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がんで長期休養の社員に給与100%、「ちょっとお荷物」社員で社長チーム結成 絶望的な身内の裏切りを乗り越えた、2代目社長の経営哲学とは

「横に引く」シャッターの高い技術を有し、業界トップクラスのシェアを誇る「株式会社横引シャッター」(東京都足立区)。2代目の市川慎次郎社長(49)は、身内の裏切りで社員の9割近くを失い、倒産寸前の危機に陥ったが、そのゼロ以下の状態から会社をV字回復させた手腕の持ち主だ。「ちょっとお荷物」という社員たちとチームを結成したり、がんで長期休暇が必要になった社員に給与を満額支払ったりする、ユニークな経営手法と、未来を見据えた事業承継について聞いた。

「何でも自分たちでやる」文化が会社を一つにした

「慎次郎組」のみなさんが芝生を敷いたオフィス

―――会社の立て直しにおいて、物理的な環境面ではどのようなことから着手したのですか?

まず取り組んだのは、お金をかけずに自分たちの手で、働く環境を良くしていくことでした。当時、どこの部署でも「ちょっとお荷物」扱いされていた社員たちを集めて「慎次郎組」というチームを結成し、彼らと共に工場の改修工事を始めたのです。

材料費を抑えるため、まず撤去してきた古いシャッターが山積みになったスクラップ置き場から使えそうな材料を拾い出しました。そして、サビを落として壁に張り付けて「シャッター壁」を作るなど、知恵と工夫で次々と工場を蘇らせていきました。

最初は「自分たちのエリアに手出しするな」と反対していた他の古株の社員たちも、自分たちの働く場所がどんどん綺麗で使いやすくなっていくのを見て、次第に「慎次郎君に任せておけば、環境が良くなる」と協力してくれるようになりました。一人ずつ、着実に味方を増やしていったのです。

この「何でも自分たちでやる」という文化は今も続いており、オフィスの床に芝生を敷いた時も、天井のクロスを張り替えた時も、全て社員たちの手で行いました。「青空の下、芝生の上で伸び伸びと仕事しようよ」という私のコンセプトに、最初は全社員から「意味がわからない」と大反対されましたが(笑)。

それでも諦めず、「じゃあ、まず1箇所だけ張ってみよう。嫌だったら剥がせばいい」と言って、強引に作業を進めました。ある程度進んでしまえば、もう後戻りはできません。人間、諦めます。

そして1ヶ月も経つと、あれだけ反対していた社員たちから「芝生、いいですよね。もう慣れました」という声が聞こえてくる。自分たちで作り上げた空間には、やはり愛着が湧きますからね。

創業者の意思を継ぎ「木の幹」は変えず「新しい枝」を育てる

建物との雰囲気に調和したデザインのフォールディングゲート(写真提供:株式会社横引シャッター)

―――経営者として最も大切にしている理念、哲学は何ですか?

常に「創業者の意思を継ぐ」ということです。創業者ができなかったこと、やりきれなかったことを成し遂げるのが後継者の役目だと考えています。

よく後継者の中には、自分の正当性を示すために先代のやり方を「古い」「間違っている」と否定する人がいますが、それは大きな間違いです。

「失われた30年」という厳しい時代の中で、会社が存続してきた事実こそが、先代の正しさを何よりも証明しています。その偉業を認めず、自分一人の力で大きくなったかのように振る舞うのは、あまりに傲慢でしょう。

私はこれを木に例えて「木の幹は変えない。だけど、古い枝は落として、新しい枝を生やす」と社員に伝えています。創業者の意思という幹は絶対に変えない。もし自分のやりたいことと創業者の意思がぶつかるなら、私がこの会社を辞めて自分で会社を興せばいい。それくらいの覚悟でいます。

その上で、初代の意思を継ぐ「第一フェーズ」、私のカラーを融合させる「第二フェーズ」を経て、今は次の時代を見据える「その先へ」という第三フェーズに入っています。常に会社のステージに合わせたテーマを掲げることで、日々の業務に埋もれない大きな視点を持ち続けるようにしています。

―――「社員は家族」という考え方について、特に採用面でこだわっていることはありますか?

