「吸収分割」とは？ 「承継会社」と合わせて解説！

事業承継の手法の1つでもある会社分割には「新設分割」と「吸収分割」があります。吸収分割は、事業の権利義務を別の会社に承継する会社分割の一つ。事業譲渡と似ているように思えるかもしれませんが、実際には多くの相違点があります。本記事では、吸収分割の概要、メリット・デメリット、そして吸収分割における承継会社の特徴などを解説します。

吸収分割とは

事業承継・グループ内組織再編などで使われる手法である「会社分割」は、現在の会社を残したまま事業の一部または全部を他社に承継させること。

会社分割には、「吸収分割」と「新設分割」の2種類があります。

・吸収分割：特定の事業の権利義務を既にある他の会社に承継する
・新設分割：特定事業の権利義務を分割により設立する会社に承継する

会社分割において、分割される会社のことを「分割会社」、分割された事業を承継するのが「承継会社」と呼ばれます。

吸収分割における承継会社には特例有限会社を除くすべての会社がなれますが、分割会になれるのは「株式会社」「合同会社」のみで、合資会社や合名会社は分割会社にはなれません。

このことは会社法でも定められています。「株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後他の会社に承継させることをいう。」（会社法2条29）。

承継会社についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
（「「承継会社」とは？ 「分割会社」の違いとともに解説！」）

吸収分割のメリット・デメリット

吸収分割には、次のようなメリット・デメリットがあります。

メリット①「多額の資金を必要としない」

事業承継において、承継会社が分割会社に対して株式発行を選択した場合、多額の現金を用意する必要はありません。また、適格分割が適用される場合、承継会社は資産を簿価で承継することができます。これは消費税が課せられないため、税負担を軽減できることを意味します。

メリット②「複雑化した組織を整理できる」

いくつもの事業を展開して組織が複雑化している場合、吸収分割を行うことで会社を整理できます。

また株主が多く存在する会社だと、株主によって意見が分かれてしまい、会社の方針を決めにくくなることがあります。そこで、吸収分割を行って事業を独立させることで、複雑化した株主関係も整理できます。

メリット③「事業の合理化ができる」

吸収分割によって重複する業務や組織を合理化できるので、経営効率の向上も期待できます。

また承継会社は、引き受けた企業で関わりがあった顧客や取引先にアクセスすることで、事業範囲の拡大も見込めます。

メリット④「移転手続きが簡単」

事業承継は従業員の引き継ぎや取引先との契約、各種許認可の手続きなど手間がかかりますが、吸収分割は手続きがシンプルで、契約関係の移転手続きも簡易的です。

デメリット①「統合プロセスがうまくいかないときのリスクが大きい」

吸収分割では、多方面で事業の統合が必要となります。事業の統合プロセス（PMI／Post Merger Integrationがうまくいかないと、企業文化や価値観・サービスの質などに齟齬が生まれ、人材流失が生じたり、取引先との信頼関係を損ねたりするリスクがあります。

デメリット②「事業のスケールメリットが消える」

事業が分割されることで、もともとあった事業は当然縮小することになります。そうなると例えば、吸収分割前の「大量仕入れによりコスト削減」ができなくなり、経営が圧迫される恐れがあります。

デメリット③「不要な資産を引き継ぐリスクがある」

吸収分割は、事業承継のように継承内容を選ぶことができないため、不要な資産や簿外債務を引き継いでしまうリスクがあります。

デメリット④「株価変動リスクがある」

吸収分割で対価として株価を支払う場合、新株を発行することになるため、一株あたりの価格が下がり、既存の株主から不満の声が出てしまうリスクがあります。

吸収分割の種類

吸収分割は、「分割型吸収分割」と「分社型吸収分割」に分かれます。それぞれの特徴を見ていきましょう。

「分社型吸収分割（物的吸収分割）」とは？

分社型吸収分割とは、分割会社が自社の事業を分割して承継会社へ譲渡する代わりに、承継会社から分割会社が株式や金銭などの対価を受け取る分割手法です。「物的吸収分割」とも呼ばれます。

「分割型吸収分割（人的吸収分割）」とは？

分割型吸収分割は、分割会社の株主が承継会社から対価として事業承継の対価である株式や金銭などを受け取る分割手法です。「人的吸収分割」とも呼ばれます。

まとめ

吸収分割は多額の資金を必要とせず、移転手続きもシンプルなので、事業承継よりも実行しやすい組織再編といえます。M&Aや組織再編を考える際には、吸収分割も選択肢の一つとして検討してみることをおすすめします。