商標登録にまつわる事業承継時のトラブル、徹底回避するための事前準備策とは

事業承継に関わるさまざまな側面から、系統立てた学びの場を提供する「サクセッションアカデミー」のSeason2 第6回講座が開催された。今回のテーマはTechnology(テクノロジー)/DX、IT。cotobox株式会社 代表取締役CEO、Authense弁理士法人 代表で、弁理士の五味 和泰氏がゲスト講師として登場した。同氏は事業承継における商標登録の重要性などについて、専門家の視点から、そのポイントを講演した。
目次
事業承継時にも多数発生している、商標登録トラブルの対策を事例から学ぶ
学問としての事業承継を考える「サクセッションアカデミー」Season2の第6回講座が、2025年6月25日に東京・中央区の銀座スタジオで開催された。
弁理士として活躍するゲスト講師の五味 和泰氏は、「商標登録の重要性と承継の難しさ」をテーマに語った。
「会社名や商品名、サービス名、ロゴ等を特許庁に商標出願し、審査を経て権利化することで、商標権は得られます。その商標出願の代理件数が、2021年から2024年まで4年連続日本一の事務所を運営しており、実績が豊富です」(五味氏)
商標を登録することなく事業を展開していると、ビジネスにどのような影響が生じるのだろうか。
「例えば、地方の食品メーカーが商標登録をせずに商品の販売を続けていたところ、その商標を持つ飲料メーカーが使用の差し止め請求を起こした事案があります。食品メーカーはその後、商品名を変更しました」(五味氏)
同氏が取り扱った顧客企業でも、商標未登録による失敗事例があるという。
「コロナ禍の当時、飲食事業を展開していたクライアントが、新たにテイクアウト事業へと進出しました。業容を変化させて、事業拡大したのです。しかし、他の地方の企業が既にテイクアウト領域を含む商標権を取得していたことが後に発覚したのです。クライアントはパッケージを含む商品名を変更して、新しい名称で商標登録しました」(五味氏)
なかには、事業承継に関わるトラブル事案として挙げられるケースもあるという。
「ある検定を行う協会では、創業者一族と協会内部で利害関係が対立し、協会は創業者を追放しました。しかし、商標権は創業者の私的な法人名義だったのです。裁判等で争うことになり、結果としては、私利私欲のために商標権を使うことは、公序良俗に違反する行為として、創業者の商標権は無効になりました」(五味氏)
さらには、格闘技団体の創始者が、もともと団体名の商標登録をしていなかったことで、死去後に創始者の親族や弟子たちが激しく争った事例もあるそうだ。
「偉大な創始者が突然亡くなり、事業承継において、親族と弟子たちの間で商標権を巡るトラブルが発生しました。弟子や親族がそれぞれ商標登録をして、各派閥と親族を巻き込んだ法廷闘争になりました。裁判は長期間続き、結局は親族側の商標権が、公序良俗違反で無効になりました。弟子たちもいくつかに分かれてしまったのですが、商標を取ってブランドを守っています」(五味氏)
日々の業務に追われて、商標登録の重要性は見過ごされがちだが、ケースによっては、大きな力を持つこともあるようだ。
「ちょっとしたきっかけで生じたトラブル時に、商標権を持っていると一気に強くなることがあります。事業承継の際にも、とても重要になると思います」(五味氏)
社内に紙があふれ、人力に依存した特許事務所で、DX化を構想して独立・起業

代表取締役CEOを務めるcotobox株式会社は、人と知財を結ぶことをミッションに掲げ、商標ライフサイクルマネジメントにおけるオンライン商標登録サービス、商標管理クラウドなどを提供。商標プラットフォームを構築することで、商業業務に従事する企業、事務所の活動を支えるインフラを目指している。
「サービスラインアップの『オンライン商標登録』は、簡単でスピーディーな商標登録システムで、ネーミングを思いついたらすぐにオンラインで商標登録の依頼が可能です。AI技術を活用し、人的、金銭的なコストの削減を実現しました。『商標管理クラウド』は、国内外の商標の調査・出願・登録・管理・更新、自社商標の自動侵害検知、競合の動向チェックなどひとつのプラットフォームで完結します。『世界商標ウォッチング』は、自社の商標を世界中で監視し、同一、または類似度の高い商標を検知すると、アラートを発するとともに、侵害に対する対応判断のサポートをします」(五味氏)
起業のきっかけとなったのは、同氏が勤めていた大手特許事務所で書類に囲まれて体験した、煩雑な業務の課題解決だという。
