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「焼肉界のディズニーランド」を目指す京都発の焼肉チェーン 日本の外食が強調する「お得感」より「わくわく感」、2代目社長の改革

多様な業態の店舗展開で焼肉店のイメージを刷新し続ける「やる気グループ」。時代のニーズを読み取るセンスで、創業から一大焼肉チェーンへと成長させたカリスマ社長から、若くして事業を引き継いだ二代目大島幸士代表取締役。「父とは違う土俵でやる」と決めてリブランディングに取り組んだ背景や組織づくりの手法、焼肉チェーンとして目指す方向性について聞いた。

「絶対につぶすな」と言わなかった父の洞察力

食べ放題の「プレミアムジェラート」(写真提供:株式会社やる気)

---カリスマ創業者から、「会社をつぶしてもいいから」と事業承継され、プレッシャーも感じられたと思います。先代を超えなければ」という意識はありましたか

やる気グループをここまで育てた父のカリスマ性やスピード感は本当にすごいし、尊敬しています。でも、父の言葉に「なるほど」と思いました。「自分には0を1 にする能力はあるが、1を100 にする能力はあんたの方が高い。だから、あんたの方が社長に向いてる」と言ってくれたのです。

規模が小さい時は、高速で意思決定をしていく力が必要です。ただ、会社の規模が大きくなると1人のカリスマの力では組織の隅々まで届かず、仕組みとマネジメントで会社組織をまとめる必要がある。

素晴らしいセンスやスピード感があっても、広く共感されるわけではなく、共感を広げる段階が必要なのだと、父はわかっていました。

カリスマによるトップダウンは、0→1 においては正解。でも、組織がある程度大きくなったら、そこからはボトムアップの手法が有効なのです。

「会社をつぶしてもいい」という言葉は、信頼してもらっている証。その嬉しさもあり、思い切って挑戦しようという気持ちになりました。「絶対につぶすな」と言われたなら、新しいことはできなかったでしょう。

カリスマ創業者の父と同じ土俵で戦うのは難しいので、自分が1番強い土俵で戦おうと考え、組織を強くしていくことにしました。そして、大学で学んだことを活かしてITやDXの部分に力を入れることにしました。外食は、デジタル化が遅れている業界なので、私の長所を最大限生かせると思いました。

「料理上手しか作れない」メニューでは…

株式会社やる気 代表取締役社長 大島 幸士 氏

---どのような方法で、改革を進めたのでしょうか

オンラインオーダーのシステムを入れ、注文のポスシステムや配膳ロボット、特急レーンを導入しました。また、社内のコミュニケーションを円滑にするために、プロジェクトの管理ソフトを入れ、ラインワークスも導入しました。

ツールの選び方も大事です。感情表現のできるスタンプが送れることで、仲間同士のコミュニケーションの雰囲気も変わりました。

もう一つは、ボトムアップの文化を作ることです。全て私が決めるのではなく、事業責任者に任せ、自分で考えて自分で取り組んでもらうようにしました。誰もが意見を言えて、同じ方向を向いていけるように、会社が大事にすることを明文化しました。

社長や場長の好き嫌いで評価が変わるのは良くないので、頑張った分だけ評価が得られるように、定量の部分を数値化し、普段の働きぶりや頑張りも定性で評価する基準を作りました。そうすることで、働く人たちのモチベーションが変わりましたね。

---改革する上での苦労や失敗はありましたか

トライアンドエラーはたくさんあり、特にメニュー開発には苦心しました。商品開発のトップと私の目標は、うちの1番人気の商品を超えること。

「普通においしい」ではだめで、一口目で人を感動させ、最後までおいしくて、食べた後ももう一口食べたくなるぐらいおいしい。それが基準です。

究極の「おいしい」を追究するがゆえ、「料理の上手い人しかおいしく作れない商品」になってしまったこともあります。商品開発のトップが作ると、どんな料理もおいしくなってしまうので、そこを基準にしてはダメだったのです。

