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「半数以上の企業に後継者なし」に年間100件超の事業承継コンサルで立ち向かう地方銀行の本気

地方創生のカギを握るのは、その地域に根ざした地方銀行の存在とも言われる。なかでも岡山県を本拠地にする中国銀行は、金融を中心とする総合サービス業へとシフト。先進的な取り組みを積極的に進めている。同銀行を傘下に収める株式会社ちゅうぎんフィナンシャルグループの代表取締役社長 加藤 貞則氏が、事業承継コンサルティングと、銀行業にとどまらない幅広い事業展開について語った。

岡山県内の半数以上の企業には、まだ後継者が決まっていない現実

地方創生を軸に進化するちゅうぎんグループ

「豊かな未来を共に創る」というビジョンを目指し、SDGsを経営の指針に掲げて持続可能性を追求する株式会社ちゅうぎんフィナンシャルグループ。

傘下の中国銀行は、事業承継のサポートに注力していることでも知られている。その背景には、県内の半数以上の企業に後継者がいないという現実がある。

 「6割弱の企業に、まだ後継者が見つかっていないというデータがあります。これは、後継者がいない企業だけではなく、まだ決まっていないという企業も含めた数字です。岡山県は全国ランキングで15位と言われています。私どもにとっては、お客様である企業様がどんどん減っていくという事象に対して、非常に大きな危機感を覚えています」(加藤氏)

事業承継が滞ることにより、黒字ながら廃業に追い込まれるケースも予見される。

これによって、銀行は融資先、取引先を失うことにもなりかねない。同行のみならず、同フィナンシャルグループ、ひいては地域全体をも巻き込む、大きな問題でもある。

 「私どもも、さまざまな視点からこの課題に取り組んでいます。例えば、スタートアップ企業の支援です。新たな企業の誕生を促すため、起業スクールやコンテストを開催し、金融面を含めたフォローも実施しています」(加藤氏)

しかしながら、廃業せざるを得ない中小企業の方が圧倒的に多いのが、現状なのだという。

 「起業だけでなく、既存の企業へのサポートに力を費やさなければ、事業承継や地域の活性化などの問題は、大きくなる一方だと考えています」(加藤氏)

年間100件を超える事業承継コンサルティング

地方創生とSDGsを柱とした中期経営計画

同行が実施した、M&Aを除く事業承継のコンサルティング件数は、2019年度に41件だった。これが、2020年度と2021年度には各60件、2022年度83件、2023年度には93件と大きく伸びている。

 「2024年度は前期だけでも60件以上を数えています。今年度は100件を大きく上回り、今後も増えていくと考えています」(加藤氏)

中国銀行が力を入れている事業承継コンサルティングとは、具体的にどのような取り組みなのだろうか。

 「当行ではもともと、本部内に事業承継に関する専門チームを設けてきました。基本的には、事業承継に関わる情報を得ると、このチームが出動してコンサルティングにあたります。現在は、専門チームだけでなく、営業店の一般の行員も、コンサルティングを積極的に行うことで、その件数を増やしています」(加藤氏)

営業店で各顧客を担当する一般の銀行員は、金銭のやり取りだけでなく、広い意味で顧客の課題解決を担うことも日々の業務に含まれる。

積み重ねられた信用、揺るぎない信頼ある銀行だから相談できる悩み

 「事業承継に関する悩みは、誰にでも気軽に相談できる話題ではないとお聞きします。ましてや身内には、なかなか話しにくいことが多いのだそうです」(加藤氏)

その点、日常業務における心の通った取引のなかで、長年にわたって積み重ねられた信用、揺るぎない信頼関係が構築されているのが銀行だ。

「事業承継の相談先として、機密事項など守秘義務についても信頼と信用をいただいているのは、私ども銀行だと自負しております。お客様から当行の支店長や役席者、担当の行員に対して、ご相談をいただくケースが増えています」(加藤氏)

同行は以前から問題意識を持ち続け、課題解決に取り組んできた。こうした努力の積み重ねが、コンサルティング件数の増加につながっているとも考えられる。

2026年までに1,000人の炭素会計アドバイザー資格取得が目標

同行は、地域社会のカーボンニュートラル実現に向けた先進的な取り組みについて、21世紀金融行動原則の「2024年度最優良取組事例 環境大臣賞」を受賞した。

 「脱炭素に関する取り組みをご評価いただきました。炭素会計アドバイザーという資格があり、2026年までに1,000人の取得を目標に取り組んでいます。岡山県は水島コンビナートに代表されるように工業が盛んで、CO2の排出抑制を大きな課題として捉えています。大企業とのサプライチェーンがしっかりしている企業は、サポートがあると思われますが、それ以外の企業への対応や、サプライチェーンから外れるリスクを想定した対策が求められます」(加藤氏)

TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)においては、CO2の排出は大手企業だけではなく、サプライチェーンを担う中堅企業にとっても深刻な課題になると言われている。

 「企業が事業を継続し、生き残るためには、人手不足や後継者問題だけでなく、こうした地球環境に関する問題にも取り組む必要があります」(加藤氏)

次の世代へと受け継ぐ未来を正しく見据え、長期的な課題の解決に向けて動き出す企業は、増えているのだという。

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