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男性営業マン「絶対に売れない」と反対した商品が大ヒット 「女性目線」を商品開発に導入した「4番手」の魔法瓶メーカーの改革

創業75年を迎えるピーコック魔法瓶工業株式会社。「ザ・昭和」的経営スタイルから脱却するため、父から会社を引き継いだ4代目・山中千佳代表取締役社長は「ワンピーコック」の理念を掲げ、大胆な組織改革を実行した。従来のBtoB営業からEC(ネットショッピング)を駆使したBtoC展開へと舵を切り、女性視点を取り入れた商品開発で新たな成功を収めている。象印、タイガーという「業界の巨頭」に挑む業界4番手の魔法瓶メーカーの革新と挑戦について、山中社長に聞いた。

「1人の力では限界がある」、だから始めた改革

小さなお子さまや、持ち運びに便利な「ミニアイスパック シリコーン氷のうタイプ」(写真提供:ピーコック魔法瓶工業株式会社)

──社長就任後、最初に取り組んだ組織改革について教えてください。

父の代までは完全なトップダウンで、組織が組織として機能していませんでした。

私の代では、各部門がそれぞれ責任を持って仕事をしていく体制作りが必要だと感じました。そこで企業理念、経営理念、そして行動指針という3つの柱を打ち立てました。

──具体的にはどのような理念を掲げましたか?

「ワンピーコック」というスローガンを掲げました。従業員全員が1つになって取り組まないと、100の力が120にならないと考えたんです。

私1人での経営は難しい。みんなの力を借りて、会社が1つになり、各部門が最大限の力を発揮していく体制が必要でした。そのための共通理念が大切だと思いました。

──社員の反応はどうでしたか?

最初は正直、抵抗感があるように感じました。毎週月曜の朝礼で企業理念を唱和することにしましたが、それまで「共通理念」という文化がなかったので、「こんなものを唱和するなんて」と思った社員も多かったと思います。

──浸透していくまでに工夫したことはありますか?

とにかく継続することですね。最初は形だけでも続けていくことで、徐々に社内に浸透していきました。

今では会議の中でも「この行動指針に基づいて考えよう」という発言が自然と出るようになりました。何かあったときに立ち返る基準ができたので、議論もしやすくなったと感じています。

お客様相談室でなく、ECでお客様の声を聴く!?

ピーコック魔法瓶工業株式会社 代表取締役社長 山中 千佳 氏(写真提供:ピーコック魔法瓶工業株式会社)

──マーケティング部とEC事業部を立ち上げた理由は何ですか?

2015年、私が社長に就任した頃はインバウンド商戦がピークに達しようとする時期でした。しかし、その後に新型コロナウイルス禍が来て、市場環境が大きく変わりました。店頭に並べるだけでは物が売れなくなったんです。

弊社はBtoBがメインで、ホームセンターや家電量販店への卸売りが中心でした。そのため消費者の生の声が分からない状況で、非常に苦しかったです。

──顧客の声を聴く仕組みはなかったのですか?

お客様相談室が唯一のつながりだったんですが、それだけでは足りないと感じていました。そこでEC事業部を立ち上げて、BtoCでお客様と直接つながる機会を作りました。

これにより、実際の消費者が何を求めているのかをダイレクトに知ることができるようになりました。

──実際にECを導入して見えてきたことはありますか?

非常に興味深い発見がありました。ECで売れた商品は、リアル店舗では売れていませんでした。

リアル店舗で売れないのにECでヒットする理由は、商品の使い方が画像や説明文でしっかり伝わるからだと思います。例えば、店頭のPOPだけでは伝えきれない商品の魅力や使い方が、ECではきちんと伝わるんですね。

──具体的な成功事例はありますか?

「アイスパック」という商品があります。見た目は魔法瓶ですが、水を入れて冷凍したシリコーン氷のうを入れ、屋外でも冷たさをキープできるアイテムです。

魔法瓶メーカーならではの真空断熱構造の技術を応用し、夏でも最大16時間ほど冷たい状態を保てます。

この商品は店舗ではほとんど売れなかったのですが、ECで大ヒット。楽天市場で一気に在庫がなくなり、SNSでもバズりました。

すると店舗からも「うちにも入れてください」という要望が来るようになりました。また、商品名も重要で、「氷のう」を「ネッククーラー」という名前に変えただけで検索されるようになり、売れ始めたケースもあります。

女性目線が商品開発を変えた!

