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事業承継税制で「退職金」を活用する場合のメリット&注意点

事業承継対策の一つとして、「役員退職金」を活用して自社株の評価額を下げることで税負担を軽減する方法があります。ただし、節税効果が大きい一方で、活用の際はいくつか注意すべき点もあります。本記事は、役員退職金を活用した事業承継対策のメリットや注意点、計算方法を解説します。

役員退職金を活用した事業承継対策のメリット

事業承継で役員退職金を支給することによるメリットは、大きく以下の3つが挙げられます。

1.経営者の引退後の資金を確保できる 
2.当期の利益を圧縮して、法人税の負担額を減らせる
3.自社株の評価を引き下げられる

それぞれ解説していきましょう。

①通常の給与所得よりも税負担が軽い

役員退職金に課せられる税金(所得税と住民税)は「退職所得控除を差し引いた後の2分の1の金額」なので、通常の給与所得より税負担が小さく済みます。また、退職所得は「分離課税」で他の所得と合算する必要がないため、税率が上がることはありません。会社に資産を残したまま事業承継すると、相続税や贈与税として納めなければなりませんが、役員退職金であれば税制面で大きな優遇措置を受けられるわけです。

②当期の利益を圧縮して、法人税の負担額を減らせる

役員退職金は、役員報酬と同じように会社の経費として計上できます。基本的に、利益を計上すればするほど翌年度に納める法人税が高くなるものですが、役員退職金を活用することで当期の利益を圧縮し、法人税の負担額を大きく減らせる可能性があるのです。

③自社株の評価を引き下げられる

経営者や重要な役割を担う役員は、会社に対する功績が大きいため、多額の退職金が支給されることになります。役員退職金が大きくなることは「会社の支出が大きくなり、会社の純資産が減少すること」を意味するため、自社株の評価を引き下げます。事業承継の際は、現経営者が後継者に対して保有株式を引き渡し、相続税や贈与税が発生します。ただ、相続税や贈与税の計算は自社株の評価額に基づくため、自社株の評価額を引き下げることで贈与税や相続税の負担額を軽減させられます。

役員退職金を活用した事業承継対策の注意点

メリットが大きい役員退職金を活用した事業承継対策ですが、以下のような注意点もあります。

1.退職金に充てる資金を準備しなければならない
2.現経営者は経営から完全に手を引かなければならない
3.役員退職金の金額は無制限に設定できない

それぞれ解説していきましょう。

①退職金に充てる資金を準備しなければならない

役員退職金の支払いは「現金」になるため、退職金の原資の積み立てをしておかなければなりません。事業承継を見越した退職金の準備方法には、主に「法人の生命保険の活用」と「小規模企業共済に加入」の2つがあります。1つ目の「法人の生命保険の活用」については、退職金の支払時期に満期を合わせる、あるいは保険を中途解約し、受け取った解約返戻金を退職金に充てるのが一般的です。

ただ後者の場合、2019年に税制が改正されたことにより、定期保険で保険料が全額損金に算入できるのは「解約返戻率が50%以下の法人向け定期保険」と「第三分野の法人保険で、被保険者1人につき年間保険料が30万円まで」です。2つ目の「小規模企業共済」は経営者自身が積み立てる退職金制度で、掛金の全額が所得控除になるため、長期間積み立てることができれば、まとまった資金を手にできるでしょう。

ただし、法人の損金に計上できませんし、加入できるのは従業員数が原則20人以下(卸売業、小売業、一部サービス業では5人以下)の会社役員などに限られるので注意しましょう。

②現経営者は経営から完全に手を引かなければならない

事業承継後に現経営者が会長になって経営をサポートするケースは多いものですが、国税庁から「実質的に退職したと同様の状態」と見なされない場合、役員退職金の損金算入が否認されるリスクがあります。否認された場合は効果が半減してしまうため、事業承継対策として役員退職金を活用する際には、現経営者は完全に経営から手を引くようにしましょう。

③役員退職金の金額は無制限に設定できない

支給する役員退職金が高額であるほど法人税の負担を軽減でき、自社株の評価を下げられるわけですが、高すぎる役員退職金は「不当な報酬」と見なされ、損金算入が認められない可能性があります。役員退職金は、会社に対する貢献や勤続年数を基準に計算されるのが一般的と考えられています。適正額を超える金額の退職金を用意することに法律上の問題はないものの、損金として計上するには適正額の範囲内に設定しなければなりません。

役員退職金の計算方法

適正額とされる役員退職金は、以下の計算式で算出されます。
役員退職金の適正額=最終月額報酬×役員在任年数×功績倍率 
 それぞれの用語を解説しましょう。

・最終月額報酬……役員を退任したときの役員報酬月額
・役員在任年数……役員に就任してから退任するまでの年数
・功績倍率……代表取締役だと「2〜3倍」といわれますが、倍率は各企業の状況によって異なる

例えば、最終月額報酬が100万円、役員在任年数が20年、功績倍率が3の経営者が退任した際の計算式は以下になります。最終月額報酬[100万円]×役員在任年数[20年]×功績倍率[3]=役員退職金[6000万円]

まとめ

役員退職金を活用した事業承継対策は、大きな節税効果を期待できる一方、高すぎる退職金の設定は損金算入の否認につながるリスクもあります。注意点をしっかり理解したうえで、役員退職金の適正額が不透明な場合は専門者に相談して設定するようにしましょう。

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賢者の選択 サクセッション編集部

賢者の選択サクセッションでは、⽇本経済の課題解決と発展のためには、ベンチャー企業の育成と併せて、これまでの⽇本の成⻑を⽀えてきた成熟企業∕中堅‧中⼩企業における事業承継をフックとした経営資源の再構築が必要であると考えています。 ビジネスを創り継ぐ「事業創継」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。 絶対解の存在しない事業承継において、受け継いだ経営者が事業を伸ばす きっかけとなる知⾒を集約していきます。

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