COLUMNコラム
「あの会社は恩を忘れた」と思われるリスクとは 事業承継時に顕在化する「人脈の課題」、危機管理のプロに聞く
日本経済は今、経営者の高齢化とともに事業承継が課題になっています。日本総険(本社・高松市)は、「保険中立人」としてクライアントと保険会社の間を取り持ち、リスク管理の面から経営サポートをしています。事業承継は、経営者交代に伴うリスクの一つ「人脈の課題」が顕在化するタイミングでもあるといいます。日本総険の葛石晋三専務に、事業承継におけるリスク管理の必要性について聞きました。
目次
「先代」が持つ人脈は、簡単には活用できない
——経営者が交代する事業承継に、どのようなリスクが存在するのでしょうか?
葛石 恐らく創業社長の多くは、このリスクに気づいていると思います。いろんな経営者と話すと、口々にこの点について言及されます。それは、「人脈は移せない」ということです。
父親が持つ人脈を渡されたとしても、自動的に移植され活用できるわけではありません。結局、自分の活動や考え方を発信しながら人脈は構築していくものです。特に現在は、引き継ぎ時のリスクが顕在化しています。焦点は、商習慣に関連した問題だと考えます。
——具体的にはどういった問題があるのでしょうか?
葛石 たとえば製造業では、かつては事故やトラブルがあっても、「お互いさま」の精神で解決
したり、値引きやサービスで妥協してきたりしていました。しかし、会社の事業承継があると対応や方針に変化が生じ、行き違いが起こることもあります。
トラブルだけでなく、新しい社長の人脈で新しい原材料の調達をされてしまった、などということは、実際に頻繁に起こっています。これは、事業承継における大きな課題の一つだと思います。
——事業承継時に顕在化するリスクということですか。
葛石 事業承継によって、これまで経営者がスルーしてきた点が、急に障壁として露見することがあるわけです。しかも、それは無視できないことで、時には「会社が冷たくなった」とか、「恩を忘れたのではないか」といった風に取られることもあります。
しかし、実際には、かつてと同じように親しい関係でありたいケースがほとんどです。だから、事業承継にそういったリスクがあることは、理解しておかないといけません。
——事業承継した際の、社内人材のマネジメントではどうでしょうか?
葛石 人材マネジメントも、人脈のリスク管理と同様に、事業承継における重要な要素です。事業を渡す方も受け取る方も、相互にリスク確認しておくことが大切です。だから、後継者はなるべく早く会社に入り、自らの人脈を築く時間を確保するべきです。
——リスクに備えておくことが必要なのですね。
葛石 事業承継を進める過程で、さまざまな課題が顕在化します。ただ、それを奇貨として新たな取引やビジネスモデルの転換も可能です。決して、「リスクの顕在化」はネガティブなイメージで語られるものではありません。リスク管理がされているかどうかが大切です。
——事業承継時、保険仲立人はどのような役割を果たせるのでしょうか。
葛石 保険は、あくまで課題解決の手段にしか過ぎないと思っています。事業承継とは「企業の挑戦」です。私たちが、クライアントと議論を繰り返すことが大切で、その中でクライアントが安心して成長や発展を遂げるための最適解を見いだしていくことが、保険仲立人としての役割ではないかと考えています。
企業プロフィール
1996 年4 月施行の保険業法の改正で日本に保険仲立制度が生まれたのを機に、大蔵省の登録・認可を受けて同年に創業。「技術でリスクを管理する」というコンセプトのもと独自に研究開発を行ない、クライアント企業の事業態リスクに合わせた保険調達を可能とするIBA(INSURANCE BROKING&AGENCY)COVER を商品として販売。2023 年、保険仲立人として日本で初めてTOKYO PRO Market に上場した。
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