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今すぐチェック! 事業承継税制の「贈与者」の要件とは?
事業承継で後継者にかかる相続税・贈与税を納税猶予できる「事業承継税制」。この制度の適用を受けるためには、先代経営者(贈与者)も一定の要件を満たすことが求められます。本記事では、事業承継税制の先代経営者(贈与者)の要件を紹介します。制度利用を少しでも考えている人はぜひチェックしてみてください。
目次
事業承継税制とは
事業承継税制とは、後継者が中小企業の株式を相続や生前贈与で引き継いだときに、本来支払うべき多額の相続税や贈与税の納税が猶予(または免除)される制度です。
より厳密にいうと、制度適用が認められれば納税が「猶予」され、「ある一定の条件(後述)」を満たすと「免除」になります。
事業承継税制は、適用を受けたあとに事業承継をしなかったとしてもペナルティがないため、期限である「2027年12月31日」までに事業承継をする可能性が少しでもある場合は、申請しておいて損はないといえます。
ただし、適用を受けるには「2024年(令和6年)3月31日まで」に特例承継計画を策定し、都道府県知事に提出したうえで認定書を受領しなければなりませんので注意しましょう。
事業承継税制における「先代経営者」の要件とは?
事業承継税制の適用を受けるには、大きく分けて4つ(「会社」「先代経営者」「後継者」 「その他」)の要件を満たす必要があります。
先代経営者に関する主な要件は以下のとおりです。このすべてに該当していなければなりません。
【贈与税の場合】
1.会社の代表権を有していたこと
2.贈与の直前、贈与者および贈与者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有し、かつ、後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと
3.贈与時に、代表を退任していること
※ただし、贈与の直前ですでに事業承継税制の適用を受けている人がいる場合、①と②の要件は不要です。
【相続税の場合】
1.会社の代表権を有していたこと
2.相続開始直前において、被相続人・被相続人と特別の関係がある者で、総議決権数の50%超の議決権数を保有し、 かつ後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと
※ただし、相続開始の直前において、 すでに事業承継税制の適用を受けている場合は、①と②の要件は不要となります。
なお、事業承継税制における「後継者」の要件については、こちらの記事で詳しく解説しています。
事業承継税制の手続きの流れ
事業承継税制の適用を受けるには、以下の手続きが必要です。
1.「特例承継計画」の作成する
2.「特例承継計画」を都道府県知事に提出、確認を受ける
3.「承継の実行」(贈与の場合は、この時点で代表の交代が必要)
4.都道府県知事に「認定申請」を行い、認定書を受領する
【ここまでで事業承継税制の適用が完了】
5.以降5年間、都道府県知事に報告書を提出し、税務署に届出書を提出する(毎年)
6.6年目以降は、税務署に届出書を提出する(3年に1回)
納税猶予が取り消しになる主な理由
事業承継税制の納税猶予の適用が取り消しとなる主な理由には、以下が挙げられます。
1.毎年の報告・届出書の提出をしなかった場合
2.後継者が代表者ではなくなった場合
3.会社が資産管理会社に該当した場合(一定の要件を満たす会社を除く)
4.後継者が一族のなかで筆頭株主ではなくなった場合
5.一族の議決権が50%以下になった場合
6.納税猶予対象株式を一部でも譲渡した場合
7.一定の組織変更、解散した場合
8.雇用の平均8割維持要件を満たさなくなった場合(ただし、その理由について都道府県 に報告を行えば認定取消にはならない)
このなかでも、特に①は失念しないよう注意してください。事業承継税制の利用をスタートしたら、5年間は毎年、都道府県知事に年次報告書を、税務署に継続届出書を提出しなければなりません。
5年経過後には提出タイミングが「3年に1回」に減りますが、一度でも(少しでも)提出が遅れたら納税義務が発生します。「提出を失念してしまった」という事態は絶対に回避しなければなりません。
この届出書は税理士が作成することが大半ですが、1年に1回、あるいは3年に1回の提出というのは、税理士も人間なので忘れてしまうリスクがあります。
現実的には、提出期限の前に税務署から便りが届くため、「届出書の提出を忘れたせいで事業承継税制の適用が取り消しになる」という可能性は低いものです。
とはいえ、わずかでもある「失念リスク」を回避するためには、税理士に丸投げするのではなく、経営者(後継者)自身もスケジュールを把握しておくことが重要です。
事業承継税制の納税猶予が取り消されたらどうなる?
事業承継にかかる相続税と贈与税を猶予できる事業承継税制ですが、「猶予」という言葉の通り、たとえ制度を利用できるようになっても、あくまで納税義務が一時的に発生しない状態になっただけであり、完全に納税義務が消滅したわけではありません。
もし納税猶予が取り消されたら、贈与税や相続税を、本来の予定通りに納税する必要があります。また、期間の経過に応じて「利子税」の計算を行い、納付しなければなりません。
したがって、事業承継税制の納税猶予が取り消されたら、制度を活用しなかった場合よりも多くの税金を税務署に支払うことになるのです。
利子税の詳しい計算方法については、こちらの記事で解説しています。
(「事業承継税制は「利子税」に注意!――適用取り消し時にいくらかかる?」)
まとめ
事業承継税制は、事業承継にかかる相続税・贈与税の支払いが猶予(または免除)される非常に魅力的な制度です。なかには、数千万円、億単位の税金を合法的に節税できるケースもあります。制度利用を考えているなら、事前に適用要件を確認しておきましょう。
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