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事業承継で絶対に欠かせない「遺言」の活用術

相続対策としてメジャーな「遺言」ですが、事業承継においても効果を発揮するのをご存じでしょうか?遺言書を作成することで、先代経営者が亡くなった際に自社株などを後継者にスムーズに引き継ぐことができます。本記事では、事業承継における遺言の活用メリットと注意点、遺言の種類について解説します。

なぜ事業承継で遺言を活用すべきなのか?

相続対策というと、非常に広範囲で、すべきことも多岐にわたりますが、中でも代表的なのが「遺言の活用」です。遺言は事業承継においても有効であり、大きく2つのメリットがあります。

①遺産分割協議を回避し、「後継者」に自社株を集中できる

相続発生時に遺言がない場合、相続財産は「相続人」に分配されるのが原則です。つまり、何も相続対策をしていないと、相続財産に含まれる自社株は遺産分割協議で複数の相続人に分散してしまう可能性が高いのです。また、遺産分割会議は時間も手間もかかるため、経営に「空白期間」が生じるリスクもあります。結果として、遺言書がなかったばかりに先代経営者が亡くなったとたん家族が大揉め……という「争続」が起きてしまいかねません。

なかには、そうした経営者の内輪揉めを見た後継者候補や従業員が愛想を尽かし、愛社精神を失ったり、離職してしまったりするケースもあります。ですが、「自社株については後継者がすべて相続し、その他の財産は他の相続人が相続する」といった遺言書をあらかじめ残しておくことで、遺産分割協議を回避でき、後継者に自社株を集中的に引き継がせることができます。ただし、各相続人には最低限の相続分である「遺留分」が認められているため、先代経営者が考える相続内容を遺言ですべて自由に決めることはできないので注意しましょう。

なお、遺留分を侵害している、あるいは遺留分を侵害していないけれど相続人の間で不公平がある場合、後継者から他の相続人に対して代償金を支払えば解決するケースが大半です。とはいえ、後継者の相続財産が自社株だけだと代償資金が不足する可能性がありますし、自社株を相続すると多額の相続税が生じる恐れもあります。そのため、後継者は納税資金に加えて代償資金の準備を考えておくのがよいでしょう。

②親族外の人にも財産を遺贈できる

遺言書がない場合、法律で定めた相続人が遺産を相続できます。相続人とは、配偶者と血族(血のつながりのあった人)を指します。血族の中でも優先順位があり、「被相続人に近しい人」が先の順位となります。

第1順位:直系卑属(子や孫、ひ孫など) 
第2順位:直系尊属(父母や祖父母、曾祖父母など) 
第3順位:兄弟姉妹(亡くなっている場合には甥姪)

しかし事業承継の場合、先代経営者が持つ財産(自社株など)を親族外の後継者(役員や従業員)に引き継ぎたいというケースもあるでしょう。そうした場合は、遺言書を作成することで意思を明確にし、親族外の人であっても遺贈することが可能です。

遺言は大きく2種類に分かれる

遺言にはさまざまな種類がありますが、代表的なのが「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つです。

「自筆証書遺言」とは

「自筆証書遺言」は、被相続人(事業承継の場合は、先代経営者)が自筆で作成できるものです。いつでもどこでも書くことができますし、所定の用紙などはないので、紙、ペン、印鑑さえあれば、思いついたときにすぐ作成できます。また、自筆証書遺言には作成費用がかからないのがメリットです。

デメリットとしては、まず作成にあたっては「遺言の本文」「作成年月日」「自分の氏名」「押印」を入れて、他に財産目録を作成して付けないと遺言としての効力を発揮できません。また、紛失・偽造リスクもあるため保管時には注意が必要です。被相続人が亡くなった後、相続人には家庭裁判所で遺言の存在、内容、形状などを確認する「検認手続き」を行うことが求められます。

「公正証書遺言」とは

被相続人が法律の専門家である公証人に内容を伝えて、遺言書の作成・保管をしてくれるものです。自筆証書遺言と違うのは、公証人が関わっているため「書き間違えて、遺言の効力が発揮できない」というリスクを避けられる点です。また、公正証書遺言の原本は公証役場に保管されるため紛失・偽造の心配もありませんし、「検認手続き」も不要です。ただし、作成・手間に時間とコストがかかる点がデメリットといえます。

事業承継で最適な遺言書の種類とは?

法律上、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」はともに遺言書として認められているので、どちらであっても問題はありません。ただし、事業承継対策に万全を期すことを考えるなら、やはり公正証書遺言のほうが望ましいといえます。前述したように、自筆証書遺言は法律上厳格な形式要件が定められており、もし満たしていない場合は法的効力が認められない可能性が高いからです。とはいえ、公正証書遺言を作成するには必要書類を用意したり、公証人と事前打ち合わせをしたりなど作成以外にも時間がかかるので、早めに準備をするのがおすすめです。

まとめ

遺言を活用することで、円滑な事業承継を実現できる可能性は大きく高まります。「うちの家族は仲が良いから大丈夫」と思っていると大きなトラブルに発展しまうかもしれません。計画的な遺言作成のため、専門家のアドバイスを受けながら早めの対応を心がけましょう。

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賢者の選択サクセッション編集部

日本の社会課題である事業承継問題を解決するため、ビジネスを創り・受け継ぐ立場の事例から「事業創継」の在り方を探る事業承継総合メディア「賢者の選択サクセッション」。事業創継を成し遂げた“賢者”と共に考えるテレビ番組「賢者の選択サクセッション」も放送中。

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