COLUMNコラム
事業承継で「役員借入金」がリスクになる理由と解決策
役員が個人で保有する資金を法人に貸し付ける「役員借入金」を利用している会社は多いと思います。資金が少ない中小企業では資金調達として有力な手段である一方、事業承継においてはリスクもあるので注意が必要です。本記事では、役員借入金が事業承継でどのようなデメリットが生じるのか、そしてその解決策について解説します。
目次
役員借入金とは?
役員借入金とは、「役員の個人資金を法人に貸し付けた資金」のこと。金融機関から融資を受けると当然利息が発生しますが、役員借入金の場合、その役員が承認すれば無利息・無担保・長期でお金を借りることができます。そのため、開業して間もない会社や資金が厳しい企業などにとっては、役員借入金を利用するメリットは大きいといえるでしょう。
ちなみに、いくら「役員からの貸し付け」といっても、利息を設定したり会社から担保を提供したりする場合、取締役会の承認を得なければなりません。役員借入金は会社の「負債」としてカウントされるため、事前に運営者全員が同意しておく必要があるからです。
役員借入金の注意点とは?
資金が不足している中小企業にとって便利な「役員借入金」ですが、以下のようなデメリットもあります。
①「相続税が大きくなる」
役員借入金は相続財産の一部としてカウントされるため、役員借入金を残したまま先代経営会者が亡くなって事業承継した場合、後継者が支払う相続税が大きくなります。また、借入金などの債務は、遺産分割の対象外となるため、どのような割合で事業資産を分割したとしても、債務は平等に引き継がなければなりません。
つまり、後継者以外の相続人が貸付金(債権)を引き継いだら、その相続人が法人に対して返済を迫るリスクもあるのです。 場合によっては、返済の時期や期間とは関係なく返済しなければならなくなり、役員借入金のメリットがなくなるかもしれません。
②「会社の信用度が下がる」
さきほど「役員借入金は会社の『負債』としてカウントされる」と書きましたが、これは「役員借入金を利用しすぎると、債務超過になるリスクもある」ことも意味します。債務超過になれば自己資本比率が下がるため、金融機関が「この会社の経営は大丈夫だろうか」と不安を抱く可能性もあります。きちんと資料を見せたり説明したりすることで、役員借入金を実質資本金とみなしてもらえるケースもあるのですが、少なくとも第一印象は良くありません。役員借入金を過度に増やすことはリスクが高いと考えましょう。
事業承継前に役員借入金を削減する方法
事業承継後には問題の火種となることも多い役員借入金ですが、承継前に以下のような方法をとって削減することでリスクを減らすことができます。
①「DESの活用」
DES(Debt Debt Swap/デット・エクイティ・スワップ)とは、その名のとおり、Debt(債務)とEquity(株式)をSwap(交換)する「債務の株式化」を意味します。主に、金融機関が経営不振の取引先を支援する目的で使われますが、最近では企業再生ファンドの利用も増えています。役員借入金における具体的なイメージとしては、役員が企業に500万円貸付している場合、その500万円で株式を取得します。こうすることで、実際に現金を動かすことなく、役員借入金を減らすことが可能です。また、会社の純資産が増加して負債が減るため、財務体質を改善できます。
ただし、DESには注意点があります。DESを過剰に行いすぎて資本金が1億円を超えてしまうと、「中小企業ならではの優遇税制策が受けられない」「法人住民税の均等割負担が増える」といったリスクが生じます。
②「役員報酬を減額し、その分で借入金を返済」
役員報酬を減額して、その分で借入金返済をする方法もあります。役員にとってはデメリットのようにも見えますが、給与が減れば所得税・住民税などの各種税金が減額されます。
③「暦年贈与」
「暦年贈与」とは、年間110万円以下、最大で2500万円まで贈与税が非課税になる制度のこと。贈与者や受贈者の制限がなく(=誰に対して何人でも贈与できる)、届け出を提出する必要もありません。ただし、毎年決まった額の暦年贈与は、税務署から「計画的贈与」とみなされる可能性があるため、贈与額や支払時期を変えるといった工夫したほうがよいでしょう。
生前贈与についてはこちらで詳しく解説していますので、ぜひご一読ください。
(「相続税対策だけじゃない! 「生前贈与」で事業承継を行なう3つのメリット」)
④「債務免除」
役員が会社に貸し付けているお金(役員借入金の返済)を免除する方法です。 免除額に対しては法人税や贈与税などが課されるケースがありますが、会社が赤字(もしくは繰越欠損金あり)の場合なら非課税で免除されます。
まとめ
役員借入金は資金調達の手法としては効果的ですが、事業承継においてはさまざまなデメリットがあります。承継後の経営にも深く影響する要素なので、後悔しないよう早めの対策を行うことをおすすめします。
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