COLUMNコラム
九州で10億本「お化けアイス」ブラックモンブランを受け継いで/売上げを倍にした5代目女性社長、夫は謎の覆面副社長

九州人なら誰もが食べたことがあるご当地アイスがある。佐賀の製菓会社が生んだ「ブラックモンブラン」は、1969年の発売以来、ほぼ九州だけで累計10億本を売り上げた。この大ヒット商品を持つ竹下製菓(本社・佐賀県小城市)を2016年に継いだのが、創業家の5代目竹下真由社長だ。彼女は、夫の雅崇副社長を「最強の右腕」として、二人三脚で売上げを倍増させる手腕を発揮している。2人に、大ヒット看板商品を持つ企業の事業承継について聞いた。
目次
「お化け商品」ブラックモンブラン誕生秘話

バニラアイスをチョコで包み、クッキークランチをまぶしたブラックモンブラン。発売開始の1969年当時、アイスキャンディーといえば着色した砂糖水を凍らせた商品が多い中、高級感あふれるブラックモンブランは、発売直後から大ヒットした。
竹下製菓は、明治時代にマシュマロやビスケットの製造をいち早く始めたフロンティアとしての歴史がある。ブラックモンブランは、どのように誕生したのか。
ブラックモンブランを世に生んだのは、3代目社長の竹下小太郎氏だ。ヨーロッパを視察した際、欧州最高峰のモンブランを見た小太郎氏は「あの真っ白い雪山に、チョコレートをかけて食べたらさぞおいしいだろう」と思った。佐賀に帰り、すぐに商品開発に取りかかり、当時は珍しいクランチをまぶして売り出した。
ほぼ九州だけでしか販売されていないが、54年間で10億本を売り上げる「お化け商品」となっている。ちなみに、真由氏によると、「『パーティー開け』して、包装を紙皿のように使うと、クランチをこぼさず食べられます」という。
ロボコンに憧れて
ブラックモンブランを生んだ小太郎氏の孫、真由氏は一人っ子だった。幼い頃から、なんとなく会社を継ぐことになると思っていたという。親戚から「大きくなったらお婿さん取って継ぐ人探さないとね」などと言われると、「なぜお婿さんなの。私がやるのに」と反発を感じたこともあった。
しかし、大学進学で「菓子」とは違う道を選択する。それは「ロボコン」だった。テレビで見たロボコンに憧れ、東京工業大に進学する。
「ロボットの誘惑が強すぎて…」と笑って振り返る真由氏だが、内心は事業を承継することを見据えていた。食品や化学の知識があっても、機械を知らないと製造現場の理解ができないと考えていたという。
パリピのヤバい人…夫との出会い

卒業後、真由氏は外資系コンサル企業に入社する。同じ職場で、夫となる雅崇氏と出会うのだが、第一印象は悪かったという。
内定式で、慶応大卒の雅崇氏が真由氏に声をかけたときのこと。真由氏が竹下製菓の子息と聞くと、雅崇氏は「ブラックモンブラン?俺と結婚しようぜ」といきなり切り出した。真由氏は「こういうパリピ系の人って一番苦手…面倒くさい」と感じたという。
しかし、家業について相談したりする中で、距離を縮め、交際1カ月で結婚。雅崇さんは、もともといつか事業を興したいという思いがあり、2001年に真由さんが竹下製菓に入社し、後を追うように2004年に雅崇さんが入社した。
謎の覆面、副社長が顔出しNGの理由とは
ところで、取材を受ける際、雅崇氏から一風変わった条件が出された。顔を「ブラックモンブラン」のパッケージで隠すことだ。顔出しNGの理由は何なのか。
「顔出しNGは仕事が理由です。覆面調査の仕事をしているので」と雅崇氏は明かす。メディア出演も多い創業家の真由氏は、社内に顔バレしている。このため、販売店やライバル商品の動向調査などに雅崇氏が出向くため、メディアに顔は出せないのだという。
「つぶれないでしょ」社員に緩み、税務署も驚きのロス

竹下製菓に入社した2人の目に映ったのは、大ヒット商品「ブラックモンブラン」を持つ企業ならではの緩みだった。真由氏は、「社員みんな『まさか潰れないでしょう』という気持ちがすごく強かった」と振り返る。
特に問題となったのは、製造時のロス(廃棄)の多さだった。アイスクリームの製造では、菌が検出されると製造中の商品を大量に廃棄しなくてはならない。しかし、現場に菌の混入を防ぐ発想がなく、「しょうがないから捨てよう」「ロスは出るものだ」という受け止めだったという。
このロス量は、財務資料を見た税務署職員が「これ、(廃棄を過剰に計上することで)利益を調整していませんか?」と驚き、疑うほどだったという。2人は、5~6年かけてロスを減らす取り組みを続け、企業の体質を改善していった。
売上げ倍増、積極的なM&Aの狙い
50年、ヒットを続けたブラックモンブランだが、この先の50年も同じように売れる保証などどこにもない。少子化で「口」の数は確実に縮小している。「従業員の生活を守るためにも、手を打っていかなければ生き残れない」と真由氏は、M&Aに乗り出す。
2020年、埼玉県のアイスクリームメーカー「スカイフーズ」、22年には生クリームパンで有名な岡山県の「清水屋食品」を買収した。スカイフーズ買収は、災害時の生産拠点や、関東進出を見据えて「第2拠点」を作る目的だ。清水屋食品は、新たな領域の商品を獲得する狙いがあった。結果、真由氏は売上げを就任前の倍に押し上げた。
夫婦二人三脚ならではの事業承継

夫婦2人で会社を経営するとはどういうことか。真由氏は「悩みを共有できるのがいいところ」とし、雅崇氏は「喜びは2倍に、悲しみは半分に」と話す。
2人はその性格から、役割を分担している。大枠を描き、音頭を取るのは真由氏。その構想を具体的に詰めて事業化していくのが雅崇氏だ。
生クリームパンの清水屋食品を買収した際も、真由氏が「すごい面白いパンがあるよ」と持ち込んだ。雅崇氏は「また何か持ってきた。また僕が面倒見ないといけないかな」と思ったというが、2人で味にほれ込み、後継者難だった清水屋食品の円満なM&Aに成功したという。
今、竹下製菓はブラックモンブランの関東進出に乗り出している。ブラックモンブランは、会社の宝であり、自分にとってのライバルでもあるという真由さん。「1人でも多くの人に食べて欲しい」と願っている。
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