COLUMNコラム
中小企業が優遇される!? 「事業承継税制」の基礎知識
事業用資産や自社株を引き継ぐための資金、事業承継を機に経営革新するための投資……事業承継を行う際には、多額の費用がかかります。そんな苦境から救ってくれるのが、事業承継を行う中小企業のための優遇制度である「事業承継税制」です。本記事では事業承継税制の概要を解説します。
目次
7割が「相続税・贈与税が高い」と回答! 事業承継にかかる費用
「事業承継にかかる費用を捻出できないから、うちの会社は廃業するしかない」とあきらめてしまっている中小企業経営者は多いでしょう。実際、日本商工会議所のアンケート(2021年)によると、事業承継の障害・課題として、3割ほどの経営者が「後継者への株式譲渡」を挙げています。
そのうち約7割が「譲渡の際の相続税・贈与税が高い」、約6割が「後継者に株式買取資金がない」と回答。とにかく、事業承継にかかる費用を懸念している経営者が多いことがわかります。一般的な事業承継には、数百万円から数千万円かかるといわれています。特に多額になりがちなのが、自社株の取得費用、相続税、贈与税です。
・相続税
亡くなった人の資産が親族などに相続される際、対象となる資産に課される税金のこと。オーナー経営者の死後、親族が後継者となる場合は、後継者が相続税を納めます。相続税は累進課税となっており、相続時の取得金額が大きければ大きいほど税率が上がります。
・贈与税
贈与人が資産を譲渡したとき、被贈与人に課される税金のこと。事業承継の場合、後継者が贈与税を支払うこととなります。贈与税も累進課税制度の対象。贈与される額が高ければ高いほど、税率が上がります。
中小企業の優遇あり! 「事業承継税制」とは?
「事業承継税制」は、中小企業の事業承継において、相続税や贈与税の負担が猶予、あるいは免除される制度です。日本の中小企業の事業承継が進んでいないことに危機感を抱いた政府が、事業承継を増やすために要件を緩和したのです。
事業承継税制を受けるためには、手続き上、以下のような条件があります。
・2024年の3月31日までに「特例承継計画」を策定し、都道府県知事に提出して認定書を受け取ること
・2027年の12月31日までに承継を行うこと
さらに、会社・先代経営者・後継者などについても条件があります。それぞれ解説しましょう。
①会社の要件
対象となる企業は、以下の要件を満たしていなければなりません。
・承継法上の中小企業であること
・非上場会社であること
・資産管理法人ではないこと(一定の条件を除く)
・医療法人や風俗営業会社に該当しないこと
・1人以上の従業員がいること
・収入がゼロではないこと
②先代経営者の要件
先代経営者に関しては、以下のすべての要件に該当していなければなりません。
・会社の代表権を有していたこと
・承継の直前において、一族で50%超の議決権を有していたこと
・承継の直前において、一族の中で(後継者を除く)筆頭株主であったこと
・(贈与の場合は)承継の直前において、代表を退任していること
③後継者の要件
後継者に関しては、相続の場合と贈与の場合で要件が異なります。
【相続・贈与に共通】
・会社の代表者であること
・後継者一族において、50%を超える議決権を保有していること
・後継者一族において、筆頭株主になること(後継者が2人または3人の場合、総議決権数の10%以上を有することなど)
【相続で承継する場合】
・相続の翌日から5カ月を経過する日において、会社の代表者であること
・相続の直前に会社の役員を務めていたこと(被相続人が70歳未満で死亡した場合などを除く)
【贈与で承継する場合】 ※いずれも贈与時点が基準
・20歳以上であること(令和4年4月1日以降の贈与では18歳以上)
・役員就任から3年以上経過していること
④その他の要件
そのほか、以下の2つの要件を満たす必要があります。
・納税猶予を受ける税額および利子税額に見合う担保を税務署に提供すること
・会社、後継者、先代経営者が適用要件を満たしていることについて、一定期間内に申請し、都道府県知事からの認定を受けること
適用後も対応が必要!
事業承継税制に適用を受けた後にも、以下の要件を5年間満たし続ける必要があります。
・後継者が会社の代表権を保有していること
・後継者が非上場株式を保有していること
・雇用の平均が贈与時(または相続開始時)の80%を下回らないこと
・資産管理会社に該当しないこと
・都道府県と税務署に対して会社の状況を報告し続けること
なお、次の要件に該当した場合、税額は全額免除になります。
・後継者(受贈者)または経営者(贈与者)が死亡
・後継者(相続人)が死亡
・破産手続開始決定、もしくは特別清算開始の命令等を受けた
・後継者が、次の後継者に対して事業承継税制の適用を受ける贈与をした
事業承継税制の仕組みや手続きについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
(「事業承継で相続税が免除になる方法!――5分でわかる「事業承継税制」の仕組みとポイント」)
まとめ
中小企業が優遇される「事業承継税制」。まずは自社が要件に該当するか確認しましょう。該当することが確認できたら、2024年の3月31日までに「特例承継計画」を策定し、認定を受ける必要があります。専門家に相談し、「特例承継計画」の策定に向けて動き出してみてはいかがでしょうか。
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