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事業承継の判例に学べ! トラブルを防ぐために

判例:競業禁止義務に違反したケース

まず1つ目に紹介するトラブルは、競業禁止義務に関わるものです。事業譲渡をした後、新たな事業を始めるとき、これまでの経験や強みを生かした事業を選びたいと思うのは自然なことです。
ところが、専門家に相談せずに始めてしまうと、競業禁止義務に違反してしまう可能性があります。
たとえば、以下のような事例です。

●中古衣類売買事業の譲渡契約を結んだ、A社とB社の事例

A社はB社と譲渡契約を結び、中古衣類の売買事業(Webサイト名:C)を譲渡しました。
譲渡対象となったのは、Cを構成する電子ファイル、ドメイン名、在庫商品、商品の買い取り・査定マニュアル、そして各種契約の契約上の地位です。
譲渡が成立した後、A社は再び中古衣類の売買事業をスタートさせました。Webサイト名はDです。

●争点とその結果

争点となったのは、主に以下の2点です。

  1. A社は譲渡契約の対象となった事業と「同一」の事業を行っているのか
  2. A社は「不正の競争の目的」を持っているか

それぞれ詳しく見ていきましょう。

1. A社は譲渡契約の対象となった事業と「同一」の事業を行っているのか

このケースでは「同一」であると判断されました。
A社側は「ファッションのジャンルが完全には一致していないので、同一ではない」といった主張をしますが、受け入れられませんでした。

2. A社は譲渡契約の対象となった事業と「同一」の事業を行っているのか

事業譲渡の趣旨に反する目的で同一の事業をしていることが明らかであるとして、「不正の競争の目的」を持っていると判断されました。
A社側は「B社の顧客を奪うつもりはなかったため、不正の競争の目的はない」と主張しましたが、受け入れられませんでした。
サイトCとサイトDを誤認する顧客が現れるなどして、サイトCの売上高が落ち込んだことが一つの理由とされています。
この裁判では、「A社は、Webサイトを利用しての中古衣類の売買を目的とする事業のうち、別紙事業目録記載の事業を営んではならない」という結果となっています。
別紙には、これまでA社が扱ってきた衣類のジャンルやファッションブランドが記載されていました。つまり、これまでと同じような事業はできないということです。

●判例からわかること

この判例からわかるのは、「競業禁止義務に違反してしまうと、新たにスタートした事業が停止になる恐れがある」ということ。
事業譲渡をした後、これまでのノウハウを使い、同じような事業を始めようと思うかもしれません。
しかし、専門家に相談することなく「同一にはあたらないだろう」と考えてしまうのは危険です。
不正競争行為にあたらないよう、新規事業をスタートさせる際には、あらかじめ専門家に相談するようにしましょう。

事業承継でありがちなトラブル

そのほかにも、事業承継でよくあるトラブルを紹介しましょう。

①株主が誰かわからなくなってしまった

事業承継を検討しはじめたタイミングで、株主名簿を紛失したり、株主名簿が正確に管理されていなかったりすることから、誰が株主かわからなくなってしまうケースです。
株主名簿は、株主などに関する事項を記載するものとして、会社法で作成が義務付けられています。
株主名簿が整備されていなかったり、紛失したりしてしまうと、経営者が亡くなったときや、いざ事業承継を検討しようとしたときに、計画の妨げになってしまうことがあります。
また、誰かに事業を譲渡しようとしても、株主名簿が整備されていないことが、買い手側にとっての不安要素になってしまうことも考えられます。
いざというときに困らないよう、株主名簿は常に整備し、必要に応じてアップデートしておきましょう。

②従業員から未払い残業代の支払いを求められた

会社を事業承継した後、先代が起こしたトラブルが発覚するケースです。
たとえば、経営権が後継者に移った後、従業員への残業代の未払いが発覚し、「支払わなければ退職する」などと申し立てられた場合です。
過去には、雇用関係を含む事業譲渡をした後継者に対して、元従業員への支払いが命じられた判例もあります。
事業承継を目前にしたタイミングや、事業承継が完了した後にこうした事態が発覚すると、せっかく作成した承継計画も台なしになってしまいます。もちろん、事業承継の計画有無にかかわらず、残業代はきちんと支払われるべきです。
ただ、事業承継を考えているならなおのこと、従業員との信頼関係を大切にしましょう。人がいないと事業は成り立ちません。

③会社の財産と個人の財産が区別されていなかった

工場が経営者の個人所有で、土地が会社所有といったケースでは、借地契約を結んでおらず、地代も払っていないことがあります。
先代が亡くなり、その家族が相続した際、会社の株は兄が、土地は妹が相続したとしましょう。
兄は「もともと地代を払っていなかったのだから、これからも支払う必要はないだろう」と考えるも、妹は納得せず、地代を支払わないのであれば土地を明け渡してほしいと主張し、事業が継続できない事態に陥ることがあります。

このように、承継の対象となる会社や工場の所有権と、土地の所有権が会社と個人に分かれてしまっている場合、相続のタイミングでトラブルが勃発することがあります。
相続が発生した際、会社関連の土地など所有権が分散しないようにするにはどうすればいいのか、生前から専門家に相談しておくのがいいでしょう。

まとめ

事業承継にはトラブルがつきものです。
これまで大切に育ててきた事業を円滑に承継するために、さまざまなトラブルを想定し、準備をしておきましょう。「大丈夫だろう」と過信することなく、専門家に相談し、慎重に進めることが大切です。

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賢者の選択 サクセッション編集部

賢者の選択サクセッションでは、⽇本経済の課題解決と発展のためには、ベンチャー企業の育成と併せて、これまでの⽇本の成⻑を⽀えてきた成熟企業∕中堅‧中⼩企業における事業承継をフックとした経営資源の再構築が必要であると考えています。 ビジネスを創り継ぐ「事業創継」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。 絶対解の存在しない事業承継において、受け継いだ経営者が事業を伸ばす きっかけとなる知⾒を集約していきます。

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