COLUMNコラム
「事業承継」と「廃業」、どっちがいい?――それぞれのメリット・デメリットを解説
近年、後継者問題や経営状況の悪化により、廃業を選ぶ中小企業経営者が増加しています。ただ、事業承継税制により事業承継のメリットが拡大されましたし、新たな選択肢としてM&Aによる事業承継(事業譲渡)も注目を集めています。本記事では、事業承継と廃業のメリット・デメリットを解説しましょう。
目次
事業承継と廃業の意味
経営者が会社経営から身を引く場合、主な選択肢として挙げられるのが「事業承継(事業譲渡を含む)」と「廃業」です。まずはそれぞれの意味について見ていきましょう。
事業承継とは
事業承継とは、事業を現経営者から後継者に引き継がせること。事業譲渡も経営者が事業を手放すという意味では同じですが、事業譲渡の場合は会社の事業の全てが譲渡されるわけではなく、その一部が譲渡されるケースも多々あります。
また、事業承継は資産だけでなく負債なども引き継ぎますが、事業譲渡だと買収する企業が求める対象だけを引き継ぐことができます。事業承継の後継者は、親族、社員・役員、第三者などさまざまです。中小企業においては、これまで親族が一般的でしたが、少子高齢化や職業選択の自由などの背景により、現在は社員・役員、第三者の後継者も非常に増えています。
廃業(精算)とは
「廃業」とは、経営者の判断によって事業をやめること。主な理由は、経営者の高齢化、後継者不在、事業承継のための資金不足、事業の先行きが見えない、などです。「精算」と呼ばれるように、廃業した会社は解散の登記を済ませてから清算手続きに入り、資産の売却・回収を行って現金化した後、従業員の給料や税金などを含む債務を支払い、会社を消滅させます。ただし、さまざまな理由から債務を支払えなくなって事業をやめざるを得ない場合、「廃業」ではなく「倒産」による手続きを行うことになります。
事業承継のメリット・デメリット
メリット①「さまざまな意味で社会貢献になる」
企業は商品・サービスを提供することで利益を得ているわけですが、それに対価を支払っている人・企業がいるということは、直接的にせよ間接的にせよ、人々の生活を豊かにしているといえます。また、事業運営では雇用の場も創出します。従業員を雇って給与を支払うことで、本人だけでなくその家族の生計を支えているともいえるでしょう。このように事業承継することで、さまざまな形で社会貢献を果たすことができるのです。
メリット②「築いてきた会社の文化、従業員や技術・ノウハウを引き継げる」
事業承継は、経営者本人だけの話ではなく、さまざまなステークホルダーに影響をもたらすテーマです。特に経営者にとっては、自らの人生をかけて事業や文化、従業員を育ててきたという人も多いでしょう。事業承継では事業に用いられるすべてが対象に含まれるため、自社に尽力してくれた従業員との雇用契約を打ち切る必要もないですし、長年培ってきた技術・ノウハウも後世へと残せます。また、愛着のある事業を自身の代で終わらせることなく、会社名・事業ブランドの引き継ぎも可能です。
メリット③「さまざまな報酬を受けられる」
経営者個人のメリットでいうと、事業承継後に会長や相談役になることで報酬を得られます。また、M&Aによる事業承継だと純資産の売却益はもちろん、営業権の売却益(純利益の3~5年分が一般的)も得られます。
デメリット①「時間がかかる」
事業承継は一般的に3〜5年かかるといわれます。後継者を選ぶことから始まり、後継者育成、後継者の補佐役の選定、資金計画の作成、取引先や金融機関との調整など、実にさまざまな準備が必要になります。短期間での実施も不可能ではありませんが、承継後の経営悪化や事業承継自体がうまくいかないリスクが高まるため、期間に余裕を持った取り組みが求められます。
デメリット②「さまざまなコストがかかる」
事業承継では、承継先・譲り渡す資産によって、さまざまな支払いが発生します。たとえば、親族内承継や従業員への承継の場合、株式購入資金が必要です。事業承継時の株式にかかる贈与税・相続税は「事業承継税制」を活用することで猶予になりますが、税制利用するにあたっては事前準備や書類の継続的な提出が求められます。
また、第三者を承継先とする株式譲渡だと、オーナー経営者に所得・住民・復興税がかかります。事業譲渡でも事業承継を行う会社に対して法人税が課せられますし、譲渡資産から非課税の資産を引いた額に対する消費税が課税対象になります。
廃業のメリット・デメリット
メリット①「会社経営をやめることができる」
理由はさまざまあると思いますが、「会社経営はもう続けたくない」「事業承継は各種調整があって面倒」「後世に継ぎたいとは思わない」「リタイアして悠々自適に暮らしたい」といった人であれば、廃業は有力な選択肢といえるでしょう。
メリット②「経営状態が悪化する前にリスク回避できる」
現在は経営状況が良くても、この先どうなるか不透明である場合、多額の借金を背負うリスクを回避するために早期に廃業を選ぶケースもあります。
デメリット①「従業員や取引際に迷惑がかかる」
廃業するうえでは、従業員や取引先との契約を解消することになります。従業員の中には廃業にあたって路頭に迷うリスクもあるため、可能な限り再就職先を見つけるために尽力しなければなりません。また取引先も、あなたの会社からの仕事がメインの収入源だったとしたら、廃業したことで借金だけ残って倒産に追い込まれてしまう可能性もあります。特に地方の中小企業が廃業すると、その地域の経済にダメージを与えるケースも珍しくありません。
デメリット②「資産売却しても借入金の返済額に達しない」
廃業では会社の資産を売却して精算することになるのですが、資産価値が事業継続を止めた時点で下がってしまい、売却額が想定よりも下回る恐れがあります。
まとめ
事業承継と廃業にはメリットとデメリットが存在するため、双方の特徴をよく把握したうえで判断する必要があります。いずれにせよ、経営には寿命がつきものをいうことを理解し、早めに準備に取り掛かるようにしましょう。
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