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「医療法人」の事業承継を成功させる! 進め方と注意点

事業承継は組織の一大事。ここまで育て上げた事業を、次の世代へと確実にバトンタッチする必要があります。これは株式会社だけなく、医療法人でも同様です。本記事では、医療法人における事業承継の実情や特徴、注意点を解説します。

医療法人における事業承継の実情

近年、日本では事業承継に対する関心高まっており、その必要性がさまざまなところで語られています。これは医療法人も例外ではなく、「医業承継」や「医療承継」といった言葉を生まれ、医療法人の事業承継が浸透してきています。

他業界よりも加速する「代表者の高齢化」と「後継者不在」

医療法人の事業承継が注目される背景には、さまざまな要因が考えられます。

たとえば、医療法人の代表者の高齢化です。少し前のデータになりますが、厚生労働省が2018年に公表している「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、病院の開設者または法人の代表者の平均年齢は64.3歳。全国の社長の平均年齢は60.1歳なので(帝国データバンクが行った「全国社長年齢分析」より)、医療業界は経営者の高齢化が特に進んでいる傾向にあることがわかります。

 代表者の高齢化だけでなく、後継者不在率においても医療業界は他業種と比べて高い数値です。帝国データバンクの「全国企業〈後継者不在率〉動向調査」(2019年)によると、全国の経営者の後継者不在率は65.1%なのに対し、「病院・医療」業界における後継者不在率は73.6%と大きく上回っています。

このような背景から、近年は、第三者に医療法人を譲渡するというM&Aを選ぶケースも少なくありません。

医療法人の種類・特徴

医療法人は、まず「財団」と「社団」に区分されます。そして「社団」の医療法人はさらに「出資持分ありの医療法人」と「出資持分なしの医療法人」に分かれ、日本全体では、「出資持分ありの医療法人」が約72%を占めています。

株式会社との違い

医療法人は、株式会社と大きく異なる点があります。ここでは代表的なものをいくつか紹介しましょう。  

・株式会社は一定のルールに基づいて出資者に剰余金の配当を行うことができますが、医療法人は「非営利法人」であるため自由に配当ができません。ちなみに、病院などの医療施設を開設する際は都道府県知事の許可が必要ですが、同じく「非営利法人」という理由から、営利目的とされる医療施設を開設することはできず、申請しても承認されません。

・株式会社は1人で設立できますが、医療法人の設立には理事が3名以上必要です。株式会社では理事は取締役に該当しますが、1人で医療法人を設立できません。  

・株式会社では誰でも代表取締役になれますが、医療法人の理事長は原則医師または歯科医師でなければいけません。株式会社などの営利法人の代表者が就任することが禁じられているわけです。

・株式会社における議決権は、原則「株式数(=出資金額)」に応じて決まります。一方で医療法人の場合、出資額や持分割合は関係なく、社員が1人1個の議決権を持つことになります。

医療法人の事業承継における注意点

医療法人が事業承継を行う際の注意点を見ていきましょう。

①後継者は「医師や歯科医」でなければならない

前述したように、医療法人は株式会社と違って誰でも代表(理事長)になれるわけではなく、「医師」「歯科医」でなければなりません。

したがって、自分の子どもを後継者にしたいと思っても(=親族内承継)、後継者本人が医師や歯科医でなければ事業承継できないのです。もし子どもが医師や歯科医師になることができない場合、M&A(第三者への事業承継)や他の医療法人との合併など、別の方法で事業承継を検討するしかありません。

②多額の相続税が課される

医療法人は出資持分以外にも多くの財産を保有しているケースが多く、また高額な設備投資や利益の配当ができないことから評価額が高くなるため、医療法人の代表者が亡くなると、多額の相続税が発生します。

また、出資持分の評価額が大きくなると、遺産分割の際に親族内でトラブルに発展しやすくなります。 他の相続人が遺留分を確保できなくなり、不足分の請求を受けることがあるためです。

事業承継で活用できる「遺留分の特例」については、こちらの記事で詳しく解説しています。ぜひご一読ください。

③情報公開のタイミングを間違えないようにする

医療法人は、多くの従業員や患者さんを抱えています。万が一、事業承継の検討段階で情報が漏えいしてしまうと、従業員が辞めたり、患者さんが他の病院に移ったりしてしまうかもしれません。

情報管理は慎重に行い、事業承継を公開するタイミングは慎重に見極めましょう。

まとめ

中小企業において需要と関心が高まる事業承継ですが、それは医療法人も同様です。ただし、医療法人の事業承継は株式会社とは異なる点が多く、専門的な知識が必要になります。従業員や患者さんに与える影響を最小限に抑えるためにも、しっかり計画を立てて、専門家とともに着実に手続き行うことが肝要です。
なお、個人診療所(クリニック)の事業承継のポイントはこちらの記事で解説しています。
「クリニック(医院)承継はこれで大丈夫! ポイントと流れを解説」

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賢者の選択サクセッション編集部

日本の社会課題である事業承継問題を解決するため、ビジネスを創り・受け継ぐ立場の事例から「事業創継」の在り方を探る事業承継総合メディア「賢者の選択サクセッション」。事業創継を成し遂げた“賢者”と共に考えるテレビ番組「賢者の選択サクセッション」も放送中。

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