たしかに、特許事務所というと、キャビネットの膨大なファイルや、積み上げられた書類など、大量の紙が使われているイメージがある。
「まさに、課題は紙でした。とにかく紙処理やファイリング作業が多いのです。もちろん、私だけでなく専門のスタッフが担当しますが、業務工程がとても多く、すべて人手に依存する仕事なのです。さらに、システムやメールへの情報の入力を手作業で転記しなければならなかったり、電話やファクスでの情報共有だったりで、ヒューマンエラーも生じました」(五味氏)
加えて、属人化したワークフローのため、なかなか変えられないことも課題だったという。
「DXを推進するためのフレームワーク『V-S-A-M-Iフレーム』を活用しました。まず、Visualizeとして業務プロセスやタスクの見える化(言語化)を行い、Standardizeで作業、書式や判断基準を標準化しました。Automateとして、これをツールやAPI連携によってタスクの自動化を図りました。Measureで、さらにKPIで作業スピードや効率などの効果を測定し、Iterateとして改善しながら回していった、というのが私のやり方です」(五味氏)
高齢のレジェンド専門家から、次世代対応が可能な若手専門家へのスムーズな切り替え
同氏はさらに、事業承継時の「専門家問題」にも、専門家のひとりとして注意を促している。
「事業承継時には、弁護士や税理士などの専門家の承継をどうするかという問題が発生します。例えば、レジェンドとしての知見があり、会社や業界について理解が深く、とても頼りになる専門家がおられます。一方で、高齢化やブラックボックスの多い属人化という一面もあります。さらには、最新のスキルや知識、ネットワークのギャップがあり、コミュニケーションコストが増大する点もリスクとして想定できます」(五味氏)
しかしながら、事業承継のタイミングなどに、従来からの専門家との関係を急に断ち切るのは難しいという考えもある。
「私どもにも、どうしたらうまくスイッチングできるかという相談が寄せられます。ひとつの方法として、レジェンド専門家には、しばらくは経験や業界知識に基づくアドバイザーとして関わっていただきます。セカンド専門家は、新しい視点からのアドバイスや、ツールを駆使した実務や提案、即時対応が可能な案件の相談など、実務面からアプローチします」(五味氏)
つまり、顧問契約を即時打ち切り、すぐ新しい専門家に移行するのではなく、いったん、いずれかの専門家をセカンドオピニオンのような立場に位置づけるのだという。
「3者による共同ミーティングで、意見や情報交換ができるとなおよいでしょう」(五味氏)
同氏によると、商標だけでなく、ノウハウやデザイン、技術なども含めた知的資産の棚卸しと磨き上げが必要だという。
「承継時に業務、タスク、判断基準の文章化、ノウハウの見える化をするのもひとつの方法です。できれば、テクノロジーを活用した効率化や可視化にもチャレンジしていただきたいと思います」(五味氏)
さらには、事業承継者と年齢が近く、次世代対応が可能な、若手専門家への切り替えも検討してほしいと同氏は提言している。
経営を共創する ミギウデアカデミーを7月23日(水)17:00〜18:00に開催
講座では、100社を超える企業インタビューの事例を基に、事業承継におけるイノベーションパターンを分析。その事例から、DXと事業承継の時代的一致がもたらす機会と、デジタル技術を活用した新たな価値の創造について、一般社団法人サクセッション協会の中山フェロー、原代表理事が講演した。
また、聴講者からの質問への回答など、講師3氏によるパネルディスカッションも開催された。
次回からは、Season3として開催する予定だ。日時や内容など、詳細は公式ホームページなどで発表する。
また、参加費無料のオンラインセミナー「経営を共創する ミギウデアカデミー」を7月23日(水)17:00〜18:00に開催することが発表された。事業承継を成功に導く要素について、株式会社ミギウデ CEOの山田 実希憲氏が講演する。
五味 和泰氏 プロフィール
cotobox株式会社 代表取締役CEO Authense弁理士法人 代表 五味 和泰(ごみ・かずやす)氏
早稲田大学理工学部卒、米国南カリフォルニア大学法学修士。大手建設会社エンジニアを経て、大手特許事務所に入所し弁理士資格取得。10年間、特許の権利化業務に従事した後、2015年にはつな知財事務所(現:Authense弁理士法人)を設立。2016年にcotobox株式会社を設立。2021年〜2024年、弁理士として商標出願代理件数が4年連続で日本1位。
\ この記事をシェアしよう /