COLUMNコラム
「日本交通」の事例にみる、事業承継後の新規事業立ち上げに役立つポイントをご紹介 #2
事業承継後に新規事業を立ち上げるためには、先人達の成功事例を学び、自身の事業に生かすのが有効です。今回は、日本交通が事業承継後に新規事業創出に成功したことを例に、どのようなポイントを押さえておくべきかご紹介します。
目次
事業承継後に新規事業を立ち上げる意義
事業承継後に、どうして新規事業を立ち上げる必要があるのでしょうか。その意義は、培ってきた基盤をもとに、企業・事業の存続とさらなる拡大を目指すこと、そしてその拡大が持続可能なものとなるよう、後継者を育成することにあります。
現在、既存事業で十分な収益が出ているからといって、それに依存し続ければ、待っているのは業界やその会社の衰退でしょう。また同じ事業ばかりを続けていくと、社内のモチベーションも下がってきてしまいます。
一方、常に変化を求め、模倣されても他者の追随を許さない気概があれば、既存事業のリスクヘッジにもつながりますし、社内にも活気が生まれます。
日本交通に見る、事業承継後の新規事業立ち上げのポイント
それでは、実際に事業承継後の新規事業立ち上げに成功した、日本交通を例に、新規事業立ち上げにおける重要なポイントをひとつひとつ見ていきましょう。
同時に複数の事業を立ち上げる
創業95年のタクシー会社である日本交通 代表取締役会長 ※取材当時 川鍋一朗氏は、既存事業を引き継ぐだけでは会社が生き残れないと判断し、精力的に新たな事業の展開に着手していきました。
承継直後は失敗もあったものの、その経験を経て川鍋氏は、2011年に複数の新規事業を同時に立ち上げています。
当時のことを振り返り、川鍋氏はこう語ります。
「2011年に、3つ同時に新しいことをやりました。1つ目は配車アプリ。2つ目は、子どもの送迎をお手伝いするキッズタクシーなどのサービスを含むEDS(エキスパート・ドライバー・サービス)事業。3つ目は介護事業です。キッズタクシーは今でも続いていますが、1年後に介護事業は止め、1番上手くいったのが配車アプリでした。狙いすました一撃が外れてしまうと、衝撃が大きくなるため、新規事業においては多産多死という考え方でやるのが良いと思っています」。
カスタマーペインを解消する
カスタマーペインとは、「顧客の痛み=顧客が何に困っているか」という意味を指します。
川鍋氏は、アプリを使ってタクシー決済に新しい手段を導入することで、降車時には決済が完了している状況を作り出し、カスタマーペインの解消を実現しました。
そこに至るまでの経緯について、川鍋氏は、
「先陣を切って、クレジットカード決済を日本交通に導入したところ、先輩から『あれはいいぞ』という言葉をもらい、その次にSuicaを導入しました。Suicaもタクシー業界の中では初めて入れました。その結果、同様に『あれは楽だよ』と先輩から言われ、このような改善は絶対アプリでもやろうと目論んでいました。
やはり決済が、いちばんお客様にとってのペインでしたし、降りるときのいちばん忙しいときに決済が発生するので、乗務員も業務負荷が下がりました」と話します。
コンフォートゾーンを飛び出す
「コンフォートゾーン」とは「居心地の良い場所」を意味します。川鍋氏は、あえてコンフォートゾーンを飛び出し、自分とは異なる業界の人々と交流を重ねることで新規事業の立ち上げを成功に導きました。
コンフォートゾーンから飛び出す重要性について、川鍋氏はこう語ります。
「よく思うのは、ビジネスの世界は、やっぱり弱肉強食で、創業したてのベンチャーは、丸腰で戦場に行って、落ちている剣を拾って戦うような状況からスタートするんです。かたや事業承継後の企業は、先代が築いてきた事業がある状態からスタートできるわけですから、ギラギラしたアニマルスピリットがなくても生き延びられる環境なわけです。
そこをいかに抜けるかっていうのが大命題だと思うんですよね。事業承継で3代目、4代目でちょっと悩んでいる方がいたら、まず、ギラギラしたベンチャー経営者に会いに行くことをおすすめします」。
新規事業立ち上げの流れ
ここまで、新規事業を立ち上げる際に重要なポイントを、日本交通の例でご紹介してきました。ここからは、今一度新規事業を実際に立ち上げる際の流れについて、大まかに4つの工程に分けて解説します。
理念や目的を明確にする
まずは、自社・自社事業の存在意義を確かめましょう。「自社・自社事業が何のために存在しているのか」「社会に貢献しつつ利益を獲得し続けることができるのか」理念や目的を明確にしておくことが重要です。
マーケットリサーチの実施
新規事業を立ち上げる際は、ほぼ必ず競合他社が存在するため、顧客ニーズがどこに向いているのか把握することが重要です。これらを確実に認識する際に、マーケットリサーチの実施が必要となります。
ビジネスモデルの選定
ある程度顧客ニーズや競合の状態を把握できれば、自社事業においてどのようなビジネスモデルを選び取るべきかが見えてくるでしょう。新規事業は失敗する恐れがあるものの、適切に市場調査を行ったうえでビジネスモデルを選定すれば、事業が成功する可能性は高まります。
チームの構築
新規事業に携わる人材を選び、チームを構築することも重要です。この際、必要以上の人材を集めることは避け、「必要最低限の人材」でチームを構築することを心がけましょう。少数精鋭で事業をスタートさせる方が、意思決定速度の向上や人件費削減などの効果を得られます。
まとめ
今回紹介した日本交通の事例のように、事業承継後に新規事業を立ち上げて成功に導くのは決して簡単な道ではありません。何度かの失敗を通じて、やっと成功を収められると認識しておいた方がよいでしょう。そして、日本交通のような先人の成功事例を知り、学ぶことで、新規事業立ち上げが成功する可能性は高まると言えます。
なお、事業承継の詳細についてはこちらの記事でも解説しているので、併せてご覧ください。
「事業承継の流れを7つのステップで解説!」はこちら
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