COLUMNコラム
事業承継における不動産鑑定の必要性
事業承継を行う際、大きな悩みの種になり得るのが自社株式価額。この額が大きければ大きいほど、後継者に相続税や贈与税が重くのしかかります。したがって、承継前の資産整理は必要不可欠です。そこで気になるのが、会社が保有する不動産の評価額。会社の純資産のうちもっとも高額なのは不動産というケースが非常に多いからです。ここでぜひ利用したいのが、不動産鑑定です。
目次
不動産の正確な価値を知る方法
不動産鑑定とは、不動産の正確な価値を知る方法の一つです。国家資格を持つ不動産鑑定士が物件の個別事情を考慮して算出します。不動産の価値を知る方法として、「査定」という言葉を聞いたことがある人もいるでしょう。査定は不動産の売り出し価格を決めるために、不動産会社の担当者が行うサービスです。この際、担当者の資格の有無は問われず、査定基準も不動産会社によって様々です。また、不動産会社によって取り扱いを得意とする不動産の条件が異なるため、査定価格も会社によって大きく差が出ることも少なくありません。
一方で不動産鑑定は、国家資格を保有する不動産鑑定士が、国が定めた基準に沿ってそれぞれの不動産価格を算出し、その鑑定内容については法的な責任を負います。そして不動産鑑定士が作成する不動産鑑定評価書は、裁判所や税務署などの公的機関で立証資料として認められます。このようなことから鑑定結果は、どの鑑定士に依頼しても基本的には同じような金額になります。
事業承継で不動産鑑定が重要な理由
事業承継を行う際の多くは、相続税や贈与税が発生します。そして後継者が相続や贈与によって取得した財産は、法律(相続税法第22条)によって時価で評価されることになっています。しかし、時価の算出方法に決まりはありません。そのため、後継者(納税者)や税理士が勝手な方法で評価をしてしまうと、不公平が生じてしまいます。
そこで国税庁はその対策として「財産評価基本通達」という評価のマニュアルを作成し、一定の基準で価額を算出できるようにしています。しかし、財産評価基本通達にも問題があります。財産評価基本通達では、路線価によって不動産を評価することになっています。ところが路線価よりも実際の売買価格が著しく低くなる場合もあります。たとえば、路線価では1億円の土地が、実際は接道状況が悪い、といった理由で5000万円でしか売れないこともあるのです。けれども、税金のプロである税理士でさえ不動産の評価は財産評価基本通達を拠り所としています。
そこで利用したいのが不動産鑑定です。不動産鑑定士は高度な専門性によって適正な時価を算出し、鑑定士による不動産鑑定評価書は税務手続きの立証資料として有効となります。つまり、不動産鑑定を利用することで、上記のような路線価よりも時価が低いケースが認められるようになるのです。
路線価よりも評価が低くなりがちな土地の例
時価が路線価よりも低い土地が適正に評価されない場合、事業承継時に過分に納税することになります。また、そのような土地を所有する会社の株価は、実際よりも高く評価されてしまいます。路線価よりも時価が低くなりがちな土地には、以下のような特徴があります。
・傾斜地や極端に高低差がある土地
・農地、山林、原野
・道路に2メートル以上接していない土地
・高圧線下の土地
・土地計画道路予定地
・無道路地(建築基準法上の幅員4メートル以上の道路に接していない)
・広大地(その地域における標準的な宅地の面積に比べて著しく広大な宅地)
これらの土地は、法律上新築、増・改築できなかったり、不人気といった理由でなかなか買主が見つからず、周辺相場よりも著しく値を下げないと売却できない傾向があります。そのためこのような土地を所有している場合は、不動産鑑定を使用して評価を下げることを検討しましょう。
経営者から会社へ不動産を売却するときにも有効
事業承継を行う際、今まで経営者が会社に貸していた不動産を会社へ売却するケースもあるでしょう。この際、周辺相場よりも明らかに低い価格で売ってしまうと、脱税と見なされることもあります。そのような事態を避けるためにも不動産鑑定は有効です。不動産鑑定士が発行する不動産鑑定書が適正価格による取引だという証拠になるからです。また、企業会計において不動産の資産評価は取得金額が基準となってきました。しかし、2005年からは時価評価が基準となっています。これによって不動産価値の時間経過による変化を会計に反映させることが可能になりました。その際にも不動産鑑定は必要になります。
まとめ
以上のように不動産鑑定は事業承継時だけでなく、会社の健全な維持のためにも必要となります。とはいえ、すべての不動産を鑑定するのは得策ではありません。鑑定には1物件につき20~30万円の費用がかかります。また、時価に近い価値の不動産ならば路線価よりも高く評価されることもあるので、やぶへびとなってしまうからです。したがって、前記のように接道状況が悪いといった価値が下がる要因がある場合に有効な手段といえます。
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