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この時代、東京で成功した「街の八百屋さん」とは コロナ禍で売り上げ大幅増、勢いでトラック購入して赤字、その反省を生かして

先代の廃業宣言に伴い、東京・町田市で地元から愛される八百屋「やさいのナイトウ」を引き継いだ「WAKATSU」の若月幸平代表取締役(44)。アルバイトの叩き上げから事業承継した若月氏は、野菜・果物をふんだんに使うジュース店の開店や、コンビニでの野菜販売など、新たな事業を次々に展開し、会社組織のマネジメントのてこ入れも着手。直近の年商は4億円とその勢いは年々拡大している。今では珍しくなった「街の八百屋さん」がなぜ繁盛するのか————。その秘けつを、若月氏に聞いた。

「もったいない」から生まれたジュース店

−−−−事業を引き継いだ後、新しく取り組んだことはありますか。

多くの常連さんが引き続き来てくれて、忙しく営業できていたのですが、この商売はどうしても在庫が出てしまいます。賞味期限が切れてしまいそうなものは、1かご100円で売り、それでも残ったものは廃棄していました。

それをもったいないと思った妻の発想で始めたのが、ジュース店「66KITCHEN」です。オープン4カ月後の2019年7月に始めたのですが、お店が軌道に乗っていなかったので従業員は雇わず、お店の軒先に社員にDIYでつくってもらったスペースで、夫婦でいろいろな野菜・フルーツの組み合わせを考えてスタートしました。

コロナ禍の巣ごもり需要を獲得

−−−−コロナ禍によって経営に影響はありましたか。

オープンから1年弱が過ぎ、経営が安定してきた矢先のコロナ禍でした。ただ、いわゆる巣ごもり需要で客数は伸び、年末の再繁忙期のような状況が1ヵ月間続きました。感染を拡大させないよう神経を使いましたが、野菜の詰め合わせを車まで運んで販売するドライブスルーも始めて、売り上げは大幅に上がりました。

同じ頃、土地を貸してくれているオーナーが隣でコンビニを経営することになったので、店舗を建て直して駐車場も整備しました。ジュース店「66KITCHEN」もリニューアルしてメニューも増やし、今では利益を出せる事業に成長しました。

−−−−会社組織のマネジメントとして何か変えたことはありますか。

まず、雇用形態を見直しました。先代が経営していた当時は、全員アルバイトだったのですが、若くて体が動くうちは稼げますけど、年齢を重ねるとそうではなくなってきます。僕もそうですが、家庭を持って子どもができるなど人生のステージが進むと、収入が安定しなければ困ってしまいます。そこで、社員登用と社会保険を整備することにしました。

また、2年前から管理会計ソフトを導入しました。当時は減価償却の仕組みを知らなくて、コロナ特需を受けた勢いで、トラック2台を新車で買ってしまっていました。それが原因で、2022年には赤字に転落してしまいました。

その反省で、経費をしっかり把握できるように管理会計ソフトを導入しました。それまでの経理は、税理士にすべて丸投げしていたのですが、八百屋は仕入れの品目が多いので、どうしても計算が合わなくなったりすることがあります。

僕らは現金商売なので、お金の流れを常に追っていかないといけません。経理の視点で見ても、管理会計ソフトは商品管理やお金の流れがすごく明瞭になったので、とても役立っています。現在は税理士任せではなく、専務を務めている妻に経理を任せています。

また、市場からの仕入れ方法を変更しました。八百屋の仕入れは早朝5時くらいに仲卸の競りで買うのが通常の流れなのですが、市場では前日の午後9時くらいから朝方にかけて商品がどんどん入ってきます。

先代は特殊な仕入れ方をしており、市場に入ってきた商品を仲卸と一緒に引くやり方でした。すると、他店に先んじて良い商品や変わった商品を仕入れることができます。でも、午後9時頃から翌朝まで市場にいる必要がありました。

従業員に負担がかかってしまうため、仕入れの半分は早朝5時くらいの一般的な競りで買うようにしました。負担が大きい仕入れで従業員が体を壊しては、元も子もありませんから。

飲食店はツケ払いが喜ばれる

−−事業拡大については新しい取り組みはあるのでしょうか。

2021年、町田駅前に支店を出しました。育ってきたスタッフを活かすために、店舗を増やそうと考えて出店しました。郊外の本店は車で来て箱買いするお客さんが多く、客単価が高いのですが、支店はほとんどが歩いて来るお客さん。だから、なるべく小分けにして販売するなどして、工夫しています。

また、コンビニに野菜を卸したり、飲食店向けの売り掛け販売も新しい取り組みです。本店隣のコンビニから始まり、現在13店舗に野菜を卸しています。コンビニに卸すのは手間と時間がかかるので利益率は低いのですが、ウチの広告を無料で打つようなメリットがありますし、ほかの展開につなげられればと思います。

飲食店向けの売り掛け販売は、徐々に拡大して現在40店舗ほど納めています。オープンしてから近隣の飲食店から相談を受けて、契約店舗がどんどん増えていきました。先代は現金主義だったのでほとんど売り掛け販売をしなかったのですが、飲食店はツケ払いにしてほしいところが多いんですよ。現在は小さな八百屋さん1軒分くらい、年間2000〜3000万円の売り上げになっています。

先代からのモットーを大事にしつつ

−−−−今後の展望と事業承継はどのようにお考えでしょうか?

ジュース店「66KITCHEN」が好評なので、キッチンカーを作ってイベントなどにも出店する予定です。キッチンカーが完成すれば「66KITCHEN」のスペースが空くので、そこを活用して鮮魚コーナーをつくれないかと考えています。

当店は先代のころから「味と鮮度」がモットー。八百屋としては野菜ソムリエもいて確かな商品を提供できているので、おいしい鮮魚も提供できたらお客さんも喜んでくれると思っています。

今、店舗の大型店化やネット販売の充実で、食に関する商品を買う選択肢が広がっています。当店はお客さんと顔を合わせ、質問されたら応えられますし、旬のオススメ商品を提案することが強みです。

ただ、それだけだと広がりがありませんので、他店とは違うことを取り入れて「やさいのナイトウ」をブラッシュアップしていきたいです。

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プロフィール

株式会社WAKATSU 代表取締役 若月幸平氏

1980年10月23日、東京都町田市生まれ。1979年に創業した地域密着型の八百屋「やさいのナイトウ」に16歳からアルバイトで勤務。2019年、健康問題で廃業を考えた先代から新しい会社に移行する形で事業を継承。新鮮でこだわりの野菜やフルーツを提供しながら、コロナ禍でのドライブスルー八百屋、野菜ジュース店運営、飲食店向けの売り掛け販売、新店舗の出店など事業を拡大し、地域一番の八百屋を目指す。

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