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「やりがい搾取」の介護業界に決別を、救済型M&Aで急成長 福祉と人権、ビジネスマインドを合わせ持った業界の救世主とは

人材の確保が難しい介護業界で、設立5年目にして従業員数約3000人、年商80億円超を実現し、全国47都道府県に140事業所を展開する株式会社土屋(岡山県井原市)。24時間365日の事業継続が求められる介護業界が「事業承継」という大きな課題に直面する中、「救済型M&A」を精力的に進め、福祉・介護業界を「やりがい搾取」の状況にしないビジネスを展開する高浜敏之代表取締役社長に、思いと手法を聞いた。

オールハッピーのための事業承継 

株式会社土屋 代表取締役社長 高浜 敏之 氏(写真提供:株式会社土屋)

―――介護業界で全国に事業所を展開するのは、あまりないケースですね。

そうですね。例えば鉄鋼業界や自動車業界のように、大規模な数社でマーケットがほぼシェアされている業界と違い、介護業界は地域に根ざした多数の小さな企業体でマーケットを維持しています。 

全国をカバーする会社もいくつかはありますが、マーケットシェアの90%が小さな事業者です。

一方で、社会全体は超高齢者社会に突入していきます。業界に、吸収合併の流れが出てくるのは必然です。今はその移行期で、リスクも多い時期だと思います。小さな事業者は経営を維持することが難しくなり、毎年のように過去の最多倒産社数を更新しています。

事業承継の問題も深刻です。介護保険が導入され、介護業界に民間業者が一斉に参入した2000年から25年がたちました。多くの事業者が代替わりの時期を迎えながら、後を継ぎたい者は出てこない。 

どの会社でも倒産となれば一大事ですが、介護事業者の倒産は利用者の生命を左右しかねません。事業者の倒産により、それまで受けてきたケアが受けられなくなる。

それなら違う事業者に移ればいいと思われるかもしれません。でも、たとえば認知症は関係性や環境の変化が症状に大きな悪影響を与えます。同じ環境で安定したサービスを受け続けるということが、非常に大事なことなのです。 

全国津々浦々に、良質で安定したサービスを提供できる事業所を展開することで、必要なケアを必要な方々に届け、住み慣れた地域社会のなかで安心して暮らしていただきたい。そのために全国展開を目指して進んできました。 

―――後継者のいない事業者、経営が苦しい事業者を救済型M&Aでグループ化させるということですね。 

ひとくちに救済型M&Aといっても形はさまざまです。代表者が引退したいということであれば、マネジメントから引き受けることもありますし、元の経営陣はそのまま残って、資本その他のリソース面で後方からサポートするということもあります。 

基本的には後方支援の形で入って、利用者や働いている人の状況は大きく変わらないというケースが多いです。同じ人たちが現場を担い続ける状況を維持していきたいという思いで取り組んでいます。 

―――グループに迎え入れるためのポイントはなんですか? 

全国展開となってからは「グループに入りたい」とお声がけをいただくことが多いです。そうした場合、相手がこれまで歩んで来た道筋や理念、必要としていることなどを聞き、我々の目指すところを伝えます。

サポートすることで、互いによりよい形で同じところを目指していけるとなればグループインしてもらいます。 

もちろん、どんな場合でもコンプライアンス面や資金面は最初に厳しくチェックし、働く人たちの待遇をよりよくしていくことを目指します。グループの一員になる以上、コンプライアンス違反やルーズな経営は見逃せませんし、なによりこのグループに入ってよかったなと、みんなに感じてもらいたい。 

利用者や利用者の家族はもちろん、働く人々にとっても満足度が向上するオールハッピーが救済型M&Aの目的です。 

やりがい搾取の業界に未来はない 

みんなが幸せな状態で永続するトータルケアカンパニーへ(写真提供:株式会社土屋)

―――大学卒業後、障害者や高齢者の介護の現場で働いていた高浜社長が、全国でグループ展開する企業を興した経緯を教えてください。 

介護の現場では非常にやりがいを感じていました。社会に必要とされる素晴らしい仕事だなと。ただし収入は非常に少なかったです。当時の私はそれが苦ではなかったし「福祉はビジネスではない」「福祉で儲けるのはおかしい」というくらいに思っていたのです。 

