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「カリスマ社長へ」「次世代へつなぐ愛」「家族間の継承教育」.../海外企業との比較で見えてきた、事業承継における日本企業特有の課題とは~中山良一インタビュー

会社を継いで欲しいのに後継者がいない-。日本企業の99%を占める中小企業のうち毎年数万社が廃業するなど、企業の事業承継が日本経済の大きな課題になっている。しかし、事業承継が活発に行われる欧米に比べると、日本企業にはさまざまな特有の障壁があるという。30年近く外資系企業で新規事業開発の経験を積み、経験と知識をもとに日本の企業を支援する「ミルフィオーレ合同会社」の中山良一氏代表に、日本企業の事業承継にとって必要な考え方や具体的な対策を聞いた。

海外から日本事業の立ち上げに関わって

――中山さんは外資系企業で長くキャリアを積んでこられたそうですね。

中山 私は30年近く外資系企業で働いていました。最初はアメリカ系企業に15年間、その後はヨーロッパ系企業で15年、勤務しました。アメリカでは東海岸(ニューヨーク)と西海岸(サンフランシスコ)と両方を経験し、ヨーロッパではオランダ、イギリス、フランス、ドイツと4か国の企業でマネジメント業務に携わりました。

新規事業開発の担当だったことから、日本で事業を立ち上げる際に、創業メンバーのナンバー2として日本に送り込まれた経験が10回程度あります。外資系企業では創業時の社長は1年で交代し、その後2年ごとに交代します。毎回の引き継ぎ期間にトップの空白期間が生じますので、私がナンバー2の肩書のままトップの代理を務めるといったこともたびたびありました。

現在は、外資系企業で30年間培った経験と知識をもとに、日本企業の成長支援を行う、ミルフィオーレ合同会社というコンサルティング会社を経営しています。

日本と欧米の根本的な違いは「家族」

――欧米スタイルの事業承継を何度も経験されてきた中山さんから見て、欧米と日本の事業承継はどのような違いがあるのでしょうか。

中山 まず「家族」の影響力の大きさです。日本では親子や親族間の承継が多いこともあり、家族との調和が重視されます。その分、事業承継の動きは重い印象です。

欧米では、複雑になりがちな「家族」の事情と会社を切り離すために、あらかじめ承継計画書を作成したり、会社としての理念を浸透させたりなど、流れがシステマチックにされているため動きが軽やかです。

スピード感、社長の権限…日本企業特有の課題とは

――欧米企業と日本企業では、承継の時間軸が違うとも聞きます。

中山 その通りです。外資系は事業承継にかける日数も短く、アメリカ系は1年計画を立ててそれを3か月で動かします。ヨーロッパ系は3年計画を立て、1年で完遂します。

ところが日本は事業承継の期限を切るという感覚がありません。江戸から300年続く企業も珍しくないお国柄ですから、1、2年でトップ交代などあり得ないという感覚です。長期的なビジョンで経営が行われているからこそ、安定性は高いのですが、変革は遅れがちですね。

欧米企業は人気漫画「キングダム」

――反対に欧米企業はなぜそれほど短期に事業承継ができるのでしょうか。

中山 さきほど触れた通り、家族の意向を気にせずにすむことに加えて、ファイナンス、ブランディング、セールス、マーケティングといった各部門の統括責任者を、組織内に配置しているからです。

漫画「キングダム」で出てくる「百人将」、「千人将」のような、実績を積み上げた人物が各部門のトップに立っているのです。後からやってきた社長は、各責任者の顔と名前を覚えれば、意思決定に専念できる組織になっているのです。

一方、日本では社長がすべての領域に発言力を行使しているため、役割も権限も明確に区分されていません。だから後継者はゼロから組織を作らなければならないのです。

また日本は株式の譲渡や相続における税務や法律も複雑。その上、歴史や伝統、前任社長の権威性の継承も考えなければなりません。しかも下剋上のケースが多く、往々にして先代と後継者が戦う構図になりやすいのも特徴です。

カリスマ経営者にこそ教育が必要

――世界的に見ても日本の事業承継は特殊のようですが、もっとも大きな特徴は何でしょうか。

中山 それはカリスマがいることです。2015年に有名社長が交代した「ジャパネットたかた」などはその典型でしょう。歴史と権威性、信頼性をどう継承するのか。そこが日本企業の事業承継で最大の課題だと思います。

――ではカリスマ経営者から事業を引き継ぐには、どうすればよいのでしょうか。

中山 1つは教育です。後継者教育だけではありません。先代社長にも教育が必要です。しかも後継者に先行して行うべきです。日本の社長は総じて息子、娘に厳し過ぎる傾向があります。「経営は甘くない」のはその通りですが、愛情に乏しい印象です。