社員は家族だと思っていますが、誰でも彼でも家族になれるわけではありません。当社の面接は、基本的に「落とすための面接」です。採用率は5%以下で、非常に狭き門です。

面接室に入ってきて、私の前に座るまでのわずかな時間で、だいたい決まります。履歴書を見ながら、いかにして断る理由を探すか、ということから始めます。

しかし、その中で「この人を落とすのはもったいない」と心から思える人が現れる。そうなったら、今度は1時間かけて全力で口説きにいきます。だから、面接の部屋のドアが1時間半以上閉まっていたら「採用だ」と社員はわかるようです。

何を見ているかと言われれば、最終的には「直感」と「人間性」です。当社の社員たちと仲良くやっていけるかどうか。仕事のスキルは入社してからいくらでも教えられますが、人間性は会社では変えられませんから。

うちは「気性の荒いサラブレッド」はいりません。皆と和気あいあいとやっていける温和な人柄を最も重視しています。入社後も、社員一人ひとりの様子は毎日気にかけています。

「最近元気ないな」と感じたらすぐに声をかけます。大抵最初は「何でもないです」と返ってきますが「あの時の返事がいつもと違った」「あの時、あんな顔をしていた」と3つくらい具体的な事例を挙げると、ぽつりぽつりと本音を話してくれるものです。

会社が家族を守る「貢献度」で支える病気治療

―――社員の多様な働き方を支えるために、どのような取り組みをされていますか?

「同一労働・同一賃金」は、国が言い出すずっと前、私が総務部長だった頃から導入しています。パートだから、正社員だからというだけで給与に差があるのはおかしい。同じ仕事をしているなら、同じ賃金を払うのが当然だと考えていました。

「社員は家族」という言葉を行動で示すために、病気と仕事の両立支援にも特に力を入れています。家族が病気になったからといって「お疲れ様でした」と見放すことはしないでしょう。

例えば、がん治療で長期の休みが必要になった社員がいても、会社の貢献度に応じて給料を満額、あるいは8割以上支払い続けます。その判断基準は「この人が1年間会社に来なくても、給料を払い続けても惜しくない」と私が思えるかどうか。もちろん、独断ではなく役員たちと相談しますが、最終的にはそう決めています。

普段、皆が頑張ってくれているからこそ、いざという時は会社が、そして仲間が支える。そういう風土が、当社には根付いています。

経営者=孤独ではない「30年先を見据え、バトンを次世代へ」

―――会社の未来について、どのような展望をお持ちですか? また、これから事業を承継する若い経営者へアドバイスをお願いします。

私は生身の人間ですから、いつかいなくなります。その時に会社が揺らがないよう、すでに次世代へのバトンパスを始めています。

30年先までを見据えた「超長期経営計画」を立てており、現在19歳の長男が3代目候補として、すでに承継に向けた準備を進めています。

彼が小学生の頃から「父の会社を継いで、もっと良くする」という夢を語り続け、今もそのために大学で学んでいます。海外展開などの大きな挑戦は、彼が花開かせることができるよう、私がその土台を作っておくのが役目です。

よく「経営者は孤独だ」と言われますが、私はそう感じたことはありません。悩みがあれば、すぐに社員に相談します。すると、皆が自分のことのように知恵を貸してくれる。何か新しいことを始める前には、専務と3日間かけて徹底的にディベートします。そうやってあらゆるリスクを洗い出し、潰していく。そういう環境を意図的に作ってきました。

若い経営者の皆さんにお伝えしたいのは「甘やかされていることに自覚的であれ」ということです。そして「親が甘い目で見てくれているうちに、その親一人すら説得できなくて、将来誰と戦うつもりなのか」と。

後継者という立場にあぐらをかくのではなく、自らの力で親(現経営者)を納得させ「お前のやりたいようにやれ」という許可を勝ち取ってください。それができて初めて、スタートラインに立てるのだと思います。

(取材・文/斉藤カオリ)

この記事の前編はこちら

市川慎次郎氏プロフィール

株式会社横引シャッター 代表取締役 市川 慎次郎 氏

1976年埼玉県生まれ。株式会社中央シャッター、株式会社横引シャッター代表取締役。大学卒業後に株式会社中央シャッターに入社し総務部部長・経理部部長を兼任、当時9億円を超えていた負債を圧縮。現在は先代社長の遺志を受け継ぎ、地域とのつながりを大切にする着実な経営で安定した業績を残す。駅の売店に多く採用されている横引きシャッタ―の普及や定年のない雇用、がん患者が働ける職場づくりを実現させたことで知られ、こうした実績に基づく講演などを各地で行う。著書に『新入社員は78歳 小さな会社が見つけた誰もが幸せを感じられる働き方 働きがいがあるから、会社も人も成長する!』(かんき出版)などがある。

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