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「つぶれないでしょ」緩んだ社員、税務署は疑惑の目 九州で10億本の「大ヒットご当地アイス」を引き継いで~竹下製菓【後編】

九州で累計10億本を売り上げた大ヒットアイス「ブラックモンブラン」を製造する竹下製菓(本社・佐賀県小城市)を2016年に継いだ、創業家の5代目竹下真由社長だ。そして、「最強の右腕」である夫の雅崇副社長は、謎の覆面副社長だ。二人三脚で売上げを倍増させた2人に、大ヒット看板商品を持つ企業ゆえの「緩み」と事業承継について聞いた。

謎の覆面、副社長が顔出しNGの理由とは

今回の取材を受ける際、雅崇氏から一風変わった条件が出された。掲載する顔を「ブラックモンブラン」のパッケージで隠すことだ。顔出しNGの理由は何なのか。

「顔出しNGは仕事が理由です。覆面調査の仕事をしているので」と雅崇氏は明かす。メディア出演も多い創業家の真由氏は、社内に顔バレしている。このため、販売店やライバル商品の動向調査などに雅崇氏が出向くため、メディアに顔は出せないのだという。

「つぶれないでしょ」社員に緩み、税務署も驚きのロス

竹下製菓に入社した2人の目に映ったのは、大ヒット商品「ブラックモンブラン」を持つ企業ならではの緩みだった。真由氏は、「社員みんな『まさか潰れないでしょう』という気持ちがすごく強かった」と振り返る。

特に問題となったのは、製造時のロス(廃棄)の多さだった。アイスクリームの製造では、菌が検出されると製造中の商品を大量に廃棄しなくてはならない。しかし、現場に菌の混入を防ぐ発想がなく、「しょうがないから捨てよう」「ロスは出るものだ」という受け止めだったという。

このロス量は、財務資料を見た税務署職員が「これ、(廃棄を過剰に計上することで)利益を調整していませんか?」と驚き、疑うほどだったという。2人は、5~6年かけてロスを減らす取り組みを続け、企業の体質を改善していった。

売上げ倍増、積極的なM&Aの狙い

50年、ヒットを続けたブラックモンブランだが、この先の50年も同じように売れる保証などどこにもない。少子化で「口」の数は確実に縮小している。「従業員の生活を守るためにも、手を打っていかなければ生き残れない」と真由氏は、M&Aに乗り出す。

2020年、埼玉県のアイスクリームメーカー「スカイフーズ」、22年には生クリームパンで有名な岡山県の「清水屋食品」を買収した。スカイフーズ買収は、災害時の生産拠点や、関東進出を見据えて「第2拠点」を作る目的だ。清水屋食品は、新たな領域の商品を獲得する狙いがあった。結果、真由氏は売上げを就任前の倍に押し上げた。

夫婦二人三脚ならではの事業承継

夫婦2人で会社を経営するとはどういうことか。真由氏は「悩みを共有できるのがいいところ」とし、雅崇氏は「喜びは2倍に、悲しみは半分に」と話す。

2人はその性格から、役割を分担している。大枠を描き、音頭を取るのは真由氏。その構想を具体的に詰めて事業化していくのが雅崇氏だ。

生クリームパンの清水屋食品を買収した際も、真由氏が「すごい面白いパンがあるよ」と持ち込んだ。雅崇氏は「また何か持ってきた。また僕が面倒見ないといけないかな」と思ったというが、2人で味にほれ込み、後継者難だった清水屋食品の円満なM&Aに成功したという。

今、竹下製菓はブラックモンブランの関東進出に乗り出している。ブラックモンブランは、会社の宝であり、自分にとってのライバルでもあるという真由さん。「1人でも多くの人に食べて欲しい」と願っている。

前編|九州で10億本「大ヒットご当地アイス」を受け継いで ロボコン出身、売上げを倍にした5代目社長と「最強の右腕」~竹下製菓

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賢者の選択 サクセッション編集部

賢者の選択サクセッションでは、⽇本経済の課題解決と発展のためには、ベンチャー企業の育成と併せて、これまでの⽇本の成⻑を⽀えてきた成熟企業∕中堅‧中⼩企業における事業承継をフックとした経営資源の再構築が必要であると考えています。 ビジネスを創り継ぐ「事業創継」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。 絶対解の存在しない事業承継において、受け継いだ経営者が事業を伸ばす きっかけとなる知⾒を集約していきます。

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