上手な人じゃないと作れないものがあることや、ピークの時間に味が乱れやすくなることには、何度も失敗を重ねたことで気づきました。誰にでもできる調理方法の重要性や、オペレーションを簡略化して手数を少なくすることの大事さを実感しました。

新商品が生まれると、みんなで別々の店舗に別々の時間帯に分かれて食べに行き、おいしかったかどうか、ムラがなかったかどうかまで確かめています。

「おいしいから売れる」と確信して販売したのに、売れなくて修正したこともあります。「自分がおいしい」ではなく、「多くのお客様がおいしい」「いつ出しても誰が作ってもおいしい」ものを作るのは、非常に難しいと実感しています。

それでも、自分たちの商品に満足することなく、今の時代の人にとって本当にこれがおいしいのか考え、来年はもっとおいしくしたいと常に考えています。

「やる気」のおいしさは味だけではない

---事業承継をきっかけにした新しい試みを教えてください

若者や女性、外国人のお客さんが足を運びやすい店舗づくりを進めてきました。また、大型店のリニューアルも大きな挑戦です。この先、世代が交代しても来てもらえるように、新味があり、ニューファミリーにとって楽しい店を作ろうと考えました。

どちらかというと日本の外食は、「お得感」を強調する価格訴求をやり過ぎた。そのせいで、物価の高騰で人件費も上がっているのに、価格の見直しが難しくなっているような気がします。

ただ、しっかりとした価値を提示すれば、お客様はそれに応じた価格を払っていだけるはずで、私たちは価値を上げていくことを考えました。和牛食べ放題なども、そこから生まれたアイデアです。

価値を上げ、コストを下げていくために、特急レーンなどを導入して人件費を抑える。その努力で、お客様にしっかりといいものを安く食べてもらえるようにしました。

また、イタリアンジェラートやデザートの食べ放題を始めてみたら、若い家族が増えましたね。カステラや牛乳プリン、コーヒーゼリー、あんこなどを置き、自分で作ってもらいます。お子さんたちがDIYを楽しんで、はしゃいでくれています。社内の反対を押し切って取り入れましたが、やって良かったです。

---今後の展望を教えてください

皆さん、「おいしい」と言うと味のことだと捉えられますが、私たちが定義する「おいしい」は、「おいしそう」「おいしい」「おいしかった」という時間軸での非日常体験です。

目指す先は、「焼肉業界のディズニーランド」。やる気に来たらワクワクしてほしいのです。コンテンツだけでなく空間も魅力的なテーマパークであり、エンターテインメントの場でありたい。オープンキッチンにこだわっているのも、その思いからです。非日常の体験を食で与えられるような店舗にしようと伝えています。

そして、国内に広げていくだけでなく、海外にも目を向けています。日本の外食は、日本が誇れる文化だと思っています。日本の方も楽しめて海外の方も驚くような業態を考えているところです。

私 1人で会社は経営できないので、スタッフみんなに感謝して、みんなを信じてみんなのために未来を作っていきます。目標は、お客様とその周りにいる人たちを幸せにすること。

お客様の幸せは店舗のスタッフが実現してくれるので、私の役割は、これから来られる未来のお客様や、もっと多くの人たちに幸せになってもらうことです。そのためにはどんな事業が必要か、考えていきたいですね。

(取材・文/小坂綾子)

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大島幸士氏プロフィール

株式会社やる気 代表取締役社長 大島 幸士 氏

1993年、京都府生まれ。慶應義塾大学卒業後、小売会社入社。2020年、父母が創業した株式会社やる気入社。入社後すぐに情報システム室を立ち上げ、コロナ禍対応を進めるとともに、社内のデジタル化を推進。同時に、店舗営業部門、フランチャイズ事業部門を統括しつつ、コロナ禍に対応した新業態開発にも着手。また、企業の人材開発力を高めるために、労務環境の整備、評価制度の構築、新卒採用の強化にも力を注ぐ。創業35年の節目となる2023年5月代表取締役社長に就任。事業承継によって新たな第二成長期を構築すべく、新しいこれからの時代に合った経営理念の言語化にも着手。次の時代に合った新しいフードビジネス企業を目指して、日々リーダーシップを発揮している。

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