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「売れているのに、あと1~2年で経営が立ち行かなくなる…」 老舗練り物店の危機、30代社長が断行した改革と「秘伝のコシ」

創業80年を誇る老舗練り物店「塚田水産」の3代目として経営の一線に立った塚田亮代表(50)。入社当時、店頭はいつも賑わい、なんの問題もないように見えたが、実は深刻な経営危機に直面していた。そして塚田代表は、コストカットから始まり、催事展開、新規出店、若手育成、と次々に改革を断行。伝統の味を守りながら新たな挑戦を続ける経営者の決断に迫った。

「このままでは、2年後には…」賑わう店舗の裏に潜んでいた経営危機

──練り物職人として入社してからの流れについて教えてください。

練り物職人としての毎日は、とても気楽だったのですが、ある日、父に弟と二人一緒に呼び出されました。父が言うには、「実は経営が厳しい。このままあと1、2年でやっていけなくなる」と。

毎日大勢の客が来店し、漠然と「順調なんだろう」と思っていたのですが、話を聞けば年商1億6千万に対して利益が2~300万しかない状況。店がつぶれたら仕事もなくなるし、何より売れているのに赤字というのに、納得がいかなかったです。

コストカットに仕入れ先変更…父を説得して改革を実行

──その後、数々の改革をしたそうですね。

まず、事務所に入って決算書を見ました。魚屋を10年やっていた経験から、「これはまずい」と感じました。すぐにコストカットに着手し、3、4人のパートさんと社員に辞めてもらう大変な決断をしました。

そのあとは、仕入れ先も見直しました。昔からの付き合いを重視していた原材料や包装資材の仕入れ先を、より安価な新規取引先に切り替えていきました。父からは「困ったときに助けてくれない」と反対されましたが、「今、困っているんでしょ」と説得して進めました。

──売上改善策としては、どのような取り組みをしましたか?

最初はいろいろな新商品を作ってみたのですが、うまくいきませんでした。そんな時、たまたま立川伊勢丹のバイヤーが来店して、多摩の物産展への出展を勧められ、催事に出店することを決めました。

当初は、場所も悪く、あまり期待もされていなかったのですが、予想以上の売上がありました。特に、吉祥寺から立川方面に引っ越した人たちが懐かしがって買ってくれました。「これは行ける」と思い、催事に本格的に取り組むことにしました。

催事の様子(提供:株式会社塚田水産)

──人員配置の面でも工夫したそうですね。

冬は店舗が忙しいので、催事には出ません。その代わり、夏場の閑散期に催事に出ることで、人員を有効活用できるようになりました。これで夏の売上の落ち込みもなくなり、数字も改善していきました。

新宿伊勢丹への出店と立ち飲み屋のオープン

麻布台ヒルズへの開店告知(提供:株式会社塚田水産)

──その後、常設店舗の展開もしたのですね。

催事でのつながりから、新宿伊勢丹への出店が決まりました。そこで認知度が上がり、今年は麻布台ヒルズにも出店し、もともと魚屋だった店舗を活用して、立ち飲み店も始めました。若い人の練り物離れを食い止めたいという思いと、「ここで食べたおでんなら、お店でも買ってみよう」となることを期待しています。

──職人の確保も課題だったとか。

最初は年配の未経験者を採用していたのですが、なかなか技術を習得できずにいました。ところが、20代の若手を採用したところ、すごくよい結果につながりました。

今では助成金も活用しながら、若手の採用を計画的に進めています。社員の平均年齢も30代まで下がりましました。

世代を超えて守るべきものは、「祖父から受け継がれた伝統のコシ」

──これまでの改革を振り返っていかがですか。

目の前のことを解決していたら、自然とここまで来た感じです。ただ、これはスタッフのおかげです。一人では何もできないことを痛感しています。

今は増収増益が続き、吉祥寺本店も夏は1日約200人、冬は約600人ものお客様が来てくれるようになりました。今後は、スタッフへの還元も検討しています。

──今後の展望は?

祖父と父が守ってきた製法と品質は、絶対に守っていかなければならないと思っています。私たちの練り物の最大の特徴は、手づくりで、保存料がゼロで、おでんにしたときに生きる絶妙なコシです。

コシがなさすぎると、似たときに柔らかくなりすぎてぐずぐずした食感になりますし、かたすぎてもいけません。塚田水産の練り物は絶妙なコシが強みで、コシの出し方にはずっとこだわっています。おでんにしたときに、コシが残っていておいしいと思えるように。

私自身、子どもの頃に食べた揚げたて練り物のおいしさを覚えています。その味をどうやって新しいお客様に届けていくかがテーマで、そのためにできることは何でもやっていこうと思います。

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プロフィール

株式会社塚田水産 代表取締役 塚田 亮 氏

1974年、東京都生まれ。高校卒業後、21歳で個人事業として魚屋を継承。約10年間の経営を経て、現在勤める株式会社塚田水産に入社。2014年に代表取締役に就任。伝統の味を守りながら、百貨店催事への出店や常設店の出店、立ち飲み店の展開など、新たな販路開拓と事業展開に取り組む。現在は吉祥寺本店をはじめ、伊勢丹新宿店、麻布台ヒルズに店舗を展開。社員約20名、パート・アルバイトを含め約50名の企業に成長させた。

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