──商品開発において、女性の視点を積極的に取り入れたそうですね。

父の時代はグラフィックデザイナーの女性以外、開発部門は全員男性でした。私から見ると細かいところに気が回っていないと感じていました。

水筒や魔法瓶のユーザーは女性の比率が高いので、女性目線での商品開発は非常に重要です。そこで女性社員の比率を上げたことで、商品開発に対する意識が大きく変わりました。

──具体的にはどんな成果がありましたか?

ベビーボトルの事例が代表的です。このデザインを企画した時、男性の営業社員は「絶対売れない」と反対しました。

彼らはキャラクターアイテムを推していたんですが、実際に子どもを持つママである女性社員たちは「このシンプルなデザインが良い」と主張しました。

結果的にはこのボトルが大ヒットし、ベビー市場への足がかりになりました。ママはキャラクターより洗練されたデザインを求めていたんですね。

──営業とマーケティングの連携はどのように図っていますか?

営業はどうしてもバイヤーの声を重視する傾向にありますが、実際に商品を使うのは消費者です。そこで、企画のマーケティング部の社員にも営業の商談に同行してもらい、バイヤーの声を直接聞いた上で、消費者目線も取り入れた商品開発を進めています。

共通認識を持つことでゴールまでの距離が縮まりますし、営業にとっても、企画担当者に自分たちの商談を聞いてもらえることは嬉しいことみたいです。

──強みを活かした商品開発にも注力されていますね。

弊社の強みは真空二重技術です。その強みを活かした「クーラーバケット」という商品は、7日間氷が溶けないという特徴があり、非常に高い評判を頂いています。

電気を使わずに冷蔵機能を持たせるような商品開発ができるのは、魔法瓶メーカーならではだと思います。

象印さんやタイガーさんはボトルだけでなく調理家電にも力を入れていますが、私たちは真空二重技術を活かした、特色ある商品で勝負しています。この商品は、3年連続でグッドデザイン賞を受賞しました。

他社が作らない、お客様が求めるニッチなものを狙う

──現在の商品構成と今後の展開についてお聞かせください。

現在の商品構成は、水筒が45%、電気調理器が25%、キーパー・ガラス魔法瓶・エアポットが合わせて20%、残りがニッチ商品という割合です。今後は競合と同じような領域ではなく、ターゲットゾーンを明確にしてニッチな商品開発を進めていきたいと考えています。

──海外展開についてはどうですか?

この2年間、シカゴショーに出展して、アメリカでの販売を復活させたいと取り組んでいます。中国には工場がありますが、アジア地域全体でももっと販売を強化していきたいです。

また、国内では新規販路、特に業務ルートを拡大し、専門店(ハンズやロフト、バースデーなど)でのウェイトを高めていきたいと考えています。

──今後の商品開発はどうしていきますか?

象印さんやタイガーさんという巨頭がいる中で、同じ土俵で戦っても価格競争になってしまいます。そこで我々は「他社が作らない部分」を狙った商品開発を心がけています。

例えば釣りをする人が求めているものは何かといった、特定のカテゴリーやニーズに応える商品を開発し、そこで強みを発揮していきたいと考えています。

──最後に、事業継承について思うことをお聞かせください。

今はスピード感が非常に早い時代で、売れていたものが1年も持たないこともあります。そんな中で、お客様が求めているものをしっかりと届け、100年企業に向けて存続継承していくことを目標にしています。

ピーコックは2025年で75周年を迎えますが、これからも真摯な気持ちでいいモノ作りを続けていきたいと思います。メーカーとして本当にいいものをお客様にお届けすることが、100年企業への道だと信じています。

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山中千佳氏プロフィール

ピーコック魔法瓶工業株式会社 代表取締役社長 山中 千佳 氏

1966年、大阪府生まれ。大学卒業後、商社での営業事務、アパレル企業での販売職を経て、ダンロップへ転職。2006年にピーコック魔法瓶工業株式会社に入社、2015年に代表取締役社長に就任。「お客様目線のものづくり」を掲げ、社内改革を推進。マーケティング部門の設立やEC事業の立ち上げなど新たな取り組みを次々と実現。現在、従業員95名、売上高は直近3年で5%増を達成している。トップダウン型経営からの脱却を図り「ワンピーコック」の理念のもと組織文化を改革。女性視点を取り入れた商品開発や真空技術を活かしたニッチ商品の展開で、象印・タイガーという業界巨頭に対抗する独自の市場を開拓している。

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