父親が困ったとき、ほとんどの息子や娘は、会社をやめてでも親の手伝いにかけつけます。子どもは必ず親への愛情を示すのです。では、社長は愛情を持って迎えてあげていますかと、問いたくなるケースが多いのです。

子どもだけに限りません。日本の組織は後継者に冷たいですよね。「ひがみ」もあるのでしょう。それで前任と後任が敵対する構図が生まれてしまう。まず先代社長が後継者を快く迎える姿勢を学ぶ必要があります。同時に、先代経営者にはメンターも必要だと思います。

後継者が身につけるべきたった一つのこと

――カリスマ社長の場合、社内のあらゆることを取り仕切っていることが多く、後継者の負担が大きいことが課題とも言われますが。

中山 誰もこの人の代わりは務まらないと思ってしまいますよね。でも自分ができないところや苦手な分野は、他の誰かに任せていいのです。外部のリソースで補完するのも一つの選択肢。ブランディング、マーケティング、総務、場合によってセールスでもアウトソーシングできます。

ただし1つだけ補完がきかないものがあります。それは会社が何を目指すのか、何をして社会に貢献するかを熱く語ることで、社員を奮い立たせ、組織を結束させる役割です。この役目は誰にも代われません。だからコミュニケーション能力は自分で身につける必要があります。

もう一つ大事なのは、後継者になる人にあらかじめ社長にしか見えない景色を見せること。トップになった瞬間、他社やメディア、社会と自社の関わりが見えてきます。頂からの景色を知っているのと知らないのとでは、後継者が抱える不安の度合が違うのです。その景色を見せてあげるのは、先代社長の役割です。

M&Aのほかにも選択肢はある

――日本ではM&Aによる事業承継が増えていますが、この傾向をどのようにお考えですか。

中山 M&Aは有力な選択肢だと思いますが、金融的な承継事例が増えているのが気にかかります。政府もM&A減税措置や各種サポートを用意していることから、事業承継をビジネスとして手がける事業者が増え、他の選択肢を検討しないまま決めてしまう企業が多いようです。

特に、先代がカリスマ経営者の場合は「先代の真似はできないから」と、M&Aを安易に選びがち。しかしそれが最良の選択かどうか、冷静に考えたほうがいい。日本企業はM&Aを決めるタイミングをもう少し遅らせてもよさそうです。

よりよい選択をするためにも、先代社長は事前に法律や税制を学ぶ機会も必要です。知識があれば他の選択肢も検討できます。自社の価値を自社で算出できれば、証券会社を牽制することになり、言いなりにならずにすみます。

「相談しても解決しない」それは違う

――最後に、多くの企業に最適で発展的な事業承継を実現していただくために、経営者に向けたメッセージをお願いいたします。

中山 中小企業庁の経営者を対象としたアンケート調査によると、事業承継について「誰にも相談していない」「相談しても解決しない」と答えた人が半数近くいます。この半数の方々に特に言いたいのが「ぜひ相談をしてください。解決できないと思わないでください」ということ。

私たちは成功事例を数多く知っていますし、単にスムーズな継承だけでなく、その企業の特徴を把握した上で、より成長、発展する事業承継をご提案できます。

私は7年前、心臓病を患ったことをきっかけに、自分の経験と知識を日本企業発展のために役立てたいと、自分で会社を起こしました。日本に千の花を咲かせたいとの思いで事業を運営しています。事業承継においても私は全力でサポートをいたします。

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ミルフィオーレ 合同会社 CEO 中山 良一

「外資のブランディング、ビジネスデザインプラットフォーム、デザイン思考のアプローチを活用したミルフィオーレ合同会社を2017年に設立し、 寄り添い型のコンサルティングを実施。 現在、 第7期目。 外資での豊富なゼロイチ経験を活かして、 新規事業開発アクセレレーターとしてクライアントの会社に参画。4年で100人以上の社長や個人ビジネスオーナーへコンサルティングを実施。 ビジネスパートナーと共に不動産ファンドを活用した多店舗展開スキームも開発した。海外にも事業を展開し、1社は2020年に台湾に店舗開業も経験。 約30年の外資系時代には、AIG で延長保証ビジネスの新規事業立ち上げメンバーとなり、No.2のポジションで事業開発の責任者となり、4年で100億の収益規模まで発展させた。 AXA 生命では、 規制緩和のタイミングでバンカシュランス (銀行の保険販売) 部門の立ち上げメンバー。準備から国内の銀行を訪ね、 開始3年で1000億の収保を達成。また、部門化後は、 5年で1兆5000億円まで規模を拡大し、トップ銀行や証券会社との商品開発、提携交渉のリーダーを担った。」 現在、一般社団法人サクセッション協会にて、事業承継のプログラムを構築支援をしている。

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