COLUMNコラム
株式譲渡を制限する理由とは? 注意点も解説
中小企業における事業承継では、株式譲渡が主流となっています。株式を譲渡する際、いくつかの制限を設けることがあります。譲渡制限株式は企業にとってメリットがあり、会社そのものの防衛策になるからです。株式譲渡に詳しくない人、株式譲渡を考えている人向けに、株式譲渡制限会社の特徴、注意点、株式譲渡を制限する理由を解説します。
目次
株式譲渡制限会社の特徴は、譲渡する際に会社の承認が必要なこと
会社が発行するすべての株式の譲渡について、会社の承認が必要(自由な譲渡ができないように定款がある)な会社を、「株式譲渡制限会社」といいます。「非公開会社」ともいわれます。「会社の承認」とは、取締役会か株主総会における承認を意味します。
通常、会社に出資した株主は、その対価として「株式」を受け取り、その株式は自由に売り買いできます。株主が保有する株式に関する売買を会社が妨げることは通常できませんが、株式の譲渡を自由にすると、株主設計や経営の自由度を中心にデメリットが会社に生じる可能性があるため、譲渡制限を設けることが認められています。
反対に株式譲渡制限を設けていない会社は「公開会社」とされます。上場会社はすべて公開会社に該当します。株式譲渡に制限を設けるかは、会社の規模と比例します。会社規模を大きくするためには、多額の資金が必要となるためです。株式譲渡に制限を設けているのは中小企業に多いです。
株式譲渡を制限するにあたっての注意点2つ
①決算公告が必要になる
株式譲渡制限会社の注意点として、「決算公告が必要になる」ことがあります。「決算公告」とは、会社法の規定に基づいて、財務諸表を開示することです。会社がどのような状況にあるのかを開示し、会社の情勢を把握できるようにする目的があります。
決算公告には、罰則規定(100万円以下)もあるため、怠ることがないようにしなければいけません。
決算公告は、官報や日刊新聞紙、HPで開示する必要があります。
HPの掲載がお手軽ですが、注意点するべき点もあるので法務省が発信している情報をご確認ください。
参照:法務省「電子公告制度について」(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji81.html)
②株式買取請求権が発生する
株式譲渡制限会社の2つ目の注意点として、「株式買取請求権が発生する」ことがあります。「株式買取請求権」とは、会社が株式譲渡を承認しなかった場合に株主が行使できる権利です。承認されず譲渡できない場合には、会社に公正な価格で株式を買い取らせられます。
株式買取請求権を行使されると、株式の公正な価格を巡って会社と株主が対立することもあり、訴訟に発展するケースもあります。株式は一定数になると高額になるので、中小企業や設立したての会社であれば大きな負担になり得ます。
株式譲渡を制限する理由5つ
①第三者が関与するリスクを防げる
株式譲渡制限をする理由の①として、「第三者が関与するリスクを防げる」ことがあります。
株式が自由に売買できる状態にあると、会社の経営にとって不都合な第三者が株主になってしまうリスクがあります。こうした第三者が株式を多く取得し発言権を強めてしまうと、経営に支障が及ぶリスクが高いです。
一方、株式譲渡制限会社では、信頼できる人間のみを経営に参画させられます。経営者の意に沿ってくれる人物のみを株主にできるため、経営者の経営権を確立させられ、経営の自由度が上がります。また、会社の買収や乗っ取りを防ぐこともできます。
②取締役会や監査役の設置が不要で株主に限定できる
株式譲渡制限をする理由の②として、「取締役会や監査役の設置が不要で株主に限定できる」ことがあります。
譲渡制限のない株式を発行している公開会社では「取締役3人以上・監査役または会計参与1人以上」の「取締役会」を設置する必要があります。
一方、株式譲渡制限会社では、取締役会を設置する義務がなく、監査役を必ず用意する必要もありません。取締役が1人以上いれば問題ありません。
また、全株式が譲渡制限株式である場合は、取締役や監査役などの役員は株主でなければならない、という制限を定めることも可能です。
③役員の任期を最大10年まで延長できる
株式譲渡制限をする理由の③として、「役員の任期を最大10年まで延長できる」ことがあります。
会社法によって取締役と会計参与の任期は2年、監査役は4年とされています。しかし、全株式が譲渡制限株式である場合は、それぞれ役員の任期を最大10年まで延長することができます。
④株主総会招集の手続きが簡便になる
株式譲渡制限をする理由の④として、「株主総会招集の手続きが簡便になる」ことがあります。
公開会社の場合、株主総会が開催される2週間前には、文書やメールなどによって通知しなければなりません。
それに対し、株式譲渡制限会社の場合は、株主総会招集の手続きが簡便になります。株主総会開催の1週間前までに通知すれば良いと認められているからです。場合によっては、さらに短い期間での通知も可能で、口頭での招集も認められています。
⑤請求がなければ株券を発行する必要がない
株式譲渡制限をする理由の⑤として、「請求がなければ株券を発行する必要がない」ことがあります。
公開会社では自社の株式を発行する際、自社株式に関わる株券を遅れないように発行する必要があります。しかし、株式譲渡制限会社では、株主から請求がない場合には株券を発行しなくて良いとされています。
まとめ
すべての株式に株式譲渡制限が設けられている会社は中小企業に多いです。株式譲渡制限を設けることは、第三者が経営に関与するリスクを防げることなど、メリットがあります。
中小企業に多い事業承継における株式譲渡とは、オーナーが保有している株式を後継者に譲り渡すことです。事業承継での株式譲渡には3種類あり、それぞれの概要やメリット・デメリットについて過去記事で解説しているので、ぜひご参照ください。
(「株式譲渡による事業承継のメリット・デメリット。複数の事例を含めて分かりやすく解説」)
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