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「連帯保証人」はどうなる? 事業承継と経営者保証の関係

中小企業の経営者の場合、会社の連帯保証人になっているケースは多いでしょう。「事業承継したら、経営者保証は後継者に引き継がれるの?」「経営者保証は解除できないの?」と不安に思っている方もいるかもしれません。本記事では、事業承継における連帯保証人の扱いおよび位置づけを解説します。

連帯保証人とは?

まずは「連帯保証人」という言葉の意味について簡単に説明しましょう。連帯保証人とは、主債務者(契約する人)が返済できなくなったとき、その人の代わりに返済の義務を負う人のことをいいます。似たような言葉に「保証人」があります。部屋を借りるときに「保証人を立ててください」と言われた経験がある人も多いでしょう。「主債務者が返済できなくなったとき、その人の代わりに返済の義務を負う人であること」は連帯保証人と同じです。ただし、保証人よりも連帯保証人のほうが、重い責任が課されています。

連帯保証人とは、「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」「分別の利益」を持たない保証人を指します。「催告の抗弁権」とは、債権者(金銭の貸し手)が保証債務の履行を請求してきたとき(=「貸した金を返してほしい」と言われたとき)、「自分よりも先に債務者に請求してほしい」と主張できる権利のこと。「検索の抗弁権」とは、債権者に対して、「自分より先に債務者の財産を差し押さえてほしい」と主張できる権利。「分別の利益」とは、保証人が複数存在している場合、その頭数で割った金額のみを返済すればいいとされていること。

つまり連帯保証人は、保証人とは異なり、・「自分より先に債務者に請求してほしい」と主張することができず、・「自分より先に債務者の財産を差し押さえてほしい」とも主張できず、・総額を返済する義務のある人のことを指すといえます。

経営者保証とは?

次に、経営者保証について解説しましょう。経営者保証とは、中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者個人が会社の連帯保証人となることを言います。つまり、企業が倒産するなどして融資を返済できない状況になると、経営者個人が返済する義務を負うのです。経営者保証があることで、企業の信用が増し、資金調達がスムーズになります。一方、連帯保証人になるという重い責任があることから、融資を受けることをためらってしまい、事業展開や事業再生、事業承継にかかる費用を捻出できない企業も多くあります。

こうした課題を解決するために、平成25年12月に、全国銀行協会と日本商工会議所によって「経営者保証に関するガイドライン」が発表されました(適用開始は平成26年2月1日)。経営者保証に関するガイドラインでは、「資産の所有やお金のやりとりに関して、法人と経営者が明確に区分・分離されている」「財務基盤が強化されており、法人のみの資産や収益力で返済が可能である」「金融機関に対し、適時適切に財務情報が開示されている」の3要件を将来にわたって満たせる体制が整備されていれば、事業者は「経営者保証なしで融資を受けられる可能性がある」「すでに提供している経営者保証を見直すことができる可能性がある」とされています。

ただし、経営者保証のガイドラインは、あくまで「自主的なルール」という位置づけ。法的な拘束力はありません。経営者保証を解除するか否かの判断は金融機関に委ねられています。

事業承継における個人保証はこちらの記事をご一読ください。
「事業承継の際、経営者の「個人保証」は解除できるのか?」

事業承継後、経営者保証は後継者に受け継がれる?

先代経営者が設定した個人保証を後継者に変更したり、先代経営者の個人資産の担保を解除したりするのは非常に難しいとされています。なぜなら、金融機関が融資をしたのはあくまで先代経営者。多くの場合、若く、まだ十分な信用がなく、個人資産の少ない後継者を保証人とするのはリスクが高いと判断されるからです。したがって、何も対策をしなければ、先代経営者は事業承継後も保証人の立場を継続することとなります。

後継者はこのことをよく意識しておくべきです。もし自分の代で経営が悪化し、会社が倒産するような事態になったら、先代に多大な迷惑をかけることになりますから、真摯に経営に向き合いましょう。なお、経営者保証の解除タイミングは金融機関の判断によります。承継後、先代の経営者保証が解除され、個人資産の担保も抹消されてはじめて、先代・経営者ともに「これで事業承継が完全に完了した」と判断できます。

事業承継時に経営者保証を解除するには?

実は、後継者に連帯保証人を引き継がせず、先代経営者も経営者保証を解除する方法があります。「経営者保証に関するガイドライン」の利用です。「経営者保証に関するガイドラインとは、経営者保証によるリスクを排除し、事業展開や事業再生、事業承継を促進するために設けられました。このガイドラインが適用されれば、「すでに設定している経営者保証契約を見直してもらえる」「経営者保証を提供せず、金融機関から新規融資を受けられる」「企業の負債を債務整理する際、経営者の負担を軽減できる」などのメリットを享受できます。

ただし、経営者保証の解除の適用対象となるには、以下の要件を満たさなければなりません。
・適用を受ける会社が中小企業であること 
・法人と経営者の資産などが明確に区分
・分離されていること
・会社の経営・財産について適切に情報を開示すること 
・財務基盤の強化に務めること・反社会勢力でないこと

まとめ

事業承継のボトルネックとなる可能性のある「経営者保証」。事業承継をスムーズに進めたいのであれば、経営者保証ガイドラインなどについて事前に調べておき、利用を検討するのがいいでしょう。まずは、自社が経営者保証ガイドラインの適用対象になっているかどうか、確認することから始めてみてはいかがでしょうか。

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賢者の選択 サクセッション編集部

賢者の選択サクセッションでは、⽇本経済の課題解決と発展のためには、ベンチャー企業の育成と併せて、これまでの⽇本の成⻑を⽀えてきた成熟企業∕中堅‧中⼩企業における事業承継をフックとした経営資源の再構築が必要であると考えています。 ビジネスを創り継ぐ「事業創継」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。 絶対解の存在しない事業承継において、受け継いだ経営者が事業を伸ばす きっかけとなる知⾒を集約していきます。

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