COLUMNコラム
特例承継計画とは?――事業承継税制(特例措置)のメリットを享受するために
事業承継を円滑に進めることをねらいとして整体された、事業承継税制(特例措置)。簡単にいえば、中小企業で事業を承継した後継者の税負担を軽減させる制度で、平成21(2009)年度の税制改正によって創設されました。本記事では、この特例措置を受けるために必要な「特例承継計画」について解説します。
目次
そもそも、「事業承継税制」とは?
中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」によると、2025年までに70歳を超える中小企業の経営者は、約245万人に達すると発表しています。
しかし、このうち約半数の127万が後継者不在の状況にあるという結果も出ており、もしも廃業する中小企業が急増すると、2025年までの累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性も指摘されました。
このような課題に対して施行されたのが「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)」です。
この法律では、「事業承継税制」「遺留分に関する民法の特例」「事業承継時の金融支援措置」を3つの柱として盛り込まれており、事業承継税制の対象は個人か法人かで分かれますが、本記事では法人を対象とした「非上場株式等に係る贈与税・相続税の納税猶予制度」について見ていきましょう。
事業承継税制には「一般措置」と「特例措置」がある
事業承継税制は、手続きが煩雑で、事業承継5年間の適用要件が厳しく、要件を満たさなくなったら納税猶予が取り消されてしまうというデメリットから、使い勝手が悪いと評されていました。
そこで2018年度の税制改正において、「10年間の時限措置」として、厳しい要件が緩和された「特例措置」が創設されたのです。ここで、一般措置と特例措置の具体的な違いを見てみましょう。
特例措置 | 一般措置 | |
事前の計画策定※1 | 6年以内の特例承継計画の提出(2018年4月1日から2024年3月31日まで) | 不要 |
適用期限 | 10年以内の贈与・相続等(2018年1月1日から2027年12月31日まで) | なし |
対象株数 | 全株式 | 総株式数の最大3分の2まで |
納税猶予割合 | 100% | 贈与:100%相続:80% |
承継パターン | 複数の株主から最大3人の後継者 | 複数の株主から1人の後継者 |
雇用確保要件 | 弾力化 | 承継後5年間平均8割の雇用維持が必要 |
経営環境変化に対応した免除 | あり | なし |
相続時精算課税の適用※2 | 60歳以上の者から18歳以上の者への贈与 | 60歳以上の者から18歳以上の推定相続人・孫への贈与 |
※1:令和4年4月1日施行の改正施行規則により、特例承継計画の提出期限は1年延長。
※2:成人年齢引き下げに伴い、受贈年齢要件は「18歳以上」に(改正前は20歳以上)。
出典:中小企業庁発表資料
上記を見ると、一般措置よりも特例措置のほうが手厚い内容になっていることがわかります。
特例承継計画とは?
特例措置を受けるために不可欠なのが、特例承継計画です。
この計画には、後継者名や事業承継の予定時期、承継時までの経営の⾒通しや承継後5年間の事業計画等を記載しますが、その内容を認定経営⾰新等⽀援機関に提出し、指導や助⾔を受ける必要があります。
「認定経営⾰新等⽀援機関」とは、税務や金融等に関する専門知識や中小企業支援の実務経験を一定以上有する個人や法人を指し、経済産業省の認定を受けた機関です。
そのうえで、2024年3月31日までにこの計画を都道府県庁に提出し、確認を受けなければなりません。特例承継計画は、原則として贈与や相続開始前に提出することになっていますが、2024年3月31日の期限までは、贈与や相続開始後でも認定申請時までであれば提出することができます。
特例承継計画を作成するポイントは?
次に、特例承継計画に記載する内容を見てみましょう。
①会社について
基本項目として、以下の内容を記載します。
・主たる事業内容
・資本金額または出資の総額
・常時使用する従業員の数
②特例代表者
承継させる株式の現保有者、つまり先代経営者の氏名と代表権の有無を記載します。
③特例後継者
特例措置においては、一般措置と異なり株式を承継する予定者を最大3人まで記載できます。記載されていない人に株式を承継した場合、事業承継税制の特例は受けられないので、注意しましょう。
④株式取得期間の経営計画
代表者が有する株式などを特例後継者が取得するまでの期間の経営計画です。すでに先代経営者が退任した、あるいは株式の取得後の場合は記載する必要はありませんが、具体的には以下の内容を記載します。
・株式を承継する時期(予定)
・当該時期までの経営上の課題
・課題への対応策
⑤株式等承継後5年間の経営計画
特例後継者の株式等承継後5年間の計画を記載します。
数字面の記載は必要ありませんが、どのように事業を継続発展させるか、1年ごとにできるかぎり具体的に記載しましょう。
中小企業庁のHPに記載例が載っていますので、参考にしてみてください。
まとめ
事業承継税制で大きなメリットを受けるためには、この「特例承継計画」の提出が第一関門となります。提出期限をしっかり認識したうえで、どのような内容を記載し、どのような工程が必要なのかを事前にしっかり把握することで、事業承継の成功にまた一歩近づくことができます。
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