同族以外の社員と対等に扱わなければ、ファミリー企業には優秀な人材が集まらない

日本企業の90%以上を占めると言われる同族企業には、どのようなメリット、デメリットがあるのだろうか。2025年4月に開催した「賢者の選択 2025東京 春のパーティー」に、業種の異なるファミリービジネスの事業承継者3名が集結。ガバナンスや人材活用など、ファミリービジネスならではのポイントについて、三菱鉛筆株式会社 代表取締役社長 数原 滋彦氏、株式会社ふくや 代表取締役 川原 武浩氏、由紀ホールディングス株式会社 代表取締役社長 大坪 正人氏が本音で語り合った。
目次
息子のことを気にかけながら、会社を愛し続ける父の視線に良好な関係を実感

──ファミリービジネスを事業承継する際、問題になる点として、先代との関係性が挙げられる。
「事業承継時に問題になるのは、パスを受ける側ではなく、パスを出す側だと思うのです。うちの場合は、父も叔父もさっと株を渡してしまいました。素直にパスを出してもらったので、そのまま、きれいに受け取ったのです」(川原氏)
「当社は上場企業ですから、株式の原理で選ばれているとは思っていません。ただ、祖父も父も三菱鉛筆に対して一生懸命仕事をしてきましたし、私はその姿を見てきました。やり方が違っても、会社をよくするために力を尽くすという気持ちは同じなのだと思います」(数原氏)
「先代、先々代から、理念に関わること以外は口を出さないと言われていました。そのためか、時々テーブルに新聞記事や雑誌の切り抜きが置かれていることがあります。それを読みながら、どんなところに問題意識を持っているのか、読み解いています。ただ、何の気なしに置いたときもあって、その判別が大変ですね」(川原氏)
「シチュエーションはさまざまですが、結局のところ父親の愛は感じます。息子のことを気にして、会社も愛しながら見てくれているので、良好な関係が保たれているという気がします」(大坪氏)
ファミリー以外から優秀な人材をスカウトすると、それも特別扱いに

──ファミリービジネスにおけるガバナンスと人材登用については、どのような考えを持っているのだろうか。
「やはりガバナンスは大事です。もしもファミリーが暴君のような一枚岩になってしまうと、会社はおかしくなってしまいます。そこをどう守っていくかが、大切です」(数原氏)
「ガバナンスをきちんとしないと、社員に示しがつきません。『家族は特別』というのはまずいことです。また、主役になれないと思って、優秀な人が入ってこないのです。これはファミリービジネスのデメリットかもしれません。ファミリーの特権にしないで、対等に扱う必要があります」(大坪氏)
──自身の右腕、左腕となる、ファミリー以外の優秀な人をどのように採用しているのだろうか。
「基本的に直接のスカウトはしません。スカウトした人が特別扱いになってしまうからです。プロパーから育つか、他の企業で活躍していた人が転職してくるのを待つか、偶然に頼っている部分もあります」(川原氏)
「当社は約90%がプロパーなので、先代が育ててくれた役員と一緒にやるというのがベースです。途中から入ってきたメンバーも含め、特別扱いをしないで一緒にやっていく文化です」(数原氏)
事業承継とは異なる0→1にあこがれ、グループ企業でチャレンジも

──新しいことをゼロから生み出すスタートアップ企業については、どのような印象を持っているのだろうか。
「イノベーションを起こすレベルでは、我々のジャンルとは使っている能力が違うのだろうと思います。創業者になられるような方のアントレプレナーシップと、ファミリービジネスがうまくかみ合えば、よりよいイノベーションが起きると思います」(川原氏)
「0→1は難しいですが、グループ内でベンチャーとしてチャレンジしています。スピード感を求めると、ゼロから始めた方がむしろ早いケースがあります。長くやっていたからこそ積み上げられた技術と、0→1を組み合わせたいと考えています」(大坪氏)
「企業にはビジネスモデルの寿命があると思います。老舗企業もどこかでビジネスモデルを転換します。その時には多分0→1のチャレンジをしているのです。ただ、ある程度の蓄えがあって、そこにチャレンジするのと、何もないところから生むのは大きく違うと思っています。うらやましいですし、すごいと思います」(数原氏)
──ファミリービジネスの事業承継者が集まり、本音で語り合う機会は少ない。感想と今後に向けたコメントを聞いた。
「製造業は今後もっと盛り上がり、これからがチャンスだと考えています。モノづくりの高い技術を生かし、きちんと作れる企業の強みを信じて、がんばっていきます」(大坪氏)
「こうして皆様と話せる機会はそうありません。自分にとっての貴重な勉強の場、成長の場だと思います。ありがとうございます」(数原氏)
「次の社長はファミリーから出さないと宣言して、私は社長になりました。また、あと7年、60歳になる時に辞めると期限を切りました。これからどんな後継者が誕生するか、当社を温かく見守っていただければと思います」(川原氏)
3つの企業はその業界、業容、地域など、多くの面で大きく異なる。一方で、ファミリービジネスという共通点からは、家族の温もりが感じられる。
企業経営に立ち向かう3氏の自信に満ちた笑顔。そこには事業を次の世代へと着実に伝える決意が表れている。
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