰ではないと考えています。だから常に新規事業のアンテナを張り、できるだけ投資を抑えながら新しいことにチャレンジしていきたいと思っています。
──創業者のお父様から、受け継がれた姿勢なのでしょうか?
父も創業時はシャッター取付けから始めて、サッシ、軽量鉄骨と、時代とともに扱うものを変えてきました。私は「継続とは変化すること」だと考えています。
ただし、「困っている人を助け、ありがとうを創造する」という理念は決してぶれさせない。その軸があるからこそ、変化にも挑戦できるのだと思います。
齋藤憲嗣氏プロフィール
有限会社齋藤アルケン工業 代表取締役 齋藤 憲嗣 氏
1972年、島根県生まれ。大学卒業後、家業の取引先メーカーに入社。製造、配送、営業を経験し、2000年に現在勤める有限会社齋藤アルケン工業に入社。2009年に介護事業を立ち上げ、2011年に代表取締役に就任。介護と食品の2本柱で事業を展開し、現在は年商2億1000万円、従業員18名。地域に密着した介護サービスと、介護施設向け食材販売事業を手がける。2018年からはスーパーマーケットでの介護無料相談所を開設し、高齢者の些細な困りごとにも対応。「困っている人を助け、ありがとうを創造する」を理念に掲げ、内装業で培った技術を活かしながら、地域の課題解決に取り組んでいる。
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