ところが妻が交通事故にあって休職せざるを得なくなったとき、私の手取りが15万円程度では養うことができない。今後の子育てのことを考えても、このままでやっていくのは難しい。それが現実でした。 

ちょうどそのタイミングで、介護ビジネスのスタートアップに参画しないかというオファーを受けました。その会社の社長は投資銀行の出身者。自分が生きてきた世界とあまりに違うし、そもそも福祉でビジネスを始めようというのですから、むしろ敵のような存在のはずです。 

しかし彼は現場を一切知らないので、私がいないと事業が始められない。私は家族を扶養しなければならない。そこで一緒に始めたわけですが、互いに我慢の連続でした。

そのなかで、私もビジネスとして成立させることの必要性に気づいてきた。別の視点をもつ他者との関わり合いのなかで、自分のなかの全体性のバランスが回復されたと言いましょうか。 

どんなに高い志があっても、自分自身がまともに生きていくことができない状況では、理想を叶えることはできない。他者に尽くすことはできない。施設がつぶれてしまえば、利用者を守ることはできないのです。 

利用者を守るためには、施設を守り、そこで働く人々を守らなければならない。当たり前のことですが、介護業界では、その現実が見て見ぬふりをされているようなところがあります。 

―――ビジネスを追求しない。ある意味、働く方々の苦労で成り立っているということでしょうか。 

「やりがい搾取」の業界と言えるでしょう。大切なことだから、やりがいのあることだから、苦しくても仕方ない。賃金が安くても仕方ない。

それで社会的に高い地位にあるならともかく、賃金の低さが社会的立場の弱さにつながる面があります。 

福祉大国デンマークに視察に行ったとき、ケアに携わる現場の人々が社会的に尊敬され、賃金も高いことを目の当たりにしました。社会に必要とされる仕事に従事するのであれば、それが本来の姿のはずです。 

ストリートファイト形式でバランス感覚を磨く 

―――やりがいのある介護の仕事に従事したいという人を増やすためにも必要なことですね。 

介護をビジネスとして正しく成り立たせるために、承継という大きな問題を一緒にクリアしていく。人を育て、仲間を増やして、社会を変えていく。そのためには、ビジネスの当事者として向き合っていくことが必要です。 

それがわかったから、やるしかなかった。介護の現場からビジネスの領域に飛び込み、考えや手法をストリートファイトで身につけていった感じですね。 

―――介護とビジネスのバランス感覚を磨き、現在はそれを業界に広めていらっしゃいます。 

従業員50人くらいまでは、介護従事者としての私の友人・知人で構成されていた感じです。企業としてビジネスに目を向けていく過程で「自分の道ではない」と離れていった人もいます。 

次のステージでは、福祉よりもビジネスに関心がある人が集まるようになっていきました。自動車を売っていた人、不動産を売買していた人など、いろいろな人が福祉にビジネスのチャンスを見出してやってきました。 

彼らはビジネスについては、私よりずっと知識も経験もありました。そこに私が介護や看護のマインド、福祉の重要性や人権の尊さといったものを伝えていきました。 

採用の際は学歴や職歴に関わらず、すべての従業員が最低1年程度現場を経験します。そういうメンバーで、今の経営陣は成り立っています。 

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高浜敏之氏プロフィール

株式会社土屋 代表取締役社長 高浜 敏之 氏 

1972年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科を卒業後、障害者自立支援施設、高齢者向けグループホームなどで介護業務に携わる。重度訪問介護事業の展開ほか、さまざまな福祉事業の現場の経験を経て、2020年、株式会社土屋を起業。障害者福祉、高齢者福祉、児童福祉の3本の柱を充実させるべく、訪問看護、訪問介護、通所介護、グループホームなどを組み合わせながら、すべての人が安心して地域で生きられる環境づくりを目指す。同時に廃業の危機にある福祉事業を継承する救済型M&Aを進め、各事業者が土地に根ざして生み出してきた価値を保存する役割を担う。 

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